原初の光“CMB”から分かる宇宙の大きさ
前回の記事では宇宙の初期、ビッグバンから数十万年後の初めて光が解放された時の名残りが“宇宙マイクロ波背景放射(Cosmic Microwave Background: CMB)として現在でも観測できることが示されました (*1)。それによって何が分かるのか、これらからどのような情報が得られるのか、という観点から宇宙の神秘を探究していきます。
過去の記事でも紹介したインドのヴェーダを起源とする超越瞑想(Transcendental Meditation, *2, *3)や形而上学の継承者によって編纂されたMAX瞑想(MAX Meditation tm, *4, *5)においても“宇宙と意識を融合する”、“世界と自己が一体になる”というプロセスは非常に大きな意味を持ちます。途方も無い広さの宇宙をどうやって測るのか、人類がどのようにそれを積み重ねてきたのか、今回も時間と空間に対する意識を広げて宇宙の瞑想を行っていきましょう。
・宇宙の形を知る
はじめに宇宙の形がどうなっているかを考えてみます。過去の記事「宇宙瞑想:“宇宙の果て”について考える (*6)」で解説したように地球の表面は有限です。しかし、どこまでいっても端に辿り着くことはなく空間が途切れたりもしていません(Figure 2左)。
宇宙の場合もFigure 2右のように、宇宙空間は計り知れないほど広いですが、空間が途中で終わったり端があるわけではなくどこかで連続していると考えられます。
「端と端がつながった3次元空間」をどう考えるかというとFigure 3左の図のように表すことができます。まず空間の端のAと反対側のA' をつなげてこの軸で空間が連続することになりました。そして垂直方向の端Bと反対側のB'をつなぐことでドーナツ状の形状が出来上がります。
このドーナツ状の形状を“トーラス (Torus, *7)”と言います。実際には3次元空間にはA方向とB方向のみではなくもう1軸ありますので、この図は模式図と考えてください。3次元空間のX/Y/Z軸の両端をつなげるので本来は“3次元では表現不可能”です。このトーラスというのは“3次元の宇宙空間がこのような形に曲げられている”と考えると良いです。宇宙は4次元から見るとFigure 3右のように見えます。“空間の4次元から見た宇宙”は3次元的な日常の思考では想像できないので瞑想のトレーニングとして想像してみると良いと思います。
ただし、今回はより分かりやすくするために“4次元トーラス宇宙”から次元を下げて“3次元球体宇宙”として考えていきます。Figure 4右図のように宇宙空間が平面として球体の表面に張りつけられていると考えていきます。
“宇宙が拡大している”ということはFigure 4右図で考えると“球体が大きくなり宇宙空間(表面積)が膨張している”と擬似的に考えることができます。
・宇宙マイクロ波背景放射(CMB)を思い出す
Figure 5は前回の記事(*1)を読んだ方なら覚えていると思いますが、宇宙マイクロ波背景放射(CMB, *8, *9)という「宇宙で最も古い光」と考えられている信号です。
簡単におさらいすると、「ビッグバン以降、宇宙は膨張し続けており過去の光や地球から遠い天体ほどその光が引き伸ばされ、眼に見える可視光線ではなくマイクロ波という電磁波になっています。この信号(CMB)の発生源よりも速く地球から遠ざかっている天体があったとしても、遠ざかる速度の方が速いため、そこから発せられる光は地球に到達することはできません。つまりCMBの届く範囲が観測可能な宇宙の範囲」ということになります。
宇宙の大きさとCMBの観測結果で以下の3つのパターンが考えられます。
・パターン I
1つの例として、もし“地球から最も離れた場所から光が届く距離”=“現在の宇宙のサイズ”だと仮定すると、Figure 6左のようになります。ちょうど天体A (Heavenly body A)から地球に光が放たれて到達した距離と、今現在の宇宙の大きさ(半径)の距離が同じになるケースです。
もしこのような条件の場合、CMBはどう見えるかというとFigure 6右のようになります。CMBは全天図になるので、一方から天体Aの信号が受信できますが、ちょうど180度正反対の方向から全く同じ天体Aの信号が観測されるはずです(注:Figure 6左はトーラスを球体の次元に下げているので、光は球面に沿っていても3次元空間では直進しています)。
・パターン II
次は“最も離れた天体からの信号が伝わる距離”>”現在の宇宙のサイズ”という条件を想定してみます。この場合はFigure 7左のようになりますが、この場合天体Aからの信号が進む距離が宇宙のサイズより大きいため、この信号が“地球を通り越してまた周回してくる”という状況が起こり得ます。
するとCMBはどのように見えるかというと、一つの例としてFigure 7右のようになります。同じ天体からの信号がいくつも見える、というような観測結果が得られるかもしれません。宇宙を半周して地球に到達した光、1回転と半周して地球に到達した光、2回転と半周して地球に到達した光もあるかもしれません。そして反対側からも同じような光が観測されるかもしれません。このように宇宙のサイズが光の到達距離よりずっと小さい場合にはこのような結果が想定されます。
・パターン III
今度は反対に“最も離れた天体から信号が届く距離”<“現在の宇宙のサイズ”の場合にはどうなるでしょうか。この場合はFigure 8左のように観測できる最も遠くの天体からの光が地球に届いても天体Aから反対側に発せられた光がまだ宇宙を一周することができません。
この場合、観測されるCMBはFigure 8右のようになります。天体Aからの信号は1つのみです。天体Aから反対側に発せられた光はまだ地球に到達できないのでCMBを見渡しても他には見当たりません。このようなCMB観測図が予想されます。
・CMBから得られた信号の解析
現時点で、CMBにおいて同じような信号や反復する信号パターンは得られていないようです。そうなると、現在の宇宙の状態は“パターンIII”、つまり「観測可能な最も遠い領域からの光が到達できる範囲の2倍よりも宇宙は大きい」と考えられています。
遠ざかる光源と地球との距離を図で表すとFigure 9のようになります。ある時点での天体Aと地球との距離を固有距離 (proper distance)とします。Aの地点から数十億年かけて地球に光が到達したとします。光が引き伸ばされた程度(赤方偏移 *10)によって光が発せられた地点Aまでの距離(光路距離、light-travel distance)は簡単に求められます。
しかし、実際は数十億年かけて光が到達する間に宇宙の膨張によって天体AはA'まで距離が遠ざかっています。この図での“地球–A' ”間の距離を共動距離 (co-moving distance)と呼び、数十億年前に光を発した天体との現在の距離を求めるにはこの共動距離を求める必要があります。
そして、「天体Aからの信号」の代わりに「宇宙の原初の光であるCMB」を解析すると、「観測可能な宇宙の最も端までの距離」=「観測可能な宇宙の半径」が求められるという算段になります。
今回はこのCMBから宇宙の大きさを求める計算はGott III J. Richard氏らによる「A Map of the Universe.」(2005, *11)を参考にしました。
・宇宙の大きさを求める計算過程(詳しく知りたい人向け)
CMBを用いて宇宙の端までの共動距離を求める計算過程をFigure 10に示します。でも安心してください。数式を理解する必要はありません(安心してください、私もほとんど理解していません)。例によって下の赤い枠の部分だけ注目してもらえれば大丈夫です。
(省略可能)「宇宙定数Λ (lambda) が宇宙を膨張させる力を表し、宇宙の質量ρmと放射線量ρrが宇宙を収縮させる力を表し、それらからフリードマン方程式をもとに膨張計数と共形時間(conformal time)を求め、それにハッブル半径を乗じたものにCMBの赤方偏移Zrec: 1089を適用すると14000Mpcになる」
・算出された宇宙の最小半径
とにかくいろいろ計算すると、「観測可能な宇宙の端までの距離は14000Mpc (メガパーセク) になる」という結論になります。14000Mpcは言い換えると約450億光年になり、「観測可能な宇宙の端までの距離は450億光年以上、つまり現在考えられる宇宙の最小半径は約450億光年、直径約900億光年 (*13)」ということになります。どうでしょうか、読者の皆さんの予想に比べて小さかったでしょうか?それとも予想を超えて大きかったでしょうか?
・宇宙の大きさを知る意味
読者の方々は「地球が丸い」と知ったのはいつ頃だったか覚えているでしょうか?日常生活では我々は「地面は平らである」としか知覚できません。海を見ても水平線はほぼ直線にしか見えません。
しかし意外なことに地球が丸いことは紀元前6世紀のピタゴラスの頃から示唆されていたようです (*12)。また、星の見え方から地球が丸いことを明確に示したのはアリストテレスとされています。しかもアリストテレスは「大地は球体であまり大きくない」ということまで見通していたということも驚きです。そして実際に地球を一周したのは西暦1500年頃のマゼラン艦隊というのは知っている人も多いと思います。地球を西に進み続けると東から戻ってくる、というのは「地球が丸い」ということを知らなかったとしたら信じられない奇妙なことだと思われます。
しかしこの事実によって私たちは「唯一絶対の無限に広大な大地にいる」わけではなく、「天に見える惑星や恒星と同じ星の一つに住んでいる」ことを知ることになります。しかも星々の中ではそれほど大きな星でもありません。これは人類の意識を「地球が世界の全て」というわけではなく「地球は宇宙の星々のほんの一つ」という真実に気付かせてくれました。人類の意識の中に「宇宙意識」が芽生えたことは「人類の意識の進化」と言えます。
・「宇宙意識」の進化
そして21世紀になった現在、未だ人類は太陽系を出ることすらできませんが、さまざまな科学的証拠から宇宙の形や大きさを推測し、“ループする有限な空間”であることが確からしいことが突き止められてきました。そして「永久不変の絶対的空間」ではなく「どこかの時点で創造され、現在も膨張し続ける有限な空間」であることも解明されつつあります。
そうなると、「地球が数多の星々の一つ」であったように「もしかしたらこの宇宙も他にあるのではないか?」「星がどこかで誕生と消滅を繰り返すように、宇宙も誕生と消滅を繰り返しているのではないか?」「The only one Universe ではなく One of the Multiverse なのではないか?」という疑問が自然に浮かんできます。
このテーマは科学者の間でも近年論じられています。しかし、当面はその存在を証明することは困難でしょう。なぜなら科学的に使えるツールは「光子 (photon)などの観測可能な素粒子 (quarks) 」のみですが、光子を含めて「現時点で観測可能な素粒子はこの宇宙空間から出られない」からです。
しかし、「未だ科学で実態を観測できない“意識”」なら3次元宇宙空間から出ることが可能かもしれませんね。そして科学で扱えないものを扱える形而上学 (Metaphysics)ならば「宇宙空間の外側」を知ることが可能かもしれません。そんなことを考えながら瞑想を続けていればいつか宇宙の外側の情報を得ることができるかもしれませんね。
(著者:野宮琢磨)
野宮琢磨 医学博士, 瞑想・形而上学ガイド
Takuma Nomiya, MD, PhD, Meditation/Metaphysics Guide
臨床医として20年以上様々な疾患と患者に接し、身体的問題と同時に精神的問題にも取り組む。基礎研究と臨床研究で数々の英文研究論文を執筆。業績は海外でも評価され、自身が学術論文を執筆するだけではなく、海外の医学学術雑誌から研究論文の査読の依頼も引き受けている。エビデンス偏重主義にならないよう、未開拓の研究分野にも注目。医療の未来を探り続けている。
*1. 宇宙の始まりの光を観る:“CMB”
https://note.com/newlifemagazine/n/n81e6c7a5cab8
*2. “高血圧は瞑想で改善する”という医学研究
https://note.com/newlifemagazine/n/n12e335a385c6
*3. 超越瞑想- Wikipedia.
https://ja.wikipedia.org/wiki/超越瞑想
*4. 瞑想による心肺機能の向上
https://note.com/newlifemagazine/n/nff19547b087c
*5. MAX瞑想システム(TM)- facebook
https://www.facebook.com/groups/max.meditation/
*6. 宇宙瞑想:“宇宙の果て”について考える
https://note.com/newlifemagazine/n/nfd5030576893
*7.トーラス−Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/トーラス
*8. Cosmic Microwave Background- Wikipedia.
https://en.wikipedia.org/wiki/Cosmic_microwave_background
*9. 宇宙マイクロ波背景放射- Wikipedia.
https://ja.wikipedia.org/wiki/宇宙マイクロ波背景放射
*10. 赤方偏移−天文学辞典.https://astro-dic.jp/redshift/
*11. Gott III J. Richard, et al. "A Map of the Universe." The Astrophysical Journal 624.2 (2005): 463.
*12. 地球球体説– Wikipedia.
https://ja.wikipedia.org/wiki/地球球体説
*13. 観測可能な宇宙– Wikipedia.
https://ja.wikipedia.org/wiki/観測可能な宇宙
画像引用:
*a. https://www.sci.news/astronomy/hubble-globular-cluster-ngc-6652-12136.html. Image credit: NASA / ESA / Hubble / A. Sarajedini / G. Piotto.
*b. https://ja.wikipedia.org/wiki/ファイル:Simple_Torus.svg. By YassineMrabet
*c. https://clipart-library.com/free/wire-globe-png.html
*d. NASA / WMAP Science Team - http://map.gsfc.nasa.gov/media/121238/ilc_9yr_moll4096.png
*e. https://www.freepik.com/free-vector/perspective-grid-pattern_24777042.htm#, Image by vector_corp on Freepik
*f. https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Torus.png By Lucas Vieira
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