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【エッセイ】五月晴れ青春は遠くなりにけり(『佐竹健のYoutube奮闘記(17)』)

 博物館へ行くまでの配信を聞いた次の日の朝。後輩とその友達がまた配信をしていたので、私は聞くことにした。

 この日の映像は、昨日の田園風景とはうって変わって、栄えた市街地の中。その中にある鉄筋コンクリートで造られた高架橋の上にある道路を走っていく。今回は大きな街の方へ遊びに行くまでという内容のようだ。

 昨日と同じく、後輩は友人との掛け合いを繰り広げていた。そして画面の中からリスナーが入ってきて、配信は大いに盛り上がった。

 後輩の配信を見ていたとき、私は画面の向こう側から見える景色に既視感を覚えた。昔住んでいたから多少記憶に残っているというのもある。だが、既視感を感じた一番の理由は、大宮へ行くときの道にある、首都高へと通じている高架橋に似ていた、ということだろうか。

 他にも、もっと似ている場所があるのではないか? と考えた私は、Google Mapを使って、昔暮らしていた場所の近辺を調べてみることにした。

 最初に国道沿いの新市街地の方を見てみた。

 新市街地の方を調べてみた最初の感想としては、

「わけわからん」

 ということだった。

 昔の面影は無いわけではない。けれども、何もかもが大いに変わっている。

 まず、友達とよく放課後同人の打ち合わせで一緒に行っていたカレー屋が潰れていた。

 そのカレー屋は安くておいしかった。普通のカレーを頼んでも大体250円前後。トッピングを追加しても300数十円くらいだっただろうか。万年金欠で部屋住みの私にとっては、とてもありがたい価格であった。

 私と友達の思い出のカレー屋が、無くなっていた。代わりにそのテナントには、中華料理店が入っていた。

 他にもイオンの近くに業務用のスーパーができていたり、ネットカフェがカラオケになっていたり、整骨院が新しくできていたりと、その様は大きく変わっていた。

 私は、新市街地の町の変わりように驚いた。

 長い間私は東京の某所に住んでいるが、わずか数年の間にここまで店が建ったり入れ替わったりということは無い。

 何か変化があったとすれば、コンビニがたたんだり、古本屋がジムになったり、板橋駅や十条駅周辺で大工事が行われていることぐらいなものだ。だから、レストランや喫茶店ができるとしても、

「あ、こんなところにできてたんだ」

 ぐらいにしか感じない。ビルの一部とか駅の地下にできるので、街の風景に大した影響が出ないからだ。

 街並みというものは、都会よりも郊外や地方の方が変わりやすいらしい。ほんの数年間もの間にこれだけ変わるのだから、栄枯盛衰の念を感じざるを得ない。


 新市街地を見たあと、川沿いにある旧市街地を見てみた。

 古いプラモデルを売っているおもちゃ屋と懸賞付きのお菓子を売っていそうな駄菓子屋。旧市街地は年号が変わった令和になっても、昭和の古き良き商店街の香りを残している。

 旧市街地に残っていたのは、それだけではない。時代劇に出てきそうな町屋、明治から戦前を舞台にした朝ドラに出てきそうな洋風の建物も多く現存していた。

 久しぶりに旧市街地の街並みを見て、私は、

「川越の蔵の街に少し似ている」

 と思った。古い日本家屋や昭和チックな駄菓子屋やなどが並んでいるところが、少し似ているのだ。ただ、建物の造りについては、環境の関係があってか、微妙に異なる。それでも、似ている場所をどこか挙げてくれ、と言われたら、川越の蔵の街を挙げるだろう。

 変わっていく中にも変わらないものがあると考えると、ほっとする。自分が知っている場所が、まだ残っていたのだから。


 2日連続でやった後輩の配信は、単に面白かっただけではない。私が昔過ごした場所と今PC越しに見ている風景が、同じものなのかということを考えさせられた。

 地理的条件で言えば同じだろう。だが、私が青春時代に見ていたものとは、もはや完全に別のものになっている。久しぶりに見たとき、初めて訪れたような感覚に陥ったからだ。けれども、少し少し町並みを見ていくと、

「ああ、こんなところもあったね」

 とあれこれ思い出して、

「やっとここが、かつて自分が暮らしていた町なんだな」

 と自覚する。

 また、外部から来た人みたいに、ああだこうだ言っている自分が、今ここにいることに気がついた。昔ならおそらく気にも留めていないようなことを、今言っているのだ。

 こうして考えてみてみると、青春時代は、遠くなった。近いように見えて、もう遠い昔になっていたのだ。

「五月晴れ青春は遠くなりにけり」

 中村草田男の「降る雪や明治は遠くなりにけり」という俳句をもじって詠んでみたが、今年のゴールデンウィークはそんな思いで胸がいっぱいになった。無常迅速と昔の人はよく言ったものである。


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