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二重スリット実験:瞑想熟練者と一般人の違い

・二重スリット実験の基礎知識

今回はしばらくぶりの二重スリット実験(Double-slit experiment)に関する話題です。二重スリット実験 (*1) とは簡単に説明すると、まず非常に細いスリット(すき間:slit)が2本開けられた板を用意します。スリットの幅は1ミリ以下、スリットの間隔も1ミリ以下という非常に微細な構造のものが一般的です。

その二重スリット板に光子 (photon) や電子 (electron) のような素粒子や量子 (quantum) を投射します。このとき、光量をかなり絞っていくと光子が少なくなっていき、これ以上分割できない単位の1個の粒子 (光子=光量子: photon) にまで絞ることができます。そして1個ずつ投射された光子はスリットを通過してその先の検知器 (プロジェクター: projector/detector) に投影されます (Figure 1) 。


このとき、通常の状態だとFigure 1Aのように、何本もの縦縞(たてじま)が投影板に写し出されます。たとえ光子を一個ずつ投射しても、点が増えていくと縞模様が現れてきます (Figure 2)。

これは“光が波 (wave) の性質を持っていて、波が干渉するために干渉縞(かんしょうじま)が出現する”ということを意味しています。“光は波の性質を持っている”という疑いようの無い事実です。これによって“光は波 (wave) の性質も、粒子(particle) の性質も両方持つ二重性 (duality) がある”ということが現在の認識です。

しかし、ここで疑問が出てきます。「光子が射出される時は1個の粒子であり、投影板に着弾した時も1個の粒子である。それなら二重スリットを通過する時はどうなっているのか?」という自然な疑問です。

そこで、「光子が二重スリットを通過する瞬間を観測する」または「光子がどちらのスリットを通過したか検知できるようにする」と、干渉による縞模様が消失するという不思議な現象が起こります (Figure 1B)。

他に何もしていない、ただ「光子がどちらを通ったか観測しようとする」だけで「光子は波の性質から粒子 (particle) の性質に切り替わる」という現象が起こります。この実験は「人間の観測行為は物理法則に影響をおよぼさない」「人間が見ていようが見ていまいが、自然の現象は同じように起こる」という古典物理学の常識を覆しました。

“光が波になるか、粒子になるか、それが観測者の意識によって決まる”という、物理の世界に人の意識という計測できない要素が介入してくることを認めざるを得ない結果が次々と現れました。この二重スリット実験に関しては過去に取り上げているので読んでない人は読んでみてください (*3, *4, *5, *6)。そしてこの二重スリットの問題は未だに全て解明されているわけではありません。今回はそれらの検証を深めたいくつかの実験を紹介します。


・今回取り上げる研究

紹介する研究は ”Consciousness and the double-slit interference pattern: Six experiments (意識と二重スリット干渉パターン: 6 つの実験) *7”というカリフォルニアの研究所からの報告です。

今回用いられた二重スリット実験装置はFigure 3Aにあるように卓上に置けるくらいの装置です。二重スリットは幅10µm、スリット間隔は200µmという微細な構造でヘリウムネオン (HeNe) レーザーが光源に用いられました。この装置内部では二重スリットに光が照射され続け、検知器にはFigure 3Bのような干渉パターンが検出されます。これは通常の状態では光が二重スリットを通過する際に波 (wave) として通過しているため、このような干渉縞のパターンが検出されます。

もし二重スリットを通過する光子に対して何らかの変化が起こった場合は、このFigure 3Bの干渉縞パターンに変化が起こり、いくつかのパラメータを数値化することで変化を客観的に捉えることができる、という実験モデルです。例えば意識を向けることによって「波の性質の光子が減少し、粒子の性質の光子が増加した」場合は干渉縞の強度 (intensity) が変化するはずです。

・どのように光子に影響をもたらすか

参加者はFigure 4のような小部屋に入り、そこには二重スリット装置とパソコンと参加者だけが入っている状態です。参加者はコンピュータからの音声によって「リラックスしてください」と言われた時は「意識を二重スリットに向けずにリラックスする」という行動をとり、音声によって「ビームに影響を与えてください」と言われた時は「二重スリットのビームに注意を向ける」という行動をとるよう説明を受けました。この行動は瞑想と同じで「心の目で二重スリットのビームを観察する」という説明がなされました。

参加者は約15秒ごとに「ビームに注意を向ける」ことと「注意を逸らしリラックスする」ことを繰り返し、これを40セット繰り返しました。もちろんFigure 4の椅子に座り、装置に近付いたり触れたりすることは一切無いように指示されました。部屋の中のコンピュータには二重スリットを通過したビームの波形や、波形から計算されるパラメータがグラフ化されたものが表示されており、参加者は意識を向けたことによるビームの変化などをリアルタイムで観察できるようになっていました。

比較対照のコントロールとしては、“誰もいない状態でコンピュータアナウンスとビームの計測を実行する”という条件でデータが取られ、参加者のいる状態と比較されました。

・結果1

15秒の意識集中/15秒のリラックス、これらを40回/1セッションとして、合計35セッションが行われました。パラメータ(R値)は毎秒1回測定され、合計21000回の測定が行われました。35回のセッションのうち、24回は瞑想熟練者によって、残りの11回は瞑想に慣れてない人によって行われました。

Figure 5は横軸がセッション時間、縦軸が測定パラメータ (R値) のグラフです。グラフ中央の直角に曲がった矩形のグラフは“注意を向けている時 (Towards)”と“注意を逸らしてリラックスしている時 (Away)”の切り替えを表しています。このグラフの右側に注目してみると、“注意時 (Towards)”と“リラックス時 (Away)”の平均グラフがあり、はっきりと差が出ていることが分かります。「意識を向けた時 (Towards)、明らかに有意にR値が低下している」ということが示されており、言い換えると「意識を向けた時明らかに波形が変化している」ということを意味しています。

次のFigure 6はリラックス時 (Away) から意識時 (Towards) に切り替わるときのタイムラグを解析したグラフです。コンピュータから「ビームに意識を向けてください」とアナウンスがあってからそれを認識して意識を向けるまでに少しの時間差が生じます。このグラフによるとマイナス2秒の時点で最もスコアが低下しており、約2秒のタイムラグを考慮すると最も適切な結果が得られることが示されています。

しかし、Figure 6のグラフを見るとコントロールは当然ながらほとんど変化が見られないのに対して、瞑想熟練者も非熟練者も測定値に明らかな変化が生じていることがよく分かります。

しかも、瞑想熟練者 (med) と非熟練者 (non med)のグラフははっきりと違いが出ていて、やはり瞑想熟練者の方が測定値がより明瞭に低下していることが示されています。これは数値でも出ていて、Figure 6下段の表でも“マイナス2秒ラグ解析のp値(0.05以下で有意とみなせる:右端の値)”を見ると非瞑想熟練者 (Nonmeditators) では有意差はない (p>0.05) ですが、瞑想者(Meditators) や全参加者 (All sessions) の解析ではいずれも有意な変化 (p=0.05, p=0.03) があったことが示されています。


・実験2:追加実験

これまでの実験に比べ、注意を向ける時間を15秒から30秒に延ばして同様の実験が行われました。3人の瞑想熟練者による11回のセッション、4人の一般人による7回のセッション、加えて禅寺における12人の瞑想者による13回のセッション、合計31セッションが実施され解析されました。

結果はFigure 7に示されていますが、この中では瞑想熟練者が有意に二重スリット波形の変化を起こすことが示されています(p=0.02)。一般人では波形の変化は有意ではありませんでした (p=0.37)。

この時新たに加えられた禅寺での瞑想者によるセッションでは有意な差は見られませんでした。このことに関して、・遠隔地でFigure 4のような整えられた部屋ではなかったこと、・不安定な電力線のある田舎であったため電力コンバーターなどを用意する必要があったこと、など環境的な要因により厳密な比較はできないが参考のために結果は載せた、と著者らはコメントしています。


・実験3:熱に着目した追加実験

これまでの実験結果からは“参加者が意識を向けることによって二重スリットを通過するビームの波形に変化が現れた”という解釈ができます。しかし、さらに疑い深い人からすると、「椅子から動かなかったとしても注意を向ける時に顔を向けたり体を起こしたりすることによって、僅かな熱放射や赤外線の違いが発生してそれが二重スリット波形に影響しているのではないか」という意見もあるかもしれません。そのためにこの追加実験が行われました。

この実験3では、Figure 4にある実験室の中でT1 (レーザー装置近く)、T2 (二重スリットの近く)、T3 (二重スリット装置のケースの近く)、T4 (参加者から1.5m離れた場所)の4箇所に精密な熱センサーを設置し、どのような影響があるかを解析しました。

実験は30秒間隔の注意集中とリラックスを40回繰り返すことを1セッションとして、6人の瞑想熟練者による22回のセッションと7人の一般人による11回のセッション、合計33セッションが解析されました。

結果はFigure 8に示す通りで、ここでもやはり瞑想熟練者によるセッションでは有意に二重スリット波形の変化が起こったことが示されています (p=0.03, p=0.04)

ここでその下の Selected subset (選択されたサブセット) に注目します。このサブセットとは“特に信号変化の強かったセッション”を抽出しています。そのため変化の有意性に関しては p=0.0001 と極端に低いのは当然の結果です。これらの「変化が大きかったセッションにおいては温度変化の影響があったのではないか?」という疑問に対する温度の解析が行われました。

Figure 8の下段4項目はいずれもT1〜T4における温度変化を解析したデータです。こちらを見ると、いずれも“波形変化の大きかったセッションと波形変化の小さかったセッション間で有意な温度変化はなかった”、つまり“温度の違いによって波形変化が生じていた可能性は否定できる”ということが分かりました。

しかし興味深いことに、これらの波形変化が大きかったセッションではいずれも温度はプラスに傾いており、“有意ではないが僅かに温度が上昇している”という傾向がみられたようです。著者らも結果との因果関係は不明だが興味深い事実としてコメントしています。

・実験4:時系列の操作

次は時系列を変更して実験を行うと結果はどうなるか?という追加実験です。これまでの実験では参加者は実験室の中に入り、アナウンスに従って二重スリットに注意を向けたりリラックスしたりしますが、注意を向けた時に部屋のPCのモニターには二重スリット装置の波形がリアルタイムに表示されています。

しかし、この実験ではリアルタイムの波形を表示せずに「3ヶ月前に誰も観測していない状態で録画された波形」をPCのモニターに表示していました。参加者にはこのことは知らされず、参加者はリアルタイムの画像だと思って注意を向けています(Figure 9上段)。これによって「参加者は過去の画像を見ていることを知らずに意識を二重スリットに向けていても現実の波形は変化するのか」ということを調べる目的で行われたようです。


結果はFigure 9下段の表に示されていますが、やはりこのような条件下でも二重スリットを通過したビームの波形の変化は引き起こされたようです。しかも、瞑想熟練者はこれまで通り一般人よりも明らかに有意な変化が観察されました (p=0.006, p=0.005)。この結果から「過去の録画再生を見ていても意識を向けると現在の光の性質に変化が起こる」ということが示されました。


・4つの実験のまとめ

これまでの4つの実験では瞑想熟練者による67セッション、一般人による41セッション、禅寺での瞑想者による遠隔の13セッションの合計121セッションで135000を超えるデータ (R値) が収集されました。これら全ての波形の変化をスコア化したグラフがFigure 10左に示されています。これによると瞑想熟練者 (med) も一般人 (non med) も全体 (all) も誰も観察していない状態(control) と比べると明らかに変化していることが分かります。

しかし、Figure 10右の表のようにデータとして見ると全セッションで有意な変化 (p=0.015, p=0.0097) が出ていますが、瞑想熟練者のセッションにおける変化が明らかに強く (p=0.00007, p=0.00007)、全体のデータを牽引していることが分かります。対して一般人/非瞑想熟練者だけで解析すると有意な変化は見られなくなってしまいます (p=0.84)

Figure 11はこれまでの4つの実験を瞑想熟練者、一般人、全体、コントロールによって分けた解析グラフです。このグラフでも瞑想熟練者(赤丸)と一般人(青丸)の違いが明瞭です。



・瞑想熟練者と普段瞑想をしてない人の差が予想以上に大きい

特にFigure 10やFigure 11を見ると一目瞭然ですが、瞑想熟練者と一般人で“全く反対”と言っても良いくらいに差が出ていることが分かります。非瞑想者が「差を打ち消す」ような変化を起こしているのに対して、瞑想熟練者が「それを上回って強い変化を起こしている」ために全体でのデータに差が現れているとも言えます。


・瞑想しない人が念じても何も起こらないかもしれない

これまでは「二重スリットを通過する素粒子に意識を向けると波の性質から粒子の性質に変化が起こる」ということが科学的に証明されてきましたが、「誰でもどんな条件でも同じ」というわけでは無さそうです。

過去に紹介した研究 (*5, *6) のように誰が見てもわかるように機械的に計測しようとした場合は「非常に正確に全く誤差もなく」、「波の性質と粒子の性質が切り替わる」ということが示されましたが、「人間の意識で観る」場合は、「変化を起こすことは可能」であるが「人による」ということが今回の実験から見えてきました。

「意識も肉体と同じで使わなければ何も起こらない」「鍛えなければ力も弱い」「瞑想熟練者のように日々鍛錬を行なっていれば変化を起こしやすくなる」ということが言えそうです。このような二重スリット実験も実験設備も重要ですが「誰が行うか」によって結果が全く変わることに注意が必要です。“変化を起こせるかどうかも全ては意識によって決まる”と言っても過言ではありません。日々意識の鍛錬を行なっていくように努めましょう。

(著者:野宮琢磨)

野宮琢磨 医学博士, 瞑想・形而上学ガイド
Takuma Nomiya, MD, PhD, Meditation/Metaphysics Guide
臨床医として20年以上様々な疾患と患者に接し、身体的問題と同時に精神的問題にも取り組む。基礎研究と臨床研究で数々の英文研究論文を執筆。業績は海外でも評価され、自身が学術論文を執筆するだけではなく、海外の医学学術雑誌から研究論文の査読の依頼も引き受けている。エビデンス偏重主義にならないよう、未開拓の研究分野にも注目。医療の未来を探り続けている。

引用/参考文献

*1. Double-slit experiment. Wikipedia. https://en.wikipedia.org/wiki/Double-slit_experiment 
*2. 単一フォトンによるヤングの干渉実験(浜松ホトニクス/1982年): HAMAMATSU PHOTONICS. (Youtube). https://www.youtube.com/watch?v=ImknFucHS_c 
*3.「観る」ことで「現実が変わる」?:二重スリット実験https://note.com/newlifemagazine/n/nf11ac38b370a 
*4. 「意識」が物質を変えることを証明:二重スリット世界規模実験https://note.com/newlifemagazine/n/n19342d9a4f56 
*5. 量子の最新研究と因果律の崩壊?https://note.com/newlifemagazine/n/nf66f91110a61 
*6. 「量子」と「時間」と「世界」の謎解きhttps://note.com/newlifemagazine/n/n96af4cbc0890 
*7. Radin D, Michel L, Galdamez K, Wendland P, Rickenbach R, Delorme A. (2012). Consciousness and the double-slit interference pattern: Six experiments. Physics Essays, 25(2).

画像引用:
*a. https://icooon-mono.com/11043-free-desktop-pc-icon/
*b. https://en.ac-illust.com/clip-art/23815746/male-back-view
*c. https://www.freepik.com/free-ai-image/view-man-practicing-mindfulness-yoga-fantasy-setting_171507705.htm

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