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ストレスと高血圧と瞑想のメタ解析

前回の記事では高血圧に対する瞑想の効果を題材に臨床研究を紹介しました(*1)。高血圧はご存知の通り非常に身近な疾患の一つで、かつては「成人病」現在は「生活習慣病」と呼ばれる疾患群に含まれ、その代表的な病態でもあります(*2)。
今回はその高血圧とストレスの関係性、そしてどのようなタイプのストレスが、またどのような体質の人が、血圧上昇しやすいのかを研究結果に基づいて紹介します。

今回紹介する研究タイトルは“Sympathetic Activity and Cardiovascular Risk Factors in Young Men in the Low, Normal, and High Blood Pressure Ranges(低血圧/中間血圧/高血圧の青年男性における交感神経活動と心血管リスク因子)(*3)”という題で2006年のノルウェーの大学からの研究論文です。

この研究では19歳の男性4137人のデータより低血圧群(グループ1:平均血圧(MBP)が最も低い1パーセントの人達)、中間血圧群(グループ2:MBPが中央値付近の1パーセントの人達)、高血圧群(グループ3:MBPが最も高い1パーセントの人達)が抽出されました。研究協力の要請に応じ、かつ再検査でも血圧が各群の基準に合致した43人(グループ1:MBP≤82mmHg:15人、グループ2:83≤MBP≤109mmHg:15人、グループ3:110mmHg≤MBP:13人)が最終的な研究対象に選ばれました。
いずれも健常な男性で高血圧治療歴は無く、薬物/アルコール常習者はいませんでした。喫煙率や両親の高血圧症罹患率も有意な差はありませんでした。

今回のストレスと血圧の実験には3種類のストレステストが用いられました。
1)コールドプレッサーテスト(CPT: cold pressor test):これは右手を氷水(0℃)に1分間完全に浸けるというテストです。言ってみれば「感覚的ストレステスト」ということになります。
2)暗算チャレンジテスト(MST: mental arithmetic stress test):これは「1079」から「13」を5分間引き算し続けるもので、さらに2Hzのメトロノームによる音の妨害が入ります。これは「精神的ストレステスト」と言えます(確かに、聞いただけで嫌になるテストですね)。
3)起立性ストレステスト(ORT: orthostatic stress test):これは30分休憩したところで急に起立してもらい、2分間起立したままでいるというものです。これは「身体的ストレステスト」と言えます。

検査の測定は、血圧上昇に強く関係する交感神経ホルモンの「エピネフリン(アドレナリン)*4」と「ノルエピネフリン(ノルアドレナリン)*5」が被験者の動脈血から測定され、各ストレステスト中の変化が解析されました。平均血圧(MBP)は{拡張期血圧+(収縮期血圧ー拡張期血圧)÷3}として計算されました。

結果ですが、まず今回低血圧群(グループ1)、中間血圧群(グループ2)、高血圧群(グループ3)として対象が抽出されましたが、ベースライン(安静時)の時点でエピネフリン(p=0.01:※一般にp値<0.05で統計学的に有意)、ノルエピネフリン(p=0.043)で郡間に有意差があることがわかりました。もちろん、低血圧群が最も低いレベルで高血圧群が最も高いレベルでした。そのほかにはHDLコレステロール(p=0.034)やウエスト/ヒップ比(腹囲に相当:p=0.026)が群間差のある因子でした。

ストレステストにおいては、3つのテスト全てで平均血圧、エピネフリン、ノルエピネフリンに有意な変化が見られました(CPT:p≤0.05、MST:p<0.02、ORT:p<0.01)。また、この中ではMST(精神的ストレステスト)のみが各グループ間での違いを示しました(図1)。このMSTの解析では、Δ(増加分)MBP(平均血圧:p<0.001)、ΔHR(心拍数:p=0.003)、Δエピネフリン(p=0.001)、Δノルエピネフリン(p=0.025)においていずれも有意に群間差がみられました。

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この実験の結果をまとめると、
・高血圧/中間血圧/低血圧群の順で交感神経ホルモン基礎値が有意に高かった
・感覚/精神/身体ストレスでは精神的ストレステストが最も血圧が上がった
・MST(精神的ストレステスト)ではどの血圧グループでも有意に血圧が上昇した
・MSTでは血圧/心拍数/アドレナリン等全てが有意に上昇した
・血圧上昇の増加率も、低血圧群が最小、高血圧群が最大であった
ということが示されました。

今回も非常に興味深い知見が得られました。まず、我々を取り巻く環境にはあらゆるストレスが存在していますが「感覚」や「身体」のストレスよりも「精神的ストレス」が血圧に最も悪影響を与えることが分かりました。暗算に限らず「悩みを考え込んだり」「一つの事に執着したり」「嫌なことを考えるのに頭を使う」ということは「思っている以上に体にも大きなストレスを与えている」と言えます。

そして、血圧は個人の体質によって異なることは知られていましたが、その原因に交感神経ホルモンのエピネフリン(アドレナリン)やノルエピネフリン(ノルアドレナリン)が大きく関わっていることを示す研究結果です。「血圧が高い体質の人」はアドレナリン分泌量が安静時から高く、「ストレスで血圧が上がりやすい人」はストレスで交感神経ホルモンが多量に分泌される体質とも言えます。

確かにこのような人達にアドレナリン受容体阻害剤という降圧薬を処方すれば血圧は下げられますし、近年の西洋医学はそれを標準治療としてきました。しかし、着眼点を変えて「アドレナリンではなくストレスの方を抑えても血圧は下げられるのではないか」という考えもあると思います。それに関する大規模研究の結果を紹介します。

「瞑想が高血圧に効果的か?」というテーマで解析された“Blood Pressure Response to Transcendental Meditation: A Meta-analysis.(超越瞑想の血圧に対する効果:メタアナリシス)*6”という研究論文で2008年ケンタッキー大学の研究者による報告です。「メタアナリシス」とは「客観性の高いランダム化比較試験」をさらに幾つもまとめてその結果の妥当性を導き出す解析法ですが、分かりやすくいうととりあえず「最強の統計解析方法」だと思って頂いて構いません。

この研究では「血圧における超越瞑想の効果を検証したランダム化比較試験」を適正な審査によってハイクオリティの研究3件を含んだ9件に絞り込み、細かく解析が行われています。「超越瞑想Transcendental Meditation」とは「リラクゼーション」と「自己意識」にフォーカスした瞑想法の一種ですが、詳細は前回記事(*1)を参考にしてください。この9件の臨床試験を解析したグラフを図2に示します。

図2は各臨床試験が分かりやすくグラフ化されていて、ゼロの縦線を基準に横のバーが「左側に寄っていれば血圧が低下」「右に寄っていれば血圧が上昇」「真ん中にまたがっていれば変化なし」ということが見て取れます。バー全体が完全に左側に寄っていれば「統計学的に有意に低下した」という意味になります。

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そのような見方でグラフを見ると、収縮期血圧(図2左)を見ても大部分が左に寄っていて、全体の合算やハイクオリティの研究ではバーが完全に左側に寄って(メタ解析で有意)います。拡張期血圧(図2右)も同様に大部分の研究は左に寄っていて全体の合算やハイクオリティ研究では同様に完全に左側寄りになっています。

このグラフは「瞑想によって血圧が低下することがメタ解析によって示された」ということを表しています。言ってみれば「瞑想」という薬でもなく実体の無いものが、「血圧を下げる」という現実的な効果を示したことが「医学的科学的に高い精度で実証された」ことになります。2008年の論文で医学史の中では新しい方ですが、物質ではなく「瞑想」という捉えどころのないものに興味を持つ研究者が増えメタアナリシスを出すまでに至ったことも医学史における大きな前進だと思われます。

今後の医学も分子生物学的な探究は進んでいくと思われますが、「ストレス」や「瞑想」のような目に見えない世界「形而上学(けいじじょうがく)」的な分野もどんどん開拓されていくと思われます。高血圧の方や予防を考えている方は瞑想習慣を取り入れてみてはいかがでしょうか。

(著者:野宮琢磨)

著者プロフィール

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野宮琢磨 Takuma Nomiya  医師・医学博士
臨床医として20年以上様々な疾患と患者に接し、身体的問題と同時に精神的問題にも取り組む。基礎研究と臨床研究で数々の英文研究論文を執筆。業績は海外でも評価され、自身が学術論文を執筆するだけではなく、海外の医学学術雑誌から研究論文の査読の依頼も引き受けている。エビデンス偏重主義にならないよう、未開拓の研究分野にも注目。医療の未来を探り続けている。

引用/参考文献  
*1. “高血圧は瞑想で改善する”という医学研究
https://note.com/newlifemagazine/n/n12e335a385c6
*2. 生活習慣病とは
http://www.seikatsusyukanbyo.com/prevention/about.php
*3. Flaa A, et al. Sympathetic Activity and Cardiovascular Risk Factors in Young Men in the Low, Normal, and High Blood Pressure Ranges. Hypertension. 2006;47:396–402
*4. https://ja.wikipedia.org/wiki/アドレナリン
*5. https://ja.wikipedia.org/wiki/ノルアドレナリン
*6. James W. Anderson, Chunxu Liu and Richard J. Kryscio, Blood Pressure Response to Transcendental Meditation: A Meta-analysis. American Journal of Hypertension 21:3, 310-316, 2008

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