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量子スピン:「思考の現実化」への鍵

前々回では“極大(マクロ)の宇宙”について(*1)、そして前回の記事では“10の1兆乗をはるかに上回る巨大数(*2)”について考察してきました。今回は反対に極小(ミクロ)の“量子(Quantum)”レベルの現象について考察していきます。

素粒子には“スピン (spin)”という概念が存在します (Figure 1)。スピンとはフィギュアスケート選手の“スピン”、“コマ回し(spinning top)”のスピンと同じような軸に沿った自転運動を指します。以前の記事(*3, *4)でも紹介したように、電子などの素粒子は“粒子”であると同時に“波”の性質も持っています。このため厳密にはこのイメージ通りではないかもしれませんが、このようなスピン回転をしていると考えると理解しやすいと思われます。

今回はこの“スピン”を実証した重要な研究を紹介します。量子力学の世界ではよく知られている“シュテルン–ゲルラッハの実験 (Stern-Gerlach experiment, *5, *6, *7)”について解説していきます。この実験が公表されたのも1922年と約100年前の研究ですが、今の量子力学において外すことのできない重要な研究に位置づけられています。


・実験の概要

この実験で使われた装置はFigure 2に示されていますが、1の高温炉の中から銀原子(Ag: Silver)が1粒ずつ(塊でない状態で)放出されます。途中で2のように細いビームとなり、傾斜磁場のかかった長い経路(3)を通過して反対側に出てきます。

このとき反対側のフィルムに銀原子が付着しますが、磁場 (Magnetic field) が存在しないときは直進して1箇所に集中すると考えられます。“ここに磁場が存在するとき、銀の軌道がどのように変化するか?”というのがこの実験のポイントです。

この実験は量子力学の基盤となる実験です。どのような結果が予想されるかというと、Figure 3に示すように、まず磁場が無いとき (Magnetic field - )は銀の粒子は一本の線になる(スリットが横長なので)のはほぼ間違いありません。


・古典物理学的予想と量子力学的予想

ここに磁場が与えられたとき(Magnetic field +)、古典物理学的予想と量子力学的予想が変わってきます。古典物理学では銀原子が持つ磁気モーメント(*8)は“どこまでも微小な値を取りうる”から“ある範囲内で連続的な値を取る”と予想され、Figure 3 (4)のように連続的に広がった像が現像されるはずです。(※磁気モーメントとは、電荷を持つ物体の運動による磁力、荷電粒子などが持つ磁気能率、磁力の大きさと大雑把に捉えて問題ないです。)

これに対して量子力学では“ある力に対して最小単位(量子)が存在する”という考え方です。このため“磁気モーメントも量子化(quantization) されて離散した値をとる”と考えられ、Figure 3 (5)のように“決まったルートしか通らない(中途半端な中間値は存在しない)”という結果が予測されます。


・実験結果

結果はFigure 4に示されていますが、これはゲルラッハ氏から有名な物理学者のボーア (Niels Bohr, *10) 氏に送られた手紙で、この発見を伝えたかった意図が伝わってきます。Figure 4左が“磁場のない状態”、Figure 4右が“磁場をかけた状態”です(90度回転させるとFigure 3と一致します)

Figure 4右側を見て分かるように、中心部に空間ができ銀の粒子が2方向に完全に分離しているのが確認できます。これはFigure 3 (5)に示されたように“磁気モーメントは離散した値しかとらない”つまり“結果は量子力学的予測通りだった”ということを示すものです。

Figure 5左写真、Figure 5中イラストに磁場と銀粒子の軌道の関係が示されています。さらにFigure 5右に“磁場が無いときの軌道(青矢印)”と“磁場があるときの軌道(赤矢印)”の重ね合わせのイラストが描かれています。

このFigure 5右の図で観察されることは、「磁場あり(+)のときは磁場なし(−)のときの軌道は消失する」そして「磁場あり(+)で見られる2つの軌道は磁場なし(−)のときの軌道の両側に現れる」ということが分かります。

この結果が示すことは「同じ磁場をかけたときに上に行く粒子(↑)と下に行く粒子(↓)の2種類が存在する」そして「どちらにも行かない(0)粒子は存在しない」ということが示されています。


・磁気モーメントの正体と“銀”の必然性

まずこの実験で使われた“銀 (Ag, Silver)”の原子について見てみましょう。Figure 6が銀原子の構造です。銀は原子番号47であり、原子核の周囲に47個の電子を所持しています。この電子を軌道ごとに分けていくと46個(K殻 2個, L殻 8個, M殻18個, N殻18個)は軌道に収まっていて、一番外側のO殻に1個だけ電子があります。

詳細は省きますが、内側の46個の電子については磁気モーメントは釣り合っていてゼロの状態です。そのため、この1個の電子の磁気モーメントが実験結果に影響をもたらしている、と言うことができます。


・一歩進んだ理解

この1個の電子は運動していますが、2つの運動で磁気モーメントを発生させます。1つは軌道運動で、もう1つは自転(スピン)運動です。電子は原子核の周りを回る軌道運動によって磁気モーメントを発生させる可能性があります。しかし銀原子の最外殻の5s軌道の電子においては軌道運動による磁気モーメントは0であることが分かっています(他の電子はそうとは限りません。ちなみに原子核の磁気モーメントもこれに比べると非常に小さいことが分かってます。詳細知りたい人は専門書参照 *11)。

ということは、この原子が持つ磁気モーメントは“ほぼ1つの電子の自転運動(スピン)に由来する”ということができます。これが、「電子が1個余っている原子」の中でも「銀原子である必要があった」という理由です。

Figure 5右の図にあるように、磁場を通過した電子は「元のまま(0)」というものは無く、「引き寄せられた(+)」あるいは「反対側に離れた(−)」という2通りに分かれました。この結果が意味するのは「電子のスピンは0が無く、プラスとマイナスの2つの値しか存在しない」ということを示しています。

実際にはFigure 7左上に示すように電子が右回転/左回転することによって磁気モーメントが下向き/上向きと変化します。電子のスピン量子数は1/2で、スピン+1/2とスピン-1/2の電子が存在しています。概念としてはFigure 7左下のように円錐状に回転して上下に磁気モーメントを発生していると考えると良い場合もあります。

これらスピンは「上向き/下向き」と表されることもありますし「右回り/左回り」と表される場合もあります。これも概念的なものなので方向にとらわれず「素粒子はスピンという2つの反対向きの独立したパラメータを持っている」と認識すると良いでしょう。しかし、これまでの記事を読んでいる人なら分かるように、電子は粒子でもあり波でもあるのでこの図のようにきれいに図式化できるわけではありません。「形が有るようで無い、無いようで有る」というように「常に頭を柔らかくして」受け止めてください。これも「形を超越して理解する形而上学」の一環と考えてください。

・実験の結果の要点
 ・磁性体ではない銀原子が傾斜磁場によって軌道変化した
 ・銀原子はかならず+か−どちらかに移動した
 ・変化した軌道は決まった場所で、その間は存在しなかった
 ・軌道が変化しない銀原子も存在しなかった
 ・銀原子は1つだけ不対電子を有している
 ・この磁気モーメントは+α、-αの2値しかとらなかった
 ・この結果が空間量子化(space quantisation)を示すものとなった
 ・これは当時知られていなかった電子スピンを示唆していた
 ・そして電子のスピンが“量子化”されていることを意味していた
 ・この1つの電子のスピンが銀原子の磁気モーメントに影響していた
 ・古典物理ではなく量子物理学が成り立つことが示された


・実験を成功に導いた偶然

実はこの研究には別のエピソードがあります。ゲルラッハとシュテルン両氏は銀粒子をフィルムに照射する実験を行なっていました。しかし当初は銀粒子の濃度が薄いため、その銀粒子の痕跡を肉眼で見ることができなかったようです。しかし、あるとき喫煙家である二人が葉巻をふかしながら実験をしていると、最初何も写っていなかったプレートに照射された銀の痕跡が現れ始めました

銀のアクセサリーを持っている人なら銀を硫黄の出る温泉に持っていくとどうなるか想像つくと思いますが、硫化銀 (Ag2S)となって黒く変色してしまいます。これと同じように付着した銀が硫黄で可視化する現象が実験室でも起こりました。しかも、高級葉巻ではなく肥料に硫黄化合物がたくさん使用された“安い葉巻”というのがポイントでした。

これによって僅かな銀粒子の痕跡でも可視化できるようになり、実験の成功に役立ったといいます。しかもただの硫黄ではうまく反応せず、安い葉巻をふかした煙でないとうまく発色しなかった、と言われています。その様子は文献にも紹介されるほどであり(Figure 8, *12)、ゲルラッハ氏、シュテルン氏いずれの写真も葉巻を持ちながら実験する様子が撮られています。


・形而上学的な意義

形而上学の世界では硫黄(Sulfur)が非常に重要な3大元素の一つとされています(Figure 9)。硫黄は火を司る元素で火はアイデア、発想、起点を意味します。今回銀粒子を用いたシュテルン・ゲルラッハ実験によって“スピン”という量子力学的現象の解明の発端がもたらされました。この実験の成功に“硫黄”と“火”が見えないところで大きな役割を果たしたことは間違いありません。これをただの偶然ととらえるか、それとも見えない因果関係で導かれた人類の進化ととらえるか、それは読者各自の考えに委ねます。

最後になぜこの“スピン”が重要かというと、“見えない因果関係”というものを実証するのに非常に重要な現象となるからです。“見えない因果関係”が科学的に立証されたとすると、瞑想による「思考の現実化」や「遠隔ヒーリング」「引き寄せの法則」など非科学的と思えるような“運や偶然や思い込み”とされる事象を説明できる鍵となるかもしれないからです (*4, *13)。古典物理学から量子物理学の時代に突入する際に物理学者達が古い概念を捨てる必要があったように、我々も次の時代に行くために“古い常識”という概念を捨てなければならないかもしれませんね。

(著者:野宮琢磨)

野宮琢磨 Takuma Nomiya  医師・医学博士
臨床医として20年以上様々な疾患と患者に接し、身体的問題と同時に精神的問題にも取り組む。基礎研究と臨床研究で数々の英文研究論文を執筆。業績は海外でも評価され、自身が学術論文を執筆するだけではなく、海外の医学学術雑誌から研究論文の査読の依頼も引き受けている。エビデンス偏重主義にならないよう、未開拓の研究分野にも注目。医療の未来を探り続けている。

引用:
*1. 二極の宇宙に見る普遍の法則https://note.com/newlifemagazine/n/nbd29cacb109e 
*2. 「数」の瞑想「3」
https://note.com/newlifemagazine/n/n217099224853 
*3. 「観る」ことで「現実が変わる」?:二重スリット実験 https://note.com/newlifemagazine/n/nf11ac38b370a 
*4. 「意識」が物質を変えることを証明:二重スリット世界規模実験 https://note.com/newlifemagazine/n/n19342d9a4f56 
*5. W. Gerlach, O. Stern, “Der experimentelle Nachweis der Richtungsquantelung im Magnetfeld”, Z. Phys. 1922, 9, 349– 352.
*6. W. Gerlach, O. Stern, “Das magnetische Moment des Silberatoms”, Z. Phys. 1922, 9, 353–355.
*7. Bauer M. The Stern-Gerlach Experiment Translation of: “Der experimentelle Nachweis der Richtungsquantelung im Magnetfeld”. (2023). arXiv:2301.11343. https://doi.org/10.48550/arXiv.2301.11343 
*8. 磁気モーメント-Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/磁気モーメント 
*9. Gerstner, E. Answers on a postcard. Nature Phys 4 (Suppl 1), S6 (2008). https://doi.org/10.1038/nphys857 
*10. ニールス・ボーア-Wikipedia.
https://ja.wikipedia.org/wiki/ニールス・ボーア 
*11. Pieter Kok, Advanced Quantum Mechanics PHY472. The University of Sheffield. 2015 August. https://www.pieter-kok.staff.shef.ac.uk 
*12. Friedrich, B., & Herschbach, D. (2003). Stern and Gerlach: How a bad cigar helped reorient atomic physics. Physics Today, 56(12), 53-59.
*13. “遠隔ヒーリング”は科学的に証明できるか?
https://note.com/newlifemagazine/n/n349ffafbd715 

画像引用:
*a. Image by upklyak on Freepik. https://www.freepik.com/free-vector/magic-energy-ball-blue-fire-power-orb-game-icon-with-light-glow-effect-fireball-sphere-round-vector-portal-swirl-element-3d-cristal-flame-burst-flare-with-steam-set-abstract-radial-asset-kit_126735578.htm
*b. Author: Tatoute. https://en.wikipedia.org/wiki/Stern–Gerlach_experiment#/media/File:Stern-Gerlach_experiment_svg.svg
*c. https://ja.m.wikipedia.org/wiki/ファイル:Electron_shell_047_Silver.svg



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