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【公開記念連載コラム】<『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』はどんな作品?>(2)「"原作者"レイモンド・カーヴァー 村上春樹も愛した孤高の短編小説家」

ニューディアー配給で9月公開予定の『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』。公開まで2ヶ月を切った本作について、コラムとして不定期に作品紹介をしています。第二弾は、本作の"原作"についてのお話。「村上春樹も愛した孤高の短編小説家 レイモンド・カーヴァー」です。

( 連載第一弾はこちら (1)「着想から完成までの長い道のり」)

アメリカで活動したレイモンド・カーヴァーは1938年生まれで、作家として注目を集めた初の短編集『頼むから静かにしてくれ』の出版は38歳の時のことでした。その後順調にキャリアを重ねるものの、アルコール中毒で入退院を繰り返し、肺がんにより50歳の若さでこの世を去っています。

短編を中心に晩年には詩作にも打ち込んだ彼の作品は、ミニマリズムの文学として知られています。それは古くはメルヴィル『白鯨』に代表されるような「ザ・グレート・アメリカン・ノヴェル(偉大なアメリカ小説)」の大作主義的な伝統とはまったく異なる新しいものでした。

そんなカーヴァーの文体のシンプルさや写実性は、よくヘミングウェイを引き合いに語られます。カーヴァーは登場人物の説明を省いたり、安易な起承転結を避けることで、行間に豊かな余韻を感じさせる作風を確立しました。

「孤独」や「虚無」といった内省的な雰囲気を持つ彼の作品が共感を呼ぶのは、その登場人物たちがどこにでもいるような生活者たちだからです。そこには従来の英雄的な人物が活躍する小説にはない、唯一無二のリアリティが宿っているのです。

このような作品の魅力を、いち早く日本に紹介したのは村上春樹でした。ほとんどの作品の翻訳を手がけ、カーヴァーの死に際しては文芸誌に追悼文(後に『ささやかだけれど、役に立つこと』に所収)も寄せるほどその才能をリスペクトしています。

カーヴァーの作品は映画にも取り上げられています。アメリカ・インディペンデント映画の父ロバート・アルトマンが監督した『ショート・カッツ』(93)は複数のカーヴァー文学を組み合わせた長編映画で、ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞するなど高い評価を得ています。

アカデミーの作品賞を勝ち取った、アレハンドロ・G・イリャニトゥ監督『バードマン』(14)の劇中劇でカーヴァーが取り上げられていたことを覚えているファンも多いかもしれません。主演のマイケル・キートンは、カーヴァー作品にも通じるうだつの上がらない中年男性を見事に演じきりました。

『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』はカーヴァーの短編「シェフの家」を"原作"としています。カッコ付きで表記したのはなぜかと言いますと、それは厳密な意味での原作ではなく、インスピレーション元として、いわば翻案されたものだからです。

なお、「シェフの家 」は『大聖堂 (村上春樹翻訳ライブラリー)』(中央公論新社)に収録されています。ネタバレになるようなことはなく、むしろ作品の理解が深まりますので、気になる方は是非事前に読んでみてください。

村上春樹はカーヴァー作品の魅力を「その小世界を奥の方までたどっていくと、そこには物語の魂がひっそりと真実の水を溢れさせている」と表現しています。この言葉は、原作のエッセンスを最良の形で昇華した『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』にも当てはまる表現だと言えるでしょう。

『新しい街』は紙に墨で着彩する独特の技法によって、カーヴァーの文体にある豊かな詩情を、グレーの重なり合いが印象的な静謐な世界として描き出しました。アニメーションにおけるミニマリズム、と形容しても良いかもしません。

海外文学や村上春樹のファンの胸を打つこと間違いなしの本作は、9月、シアター・イメージフォーラム、テアトル梅田を皮切りに、全国順次公開です! 

本作の最新情報は、公式ツイッターアカウントをチェック!

https://twitter.com/ND_distribution

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