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気になる本たち「感性に従え!」

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自分の書評、気になった書評をまとめています。
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#読書

『生き物の死にざま』(稲垣栄洋)を読む

『生き物の死にざま』(稲垣栄洋)を読む

2020年の前半が終わろうとしている。この前半も、1~3月と4月~6月では風景がガラッと変わってしまった。

風景とは世の中の風景はもちろん、自分の人生観も変わっている。そんな人も多いのではないだろうか。

そんなとき、この本と出会った。

セミ、マンボウ、サケ、ミノムシ。。。29の生き物の生涯がまとめられている。

クラゲの生きがいは「生きていること」

卵が孵ると、まず自分の体を食べさせるハサ

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『影の車:確証』(松本清張)を読む

『影の車:確証』(松本清張)を読む

大庭章二は妻が浮気をしているのではないかと勘ぐる。相手は章二の同僚だろう。どうにか証拠を掴みたい章二は、自ら性病となりそれを妻に移すことで、妻と同僚の仲をはっきりさせようと夜の街に出かけた。

この異常な手段はなんだろう。妻を問いただしたところで信用できない章二。物語の結末は、浮気の相手は同僚ではなかったのだが、妻に裏切られていたことにはかわりはなかった。

確証を得ることは簡単なことではない、た

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『未完の資本主義』を読む

『未完の資本主義』を読む

コロナ禍でなんとなく「これからは資本主義じゃ無理じゃないかなぁ」と思っていたところ、タイミングよく手元にやってきた図書館本。
資本主義のゆくえを、さまざまな学者にインタビューしています。

クルーグマン
安倍内閣の経済理論の支柱となっているリフレ派。今後必要となるのは「全分配」としての賃金、「再分配」としてのベーシックインカムなどだ。

フリードマン
フラット・ファスト・スマート化した社会で必要な

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『影の車:典雅な姉弟』(松本清張)を読む

『影の車:典雅な姉弟』(松本清張)を読む

麻布にある姉弟が住んでいた。お公家さんかというくらい高貴な面影を持つ姉弟だったが、この家にはもう一人女性が同居していた。姉弟の間の若くして亡くなった兄弟の妻お染だ。弟には今までも何度か縁談があったが結婚までには至らなかったのには、人には言えないわけがあった。

そんななか、姉が殺されてしまう。犯人は、いつも姉にいじめられてたお染ではないか?

しかし事件は意外な展開を見せる。弟の縁談を邪魔し続ける

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『影の車:薄化粧の男』(松本清張)を読む

『影の車:薄化粧の男』(松本清張)を読む

草村卓三が殺された。50歳を過ぎた彼は妻の他に20代の妾を囲っていたが、彼女にはアリバイがあった。ドケチで口うるさく、あちこちの女を口説いていた卓三は誰に殺されたのか。

20代の彼女には飽きられた。妻には三行半を突きつけられた。二人の女性の利害は一致した。卓三さえいなければ!

婦人公論に掲載されたこの小説を読んだ昭和30年代の女性たちは、どう思ったのだろう?

Shinichi/Miyazak

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『影の車:田舎教師』(松本清張)を読む

『影の車:田舎教師』(松本清張)を読む

良吉は、父親から聞いていた中国山地の山奥にいる親戚を訪ねてみた。親戚の杉山俊郎は医者で、地域の信頼も厚く、田舎ながらに裕福だった。しかし訪ねたその日に俊郎が事故で亡くなったことを知る。生活道路の崖沿いの道から崖下に落下したのだが、どこか腑に落ちない。俊郎はその日、戦前満州で羽振りの良い暮らしをしたものの、戦後無一文で帰省した兄弟の博一の家に診察に行っていたのだ。

終戦を迎え無一文となってしまう弟

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再開で再会した話

再開で再会した話

図書館の再開6月になって、やっと図書館が再開した。

図書館は私の家から徒歩5分の距離にある。そのため、ネットで借りる本を予約しては読む生活が続いていたこともあり、コロナで閉館していた時期は辛かった。

閉館前、図書館に予約していた本は20冊あった。20冊と言っても、人気の本は私の前に予約した人も多く、借りられるまで気長に待つしかない本も多い。

再開した6月1日に図書館に行き、係の人に予約本の順

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『パワースポットはここですね』ってどこですか?っていう話

『パワースポットはここですね』ってどこですか?っていう話

パワースポットとはなにか?パワースポットはどこか?パワースポットに行くと何がどう変わるのかを考えながら、日本各地のパワースポットを巡った話。

著者はパワースポットを巡りながら、「パワースポットなんてないんじゃないの?」という思いに駆られていったようだ。

パワースポットに友達と行って「パワー来たね!」と共感する。パワースポットだからパワーがあるというよりは、共感した場所だからこそパワースポットに

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(21/100)前衛的な文学が好きな人におすすめ『少年聖女』

(21/100)前衛的な文学が好きな人におすすめ『少年聖女』

読んだ感想は「わかんない」だったんだけど、もしかしてもう一回読んだらわかるかも。

唯一言えるのは、登場人物の設定も感情のゆらぎ方も、意外なことばかり。

前衛文学っぽいので、そちらに興味のある方にはオススメ。

[114](20/100)やばい作家に出会ったようだ『グローバライズ』(木下古栗)

[114](20/100)やばい作家に出会ったようだ『グローバライズ』(木下古栗)

この本は、12篇の短編からなる一冊。

短編一つ一つは、始まりは穏やかなんだけど、最後はだいたい、エロがグロにたどり着く。やばい。

こういう落差があるというか、最後に行き着く先がわかっていて、そこにたどり着いたときになにかが昇華されたような恍惚とした感情を得たいというのは、じつは小説の真髄なのかも知れない。

読みながら、不快感を感じながらも、つぎの短編ではエロ、グロな結論にたどり着くことを期待

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[110](19/100)じつは仏教説話だったかも『鳥打ちも夜更けには』(金子薫)

[110](19/100)じつは仏教説話だったかも『鳥打ちも夜更けには』(金子薫)

古典『見聞録』で「楽園」と記された架空の街。三色の花をつけるネルヴァサの花とその葉を食べ蜜を吸う美しい蝶アレパティロオオアゲハがこの街のシンボルだ。

そのシンボルを守るため、アレパティロオオアゲハを捕食してしまう海鳥を吹き矢で殺す仕事を任された3人の男たち。架空の街の通りの名前も地区の名前もカタカナなのに、この3人の名前は、天野、沖山、保田と日本名だ。

仕事をしていくうちに、生き物を殺して生計

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[106](18/100)「このページをめくれば、あなたはこれまでの人生の全てを失うかもしれない」『私の消滅』(中村文則)

[106](18/100)「このページをめくれば、あなたはこれまでの人生の全てを失うかもしれない」『私の消滅』(中村文則)

僕が読みたいと思う本の選び方は直感的だ。SNSやHONZなどで「を、いいね」と思える本を、地元の図書館ホームページで予約する。予約順に読めるので、人気の本は忘れたこと順番が回ってくる。

今回図書館から連絡が来たのがこの本。中村文則さんかぁ。『教団X』の人だ。。。『教団X』意味わからん本だったんですよね。

さて今回の『私の消滅』
自分が他人と入れ替わる。それはなりすましのような種類のものではなく

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[104](17/100)人類の存在は失われてしまうのか?『私の恋人』(上田岳弘)

[104](17/100)人類の存在は失われてしまうのか?『私の恋人』(上田岳弘)

「私」はいま、3周目だ。一周目はクロマニヨン人の時代、二週目はナチスドイツの時代、そして現代だ。

人類の歴史に連綿とつながる「私」とはなにか?

この本の大部分は、この「私」について描かれてきている。僕の理解では、この「私」とは人類がクロマニヨンの昔から持ち続けてきた「人類のDNA」だろう。しかし3周目の現代、そのDNAを手放そうとしている。

あなた方人類が、あなた方を超える知性を生み出すとい

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