【note連載版】ライトノベル回顧2023|レビュー:『依存したがる彼女は僕の部屋に入り浸る』 萬屋久兵衛 著(角川スニーカー文庫)
端的にこの作品を評するなら「宗教」であろう。意図的に個人を消された、聖人とは言えないまでも超人間的な主人公が、三人のメフィストフェレスによって堕落し、最後には人間的な悩みを解決して終わる。なんなら最後には挿絵まで出てくる。堕落を知り、退廃的な生活を送り続ける中で、だんだんと個性を帯びていくのである。きっと次巻の最後では主人公のセリフが用意されているに違いない。
とまあそんな微妙にピントを外した堅苦しいレビューは置いておいて、一応主人公について補足しておくと、この作品の主人公にはセリフがない。一人称で進んでいくが、主人公のセリフが主人公の心理描写として描かれるので、一人称や口調についての情報は存在せず、主人公が喋ったのか、喋っていないが相手が勝手に読み取ったのかがわからなくなっている。ついでに名前も出てこない。外見の描写もないが、最後に挿絵で一度だけ出てくる。そして人間に興味がない、というより人間を人間として見ていない。そんなおよそ読者の共感とは無縁な主人公で物語はスタートする。
さて、次に紹介するべきは魅力的な三人のメフィストフェレス達であろう。まずは一人目、西園寺春香。重度の酒クズにしてコミュ障で、心の中にエロオヤジを飼っている。異性同性問わずセクハラ発言を繰り返し、特技はAVの目利き。酒豪であまり酔うことはないが、一度酔えばやっぱりとんでもないことを口走る。主人公に酒を教えようと酔った勢いで主人公の家に押しかけてくる。家では親の目が気になって酒が飲みづらいからと主人公の家にたびたび押しかけてくる。なんでこいつヒロイン面できるんだ。
続いて二人目、北条夏季。パチンカスにしてアホ。アホの子でもあるがアホ。見ず知らずの主人公に一限の代返だけ頼んで平日朝からパチンコに繰り出しては大体損している。たまたま買った日に学食を奢ってくれるところから関係が始まるが、翌日には大負けして奢ってもらっている。終バス逃した後もパチンコが打てるからと主人公の部屋に転がり込んでくる。なんでこいつヒロイン面できるんだ。
そして三人家、東雲冬実。ヤニカスにして露出狂。本人は「熱をこもらせがちな体質なので仕方ない」とか言い訳しているがそもそも人の家の庭でパンツとバスタオルで涼んでいる時点で言い訳のしようもない。タバコを吸うのに理想的だとか言って主人公の部屋に入ってくる。なんでこいつヒロイン面できるんだ。
とまあ三人揃って少々トんでるわけだが、魅力的であることに変わりはない。四人によって作られる退廃的で爛れた空気は一読の価値ありである。一大学生、一文芸部員としても「下手すりゃうちのサークルもこう成りかねないな」という謎の臨場感がある。此処数年でだいぶ増えた印象のある大学生ラブコメだが、大人と子供の間のモラトリアムとしての大学生としてこのような描き方をする作品はなかなか新鮮で、とても楽しめた。続刊も決まっているようなので、このまま続いて行ってほしい。
(はじめまこと)
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