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【note連載版】ライトノベル回顧2023|毎週レビュー企画:2023年11月編

新月お茶の会の自称ラノベ担当・はじめまことが、今年1年のラノベ界隈を振り返る。週にひと月を取り扱い、12週間で1年を振り返ることを目的とする。蒸発した場合も『月猫通り2183号』に掲載予定なのでご心配なく。毎週土曜更新予定。

 この企画では、新月お茶の会のラノベ担当を自称するはじめまことが、各月のライトノベルを振り返り、印象深かった作品や界隈で盛り上がった作品・話題について語りつつ、その月の面白かった新作2シリーズを選んで1000文字前後のレビューをしていく。なお、対象作品はレーベル公式サイトの「n月の新刊」の分類(ラノベの杜スタイル)を基準とし、実際の発売日や発行日は無視するものとする。なお、ここで紹介される新作を私が全て読んでいるとは限らない。また、「界隈」とはX(旧Twitter)におけるラノベ界隈のことを指す。

 十一月くらいになってくると、「話題」という尺度で作品を測るのが随分と難しくなってくる。とりあえず初動の強さで評価するが、書籍版(『月猫通り2183号』収録)ではいくつか変更するかもしれない。

 十一月序盤では、まずスニーカー文庫から『依存したがる彼女は俺の部屋に入り浸る』が出た。酒カスヤニカスパチンカスのメフィストフェレス三人娘がとにかく可愛い。無垢にして超人間的である主人公が人間に堕とされる様はまるで宗教である。

 電撃文庫からは、葉月文先生の新作『さんかくのアステリズム』が出た。かつての同学年の姉と今同学年になってしまった妹という、幼馴染は同学年であるべきという宗教に所属している私には天啓のような設定である。

 もう一作、電撃文庫から、いのり。先生の『勇者になりたい少女と、勇者になるべき彼女』が出た。『私の推しは悪役令嬢』がアニメ化したいのり。先生だが、新作もやはり百合ファンタジーである。というか百合の人の百合しか書かない率高くないか。

 十一月中盤では、GA文庫から、茨木野先生の新作『有名VTuberの兄だけど、何故か俺が有名になっていた。』が出た。例によって配信は切り忘れる。二月の記事で軽く触れたが、十一月から十二月にかけてVTuberものが複数出た。Webでも書籍でも流行っているだけに、この流行はしばらく続くだろう。

 ファンタジア文庫からは、羊太郎先生の新作『これが魔法使いの切り札』が出た。何よりロクアカの完結がめでたい。長編の完結と同時に新作を始めているのもポイントが高い。後は続刊が出れば完璧である。

 もう一作、ファンタジア文庫から、道造先生の新作『彼女でもない女の子が深夜二時に炒飯作りにくる話』が出た。テーマは「資本主義」と「家族」。日本有数の進学校を舞台に、人間性を腹の中に置いてきた天才少年少女達が暴走するラブコメディ。この作品の魅力を説明できるだけの語彙力を私は持ち合わせていないのでとりあえず読もう。

 ガガガ文庫からは、西条陽先生の新作である『少女事案』が出た。後期ゼロ年代の香り漂う異能バトルのようなミステリのような何か。サブタイの勢いが強い。少なくとも「二番目彼女」よりは読みやすいが、確かに西先生の作品である。

 十一月終盤ではMF文庫Jから、MF文庫Jライトノベル新人賞最優秀賞『マスカレード・コンフィデンス』が出た。こんなコンゲームっぽいタイトルをしているが、中身はゴリゴリの異能バトルである。去年のMF新人賞は「死亡遊戯」が圧倒的だった一方で最優秀賞作品はあまり伸びなかったが、今年は順当に最優秀賞の評価が一番高くなりそうだ。

 オーバーラップ文庫からは、『クラスで一番かわいい女子はウチの完璧メイドさん』が出た。学内と学外の二面性ヒロインはここ数年で腐るほど出たが、学外の関係の方が長いのは意外と珍しい。

 大判では、電撃の新文芸からSAOの新作スピンオフである『ソードアート・オンライン オルタナティブ グルメ・シーカーズ』が出た。これに引き続いていくつかスピンオフが出ている。SAOもまだまだ現役のようである。

 星海社FICTIONSからは、『あまがみエメンタール 新装版』が出た。かつて瑞智士記先生が一迅社文庫から出したガルコメである。六月の『幽霊列車とこんぺい糖』といい、瑞智士記先生の星海社FICTIONSでの復刊ラッシュは続いていくのだろうか。

 PASH!ブックスからは、『あなたの未来を許さない』が出た。百合異能バトル。上下巻同時刊行という最近のライトノベル、特に大判では珍しい形態での出版である。この月はこれの他に『没落令嬢の悪党賛歌』も上下巻同時刊行だった。2-30万字程度の作品を出すのに上下巻で出し切ってコミカライズで売っていく手法は(長さ的にコミカライズしやすいという意味でも)十分有用であるように思うので、どんどんやってほしい。

 さて、十一月といえば、「このライトノベルがすごい!」の季節である。今年の「このラノ」は新作の上位ランクインが大量に増え、大きく話題になった。というわけで、今月のコラムはこのラノについて。

 「新作の大量ランキング入り」は分かりやすく協力者の人数の増加に起因しており、つまり「このラノ」の運営サイドとして総合ランキングに新作を入れたいという思惑があったということである。去年から行われた五作品縛りもこの一環であろう。

 一方で、一般票と協力者票の乖離は深刻だ。文庫1位の「天使様」とか10位の「たんもし」などweb票のみで協力者票は一票も入っておらず、一般票ランキングの新作での最高位は18位の『魔女と傭兵』。総合ポイント70ポイント以上(上位35位)で一般票と協力者票のポイントがの差の絶対値が20以下な作品は『週に一度クラスメイトを買う話』、『かくて謀反の冬は去り』、『アラサーがVTuberになった話』の3作品のみ。いくらでもデータは出てくる。

 まあそもそも「このラノ」が始まった頃と比べれば新作・新刊の数は大きく増えているし、エンタメ全体の傾向も変遷していくなかでライトノベルの新作を読み続けられる人間が減っていくのはまあ想定できることではある。ライトノベルのアニメ化が増えることにより、著名作だけを読んでいる人間も増えていると考えられる。いずれにせよ「このラノ」の立ち位置が変化していくことは確実な中で、編集部は新作ブックガイドとしての立ち位置を選んだということだろう。

 今年の流行と言われるラノベミステリ関連では、新作5位に『僕らは『読み』を間違える』、8位に『不死探偵・冷堂紅葉』、10位に『シャーロック+アカデミー』、16位に『十五の春と、十六夜の花』、35位に『魔王都市』がランクイン。八月までの作品は大体ランクインしたと言えるだろう(個人的には『魔女の怪談は手をつないで』、サークル的には『勇者認定官と奴隷少女の奇妙な事件簿』が入っていないのは残念だが)。ラノベミステリの流行がこの先どうなるかはわからないが、『誰が勇者を殺したか』なんかもあることだし、むしろ来年の「このラノ」がラノベミステリの狙い目となるかもしれない。

【↓今週のレビュー作品】

(はじめまこと)


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