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インパクトも繊細さも兼ね備えるデザインとは…!おちらしさんアワード2023~舞台版~結果発表

こんにちは。おちらしさんスタッフのしみちゃんです!

チラシ宅配サービス「おちらしさん」では2020年より、1年に1度開催される“チラシの祭典”、おちらしさんアワードを開催しています! 全国の舞台・美術展ファン、チラシファンの皆さまに、一推しの1枚へ投票していただき、多くの票数を集めたチラシとその作り手の方々を表彰するイベントです。

4回目の開催となる2023年は、10~11月の一次投票、12月の決戦投票と、2回に分けてWEB投票を行いました。投票してくださった観客の皆さま、盛り上げてくださった主催団体の皆さま、本当にありがとうございました!!

今年は新たに、おちらしさんスタッフの念願でもあった、チラシビジュアルが見られる投票ページを叶えることができました。毎年参加してくださっている皆さまも、「おおっ!!」と驚かれたのではないでしょうか!?

ノミネートチラシ全98点をご紹介していました!

こちらの記事では結果発表として、舞台版の上位1~10位に輝いたチラシ10作品を一挙にご紹介します! 投票の際にいただいた観客の皆さまからのコメントや、公演団体・デザイナーの方々からも受賞記念コメントを特別にいただきました!

多くの方はチラシのどんな部分に惹かれたのか? そして作り手の方はどんな部分にこだわられていたのか……? 最後までぜひじっくりとお楽しみください!

▽「おちらしさんアワード2023~美術版~」結果発表はこちら▽


第1位 PSYCHOSIS
「寺山修司没後40年記念認定事業『疫病流行記』」

■ ザムザ阿佐谷
2023年7月13日(木)~18日(火)

見事、第1位に選ばれたのは、ザムザ阿佐谷にて上演された、PSYCHOSIS「寺山修司没後40年記念認定事業『疫病流行記』」です!!

朱に染まったインパクト抜群のこちらのチラシ。薄暗く不穏な空気が漂う街のようですが、こちらを見ているのは「帽子を被り、コートを羽織った人??」と思いきや、よく見るとネズミが山のように集まり人の形を成しています。ちょっとゾクゾクしてきますね……。

さらに真っ赤なネズミが中には3匹。『疫病流行記』というタイトルからは、「もしかして何かの病気にかかったネズミなのかな……」「これが伝染していったら最後には……」と恐ろしい想像が掻き立てられます!

「集団を組織していく想像力の『伝染』」というキャッチコピーにふさわしく、まさにこのチラシから手に取った人へ想像が伝染していく次から次へと『疫病流行記』への妄想があちこちで加速していく、そんな強いパワーを持った1枚です。

パッと見た瞬間に言いようのない禍々しさ」「この公演のこのチラシからサイコシスを観はじめました」「不思議な絵だと繰り返し見てしまった」といったコメントもいただきました。細部まで描くからこそ生まれる生々しい恐ろしさと、強烈な第一印象。双方で観る人の心をグッと惹きつけた1枚です。劇団の公式noteでは、チラシデザインの過程も特集されていますよ!!!

イラスト上野顕太郎 さん(漫画家)よりコメント

初めて完成したフライヤーを手にした瞬間、手応えのようなものを感じたのを覚えています。

鮮烈な赤に彩られた画面は、確かに自分が描いたイラストでありながら、新鮮な驚きに満ちており、立体的に、厚みを持って迫ってきたのです。今回投票して下さった方々も、私同様の感覚を持ったのではないでしょうか?

イラストの力だけでは無く、デザインの力があってこその、この破壊力。

数点あるラフスケッチの中から、ネズミの形作る女を選んで頂き、そもそも私にイラストの依頼をして下さった、PSYCHOSIS主催でありデザインを手掛ける、森永理科さん。ファッションが不得手な私に、イラスト仕上げの段階で「服の生地の質感」についてアドバイスをしてくれた妻。
そしてこのフライヤーを気に入って下さった方、投票して下さった方、飲食店でありながら、ネズミを嫌がらず、ポスターを掲示して下さった店主様。全ての方に最大の謝意を表します。

ありがとうございました。楽しんで描き上げました。

一等賞とは嬉しいね〜!!

デザイナー・森永理科 さん(PSYCHOSIS主宰)よりコメント

まず初めに、ここまで支えてくれた仲間達、そして「疫病流行記」のチラシにご注目くださり、投票してくださった全ての皆様に御礼申し上げます。一番だ!

上野顕太郎さん、私の想像以上のエクストリームで最高のイラストをありがとうございました。イラストを頂いた後は自分が演出ですしプロデューサーなので、感覚だけを頼りにそれはもう楽しく完成まで持ち込めました。絵の力はすごいですね〜

こだわりの強い私に、てめえでやれとデザインのきっかけをくれた私のバンドSPEED-iDのEUROにも感謝です。

私はデザイナーとしてまだまだ自分に未熟さを感じています。今回おちらしさんアワードにノミネートされている、数々のチラシは素晴らしいものばかりで、私が感動して持ち帰り保管したものも多くありました!

もしまた、このような機会が訪れた時はさらに良いデザイナーに成長していたいなと思います。あ!演出も頑張ります。

ありがとうございました〜

お二人からは、上野さんお決まりのポーズで
大喜びの記念写真もいただきました!!

左から、PSYCHOSIS・森永理科 さん、漫画家・上野顕太郎 さん


第2位 東京グローブ座『After Life』

チラシのお写真は、公演HPにてご覧いただけます↓↓

■ <東京公演>新国立劇場 中劇場
2023年7月8日 (土) ~18日 (火)
■ <大阪公演>森ノ宮ピロティホール
2023年7月21日 (金) ~27日 (木)
■ <福岡公演>キャナルシティ劇場
2023年8月2日 (水) ~4日 (金)

第2位に選ばれたのは、新国立劇場 中劇場ほかで上演されました、東京グローブ座『After Life』です。

こちらのチラシで注目すべきは、その不思議な構図。上段に写っているのは主演の上田竜也さんですが、奥の白い衣裳の上田さんはハッキリと、手前の黒い衣裳を着た上田さんにはピントが合わずぼんやりと見えます。奥が小さく、手前が大きいことから、距離感を感じさせますが、遠くからもう一人の自分を見つめるような視線がなんとも印象的です。

代わって下段では、黒い衣裳の上田さんをはじめ6名の出演者の方が。自然界の風景が写る大きなパネルは、こちらも奥に行くほど小さくなり、遠くには地平線のようなラインも見え、先ほどと同じような奥行きを感じます。真っ白に広がる世界に、それぞれに視線の合わない出演者たち。一体ここがどこで、彼らは誰なのか、謎めく雰囲気です。さらに裏面ではぽつんと置かれた革靴が見えますが、これも何を暗示しているのでしょうか……?

シンプルで澄んだイメージに隠された、ミステリアスな物語。少ない要素が印象的に描かれているからこそ謎が謎を呼び、頭の中で忘れられないチラシデザインです。「死後の世界なのか背景に色がないのが印象的」「現実の延長にありつつも、現実ではない不思議な空気感が感じられる」「自分を見つめ直すというイメージぴったりでした」といったコメントもいただきました。


第3位 PARCO劇場開場50周年記念シリーズ
『ひげよ、さらば』

チラシのお写真は、公演HPにてご覧いただけます↓↓

■ <東京公演> PARCO劇場
2023年9月9日(土) ~30日(土)
■ <大阪公演> COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール
2023年10月4日(水)~9日(月・祝)

第3位に選ばれたのは、PARCO劇場ほかで上演されました、PARCO劇場開場50周年記念シリーズ『ひげよ、さらば』です。

こちらのチラシは、ビジュアルから伝わる世界観が素敵な1枚。月が見え隠れする夜に佇むのは、その夜を映したような暗い紺色の衣裳に身を包む出演者の方々。よく見ると可愛らしいしっぽが生えていますが、この物語に出てくるのは、猫や犬たちです!!

児童文学を原作に、以前には子ども向けの人形劇としてテレビでも放映されていた『ひげよ、さらば』。人間が演じるにあたり動物らしいコスチュームを身に着けることもできますが、今回の舞台化では彼らを人の姿に翻案。それぞれのスタイリッシュな出で立ちと、野生に生きる犬猫たちの姿が重なるようでワクワクする仕上がりです。

裏面は写真はなく情報のみで構成され、クールな印象。月の光を受けて輝くような、タイトルロゴがピリリと効きます。「野良猫たちのシビアな世界観が表現されていた」「闇夜に立つ猫たちの姿が美しくキレイ」「猫なのに猫っぽくない!!」といったコメントもいただきました。

子どもたちに長年愛されてきた有名作品を、あえてらしくない形で描く面白さ。都会的な雰囲気をチラシビジュアルから醸し出すことで、物語の新たな一面を期待させます……!


第4位 NODA・MAP 第26回公演
『兎、波を走る』

■ <東京公演>東京芸術劇場プレイハウス
2023年6月17日(土)~7月30日(日)
■ <大阪公演>新歌舞伎座
2023年8月3日(木)~13日(日)
■ <博多公演>博多座
2023年8月17日(木)~27日(日)

第4位に選ばれたのは、東京芸術劇場プレイハウスほかで上演されました、NODA・MAP 第26回公演『兎、波を走る』です。

丸や波線でふしぎなグラフィックが描かれたこちらのチラシ。2つ折りの見開き部分を開くと、出演者の高橋一生さん、松たか子さん、多部未華子さんの写真とこのグラフィックが横並びになるのですが、実は同じモチーフを表していることに気が付きましたか……!? ロゴをはじめ、放射上に伸びた公演の詳細、左上の黄色の丸、右側の2つの赤い丸、下に写る青い波のような模様、すべてが左右で対応しているんです。

シンプルな構図にも関わらず、この左右の見開きを見比べているうちにふわふわと誘い込まれ、既に作品の世界へ迷い込んでしまうかのよう

中面も同じく、丸と波線のグラフィック。3つのページが3つともほぼ同じモチーフで構成されていることってなかなかに個性的なはず。逆に言えば、このデザインこそ、『兎、波を走る』という作品の芯を表すのでしょう。

斬新で、公演への期待がいっぱいになった」「ポップな色合いの可愛らしいチラシなのに、観劇後に見ると隠された意味が分かってジンとした」「タイトルとデザインと劇の内容のシンクロが素晴らしい」というコメントもいただいています。

まもなく2月9日(金)より、マルチアングル配信も行われる本作! どんなストーリーが紡がれるのか、チラシのデザインから気になった方はぜひそちらでの答え合わせも楽しみに待ちましょう……!


第5位 ケムリ研究室no.3
「眠くなっちゃった」

■ <東京公演>世田谷パブリックシアター
2023年10月1日(日)〜15日(日)
※10月1日(日)~7日(土)13時公演は中止
■ <北九州公演>J:COM北九州芸術劇場 中劇場
2023年10月20日(金)〜22日(日)
■ <兵庫公演>兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
2023年10月26日(木)〜29日(日)
■ <新潟公演>りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場
2023年11月4日(土)〜5日(日)

第5位に選ばれたのは、世田谷パブリックシアターほかで上演されました、ケムリ研究室no.3「眠くなっちゃった」です。

まずこのチラシは「眩しい」。チラシなのに、紙なのに、眩しいんです……!! その仕掛けは真っ黒な背景に描かれた、緒川たまきさんの覗く窓のような部分。窓の外の世界は眩いほどに真っ白に発光していることが、漆黒とのコントラストで伝わってきます。チラシで舞台上のようなライティングが感じられるとは、驚きです!!!

続いて中面は、先ほどとは別の窓から見えた別の世界でしょうか? SFチックな退廃的な街並みに、出演者の皆さんが。足元にはのりしろがあるので、実はペーパークラフトなのでしょう。赤いレーザーのような線が張り巡らされ、なんだか危ない雰囲気……。この線も無造作なようで、全員の顔の上を通らないよう計算されているところカッコいいですよね。

裏面では、またもや緒川さん以外の方々がテレビの中で囚われている!? 真正面でなく斜めな角度でのキャスト写真というのも、目新しくビビッドです。

未だに閉じたり開いたりしちゃう」「どんな景色が観られるのか、とても惹きつけられた」「気になる要素が多すぎる!」というコメントもいただきました。1ページ1ページに仕掛けが詰め込まれ、愉快なおもちゃ箱のようなチラシ。観劇前から驚き、クスっと笑い、舞台に繋がる序章を見せてくれています。

デザイナー・ チャーハン・ラモーン さんよりコメント

選んでいただきありがとうございます。演劇界にいながらも、なかなか褒めてもらえないですから宣伝美術って。いや、ほんと。
チラシを眼前に置いて書いているのですが、作ったのはもう遥か昔のような気がしております。KERAさん関連ですので、関わった方はだいたい「大変だったヨォ〜」と得意げに語ったりするもんだとは思うのですが、これは……これも大変でした。原因の大半は私の実力不足なのです。商業的なデザインが不得意といいますか、まぁヘタなわけです。でもね、KERAさんも緒川さんもきっとちょっとヘタなデザイナーが好きなんですよ。もう、ほんとに人が悪い。制作さんに見守られながら、そんなKERAさんと緒川さんとヘタな私があーだこーだいいながら作りました。
中面のイメージははじめからKERAさんの中にありました。集合写真を撮って筒状にするなんて、僕には思いつかないです。表四が一番苦労したかな。いいデザイン。自画自賛。表一は、中面の写真撮影時に思いついてラフを描いてお二人と相談して作りました。緒川さんの立ち姿は、僕のディレクションではなく、緒川さんのセンス。本当に素敵。
改めて見ると、タイトルの配置などもう少し凝っても良かったかなと思ったりしますが、う〜ん。福山楡青さんに撮ってもらった写真が美しくて、邪魔しちゃダメだなと判断したんだと思います。いい写真ですよね。ウットリです。
あ。「表一は文字無しじゃダメ?」って提案したの思い出した。さすがにそれは却下されました。そりゃそうだ。


第6位 ミュージカル
『アルジャーノンに花束を』

■ <東京公演>日本青年館ホール
2023年4月27日(木)~5月7日(日)
■ <大阪公演>COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール
2023年5月13日(土)~14日(日)

第6位に選ばれたのは、日本青年館ホールほかで上演されました、ミュージカル『アルジャーノンに花束を』です。

こちらのチラシからキーワードを挙げるならば、「優しさ」と「誠実さ」でしょう。白とエメラルドグリーンを基調にしたデザインは、新緑が芽生え、成長していく柔らかな春を思わせます。箱に入った草花、モチーフとして使われているボタニカルテイストのイラストも爽やかな雰囲気です。「ぼくわ かしこく なりたい」という縦書きのキャッチコピーも、たどたどしくも純真なイメージを想起させますよね。

世界的に著名な小説を原作に、ミュージカルとしても日本で何度も上演されてきた本作。2006年の初演と2014年の再演でも主演を務めた、浦井健治さんが待望のカムバックとのことで、まっすぐにこちらを見つめるビジュアルからは物語に描かれた“大切なもの”が滲み出ているかのよう。真摯に積み重ねられてきた作品の歴史と、長い間深められてきた役の歴史が感じられます。

アルジャーノンの儚さが淡い色合いで表現されていて、心にグッとくる」「言葉は必要のない、美しく印象的な一枚だった」「初演から17年が経っても、このピュアさを表現できるなんて……」というコメントもいただきました。

愛され続ける作品の無垢でイノセントなキャラクターを表すビジュアル。変わらない魅力を前面に押し出した1枚は、心にスッとダイレクトに響きます。


第7位 ワカバコーヒー
「おどらない、からだ」

■ 高架下空き倉庫
2023年9月29日(金)~10月1日(日)

第7位に選ばれたのは、高架下空き倉庫にて上演されました、ワカバコーヒー「おどらない、からだ」。こちらは舞踏の公演チラシです。

墨を溶いたかのようにグレーが混ざり合う混沌のなか、浮かぶのは不思議な塊。……いや人間の体です! 二人の男性が組み合うようにポーズをとっていますが、まるで木でできているようにも、石膏でできているようにも錯覚してしまいます。漂うような背景と、硬質な人体。非日常的な面白い表現です。

「人間ってこんな形にもなれるのか……」と、驚嘆しながらよく見てみると、実は足が5本に、手が6本。ただの二人の人間でもなかったんです!! あり得ないところから手足が出で、折れ曲がっているようで、なんだかナチュラルな感じもする。よくよく観察しないと分からない神秘的な何かが人の体にはあるのでしょう。血のような赤の差し色も、不可思議な人体への憧れを思わせますよね。

身体表現の本質的なところを、シンプルに、的確に表現している」「身体と身体が絡み合い、新しい生命体のよう」「心を突き刺してくるような美しさがある」といったコメントも寄せられました。踊らないようで踊っているみたい。人のようで人ではなかった。自然界での矛盾を孕む人体に魅せられます。

ワカバコーヒー・若羽幸平 さんよりコメント

ワカバコーヒー、若羽です。おちらしさんアワード、まさか七位入賞とは。。あまりのことに尻が浮いてしまいましたよ。
舞台芸術の極地にある舞踏が日の目のあたる場所できらびやかなチラシと肩を並べて吟味されたことに、一介の舞踏者としての喜びを感じています。この快挙にはビジュアルの鍵となった吉本大輔氏も尻を浮かせて喜んでくれることでしょう。
しかし「おどらない、からだ」に投票しようなどというモノ好きがよくいたものですね。その慧眼に驚くと共にこのチラシの先にある若羽のエリアを、その眼力で審美して頂けたら幸いでございます。必ずやその尻、浮かせてみせましょう!
ご投票頂いた方々に感謝はもちろん、一瞬で役目を終え、古紙となるチラシに華やかな場を設けてくださる、おちらしさんアワードに感謝です。

アートディレクター・腰山大雅 さんよりコメント

ビジュアル撮影は10分も掛からず、ショット数も篠山紀信ばりに通常に比べて遥かに少なかったと記憶しています。
早々に「これでOK」となったのは被写体のパワーゆえかと。
よく見るとモデルの身体には色々と仕掛けや不思議な箇所を作っているのですが、それらが最大限に立つようなデザインになったと思います。
七位という順位には驚きですが投票いただいた方には感謝するとともに、食わず嫌いで舞踏を見たことがない人は是非一度目撃してくださいね。


第8位 演劇企画集団Jr.5
第15回公演『明けない夜明け』

■ 東京芸術劇場 シアターウエスト
2023年7月14日(金)〜20日(木)

第8位に選ばれたのは、東京芸術劇場 シアターウエストにて上演されました、演劇企画集団Jr.5 第15回公演『明けない夜明け』です。

こちらのチラシは、ひと言でいうならば「意味深」。『明けない夜明け』のタイトルとともに表面で並ぶのは、「私はある日を境に加害者になり、被害者にもなってしまった――」というコピーに、白い洋服をきた3人の女性と、作業着の男性、懐中電灯を持った警察官。白い花。赤く染まった飲み物と、お皿に載った食べ物。警報機のランプ。これだけの要素が揃えば、まず間違いなく事件が起きているのでしょう。ドラマティックな物語を感じさせます……!

チラシ裏面の上部も、温かな家族写真と思われるなか、男性の顔にはガラスが割れるような亀裂が……。チラシの時点でおおまかなストーリーをわかったような気がするのに、物語の細部もだんだんと気になり、「一部始終に迫ってみたい!!」と思わせられますよね。

モノトーンでシンプルなのに、受ける印象に奥行きがあった」「謎めいた匂わせで興味を引いた」「このチラシだけで物語が見えてくるように感じた」というコメントもいただきました。ネタバレ厳禁という方でもこれは唸ってしまうのではないでしょうか……!? 映像の予告編のように、琴線にぐぐっと触れてくる1枚です。

宣伝美術・大嶽典子 さん よりコメント

「またお会いできますように…!」とコメントした一年後、またこうやって受賞コメントを書ける喜びを噛み締めております。ありがとうございます。 劇団としても第15回公演という節目の作品となった本作は、2022年に上演した『白が染まる』に続くお話です。チラシデザインも前作とリンクする部分を作り、表面と裏面との対比、台本には描かれていない家族のバックボーンを想像してデザインしました。 今後もお客様と作品との最初の架け橋になれたら幸いです。またお会いできますように…!


第9位 モヘ組『せいなる』

■ 浅草九劇
2023年6月14日(水)〜20日(火)

第9位は、浅草九劇にて上演されました、モヘ組『せいなる』です。

こちらのチラシは正方形。しかもA4と比べるとかなり小さいのですが、そう、CDジャケットのサイズです! 音楽を聴くにも、配信ダウンロードやストリーミング再生が広く一般的になった昨今。CDサイズに懐かしさを覚える方もいらっしゃるのではないでしょうか?

左の白い紙がA4サイズ。チラシの小ささがかわいい……

幾何学的な曼荼羅の模様は、よく見ると「モヘ組」「せいなる」をはじめ、公演日程や劇場名、さまざまな漢字での「セイ」、へのへのもへじが組み込まれ、100%文字だらけ。ごちゃっとしたポップでキッチュなデザインは、“平成のかわいさ”とも言うべきで、こちらもチラシサイズと同じく今やちょっとふと懐かしんでしまう郷愁を感じます。

裏面も曼荼羅を思わせる、どこが正面か分からないデザイン。チラシをグルグル回しながら文字を読んでしまいます。「『せいなる』というタイトルに無限の解釈が与えられていた」「手に取るだけでワクワクする」「一目見た時からかわいいのに、なんじゃこれ?と思いました」といったコメントもいただきました。

さらに「面白いから写真を撮ろう」とスマホのカメラをかざすと、円中央のQRコードが読み込まれ、ついつい公式サイトへアクセスするポップアップを押したくなってしまうのです。通常、QRコードは端っこに配置されていることが多いものですが、このチラシはド真ん中。しかも角には別のQRコードが2つもあるのに、真ん中の圧倒的な主張!! この仕掛けはなかなか見られないのではないでしょうか。曼荼羅デザインによるミラクルにあっぱれです!

デザイナー・よシまるシン さんよりコメント(チラシ表面)

作演出主宰の松森モヘーさんをへのへのもへじ(→かかし→キリスト)に、モヘ組を文字組に変換、100%文字のみのグラフィックで「せいなる」多重解釈可能曼荼羅を制作しました。公演を観させて頂いたら内容も曼荼羅的で、驚きつつも何かが噛み合った感触がありました。

役者/宣伝美術・酒井まりあ さんよりコメント(チラシ裏面)

数あるチラシの中から選んでいただき、ありがとうございました!
私は高校生の頃から演劇のチラシを集めるのが趣味で、いつか自分もこんな素敵なチラシが作れるようになりたいなと思っていたので、今回選ばれて嬉しい気持ちでいっぱいです…!!
モヘーさんの作り出す世界観に、役者としても宣伝美術としても参加できたことを誇りに思います!!
モヘーさん、座組の皆さん、投票してくださった皆さん、ありがとうございました!!


第10位 タカハ劇団『おわたり』

■ 新宿シアタートップス
2023年7月1日(土)~9 日(日)

ラストを飾る第10位は、新宿シアタートップスにて上演されました、タカハ劇団『おわたり』です。

「薄暗くてちょっと不気味だけれど、出演者が並んだ普通のチラシじゃん」と思ったアナタ!! もう一度よく見てください。実は普通じゃないです。おわかりいただけましたか……?

口元に手みたいなのが伸びてる! 腕が伸びてる! お腹消えてる! まさかの怪奇現象3連発。夏休みの風物詩 “土着ホラー”のお芝居です。『おわたり』という、とある集落の祭をテーマにした作品ということで、いつもの日常だったのに、あれっと気づいた時にはゾゾゾーっと背中がひんやり冷たくなる、心霊写真の恐ろしさがチラシデザインにも落とし込まれています。

裏面ではキャスト写真が並びますが、どなたも眉が薄く、表情に生気がない、海から濡れてぼんやりと這い上がってきたような写りです。宣伝美術というと、たとえホラーであってもパンチを効かせるアプローチが多いなか、引き算の表現は「日本の怖い話」特有とも……。夏を目の前に、7月の上演を楽しみにチラシを受け取った方も多いのではないでしょうか?

まさにホラーって感じで大好き」「細かいところをじっと見たくなる」「観劇後も普通のチラシだと思っていて、あとから気付いてゾワッとした」というコメントもいただきました。

最後にもう一つ怖い話を。チラシ表面では、もう一人誰かの手が見えるって気が付きましたか?

デザイナー・羽尾万里子 さんよりコメント

素晴らしいチラシが数ある中でベスト10の名誉にあずかり、大変光栄でございます。ご投票頂いた皆様には深く御礼申し上げます。
タカハ劇団さんのチラシは、毎回主宰の高羽さんとディスカッションしながら作り上げていくのですが、今回はお互いに大好きな民俗ホラーという事で大変熱がこもりました。見た瞬間に鳥肌が立って、どんな芝居なのだろうと思って頂けるような、そんなチラシにしたい。そのために、普段の公演よりさらに踏み込んで主人公たちの人となりを聞き込み、それぞれのうちに秘めた「罪」をキーワードで頂きました。それをそれぞれの身体に怪異として表現しております。自分の写真を心霊写真にされるのもなかなか気味が悪いかもしれない所を、ご快諾頂いたキャストの皆様には感謝しかございません。
演劇宣伝美術の密かな楽しみは、作品完成前に想像をしながら制作したビジュアルを本番で答え合わせをする事なのですが、この作品ではその「罪」に唸らされました。
チラシの色味も一見グレーに見えて実は4色でして、静謐な中に滲む有象無象の不確かなものを色味で表現したのですが、それが何事もないように振る舞う村民の心に渦巻く感情に響き合ったように感じ嬉しく思いました。
また配信の機会などございましたら、作品と併せてチラシを振り返って頂ければ幸いです。


以上、10位までにランクインしたチラシ10点をご紹介いたしました! 今回4度目の開催となった「おちらしさんアワード」。今年は一次投票を経てノミネートチラシを決定いたしましたが、自由記述式にも関わらず幅広い公演のお名前を挙げていただきました。その中から選ばれたということで、決選投票では主催団体の皆さまの盛り上げも例年以上に本当に大きく、公演前も公演後もチラシというアイテムのパワーが持続する強みを改めて感じています。

一推しのチラシへ投票やコメントを寄せてくださった観客の皆さま、一緒におちらしさんアワードを盛り上げ、写真・コメントの掲載にもご協力くださった公演団体の皆さま、本当にありがとうございました!!

さて、一次投票を経て選出された、舞台版のノミネートチラシは全49点。 こちらでお名前すべてをご紹介します!

おちらしさんアワード2023~舞台版~
全ノミネートチラシご紹介

第1位 PSYCHOSIS「寺山修司没後40年記念認定事業『疫病流行記』」
第2位 
東京グローブ座『After Life』
第3位 
PARCO劇場開場50周年記念シリーズ『ひげよ、さらば』
第4位 
NODA・MAP 第26回公演 『兎、波を走る』
第5位 
ケムリ研究室no.3「眠くなっちゃった」
第6位 
ミュージカル『アルジャーノンに花束を』
第7位 
ワカバコーヒー「おどらない、からだ」
第8位 
演劇企画集団Jr.5 第15回公演『明けない夜明け』
第9位 
モヘ組『せいなる』
第10位 
タカハ劇団『おわたり』

(以下、決戦投票ページ掲載順 ※ランダム)
爍綽とvol.1「デンジャラス・ドア」
Kidd Pivot『REVISOR』
日生劇場ファミリーフェスティヴァル2023 舞台版『せかいいちのねこ』
亜細亜の骨『ミラクルライフ歌舞伎町』
北九州芸術劇場クリエイション・シリーズ『イエ系』
小池博史ブリッジプロジェクト-Odyssey「WE‐入口と世界の出口」
新国立劇場 演劇 2023/2024シーズン シェイクスピア、ダークコメディ交互上演『尺には尺を/終わりよければすべてよし』
ナイロン100℃ 48th SESSION「Don't freak out」
伊藤キム ソロダンス『ダミーズ』
ミュージカル『She Loves Me』
PARCO劇場開場50周年記念シリーズ『海をゆく者』
果てとチーク『くらいところからくるばけものはあかるくてみえない』
イデビアン・クルー『幻想振動』2023edition
KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『ジャズ大名』
ミュージカル『ザ・ミュージック・マン』
舞台『オデッサ』
KAATキッズ・プログラム2023『さかさまの世界』
EPOCH MAN『我ら宇宙の塵』
2023年 劇団☆新感線 43周年興行・秋公演 いのうえ歌舞伎『天號星』
『SHOW BOY』
『あの夜であえたら』
東京ゆめもぐら『嘘つきは、遺産を前に、踊るよ踊る』
南極ゴジラ 第4回本公演『怪奇星キューのすべて』
ミュージカル『ファントム』
『BACKBEAT』
ブロードウェイミュージカル『キャメロット』
舞台『銀河鉄道の父』
PLAY/GROUND Creation #5『Spring Grieving』
K-BALLET「創立25周年記念 熊川版 新制作『眠れる森の美女』」
ぱぷりかツアー公演『柔らかく搖れる』
新国立劇場 演劇 2023/2024シーズン フルオーディション Vol.6『東京ローズ』
ヨーロッパ企画25周年ツアー「切り裂かないけど攫いはするジャック」
PARCO劇場開場50周年記念シリーズ ミュージカル「おとこたち」
ミュージカル『ラグタイム』
ウーマンリブvol.15「もうがまんできない」
『ハムレット』
キリグス#2『意気揚々々』
東京ゲゲゲイ歌劇団 vol.VI 『破壊ロマンス』
絶望プリンアラモード 第1回公演「Home Sweet Home」

以上をもちまして、「おちらしさんアワード2023~舞台版~」の結果発表といたします。最後までお読みいただきありがとうございました! 美術版の「おちらしさんアワード2023」結果発表も、あわせてお楽しみください!!


▽これまでのおちらしさんアワード結果記事はこちら▽

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