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千年前の、「おじさん構文」ならぬ「おじさん歌」

旧暦二月九日。『源氏物語』二月の場面を「真木柱」から。
「玉鬘十帖」の最終巻。
『源氏物語』のアイドル玉鬘は、夕顔の忘れ形見です。

「真木柱」から遡ること20年。
19歳の夕顔は、17歳だった源氏に連れ出され、愛されている時、物の怪に襲われてしまったのでした。

遺されたのが、まだ3歳の玉鬘。父は源氏のライバルである頭中将。
テレビドラマ『いいね!光源氏くん』では、桐山漣さんです。
夕顔は、頭中将の北の方に脅されたので、身を隠していたんですよね。
あわれ、玉鬘は乳母と共に九州へ下って行ったのでした。

九州でいろいろあり、都へ戻った玉鬘。
源氏の豪邸・六条院に迎えられます。
多くの男たちが玉鬘に夢中になり、おじさんになった源氏も養父同然なのをいいことに何かと言い寄ってきます。

ところが、無骨な男・髭黒ひげくろが力ずくでめとってしまいます。
六条院から姿を消した玉鬘。今は髭黒の邸にいます。
二月、源氏はひそかに玉鬘に文を送ります。

大将の、をかしやかに、わららかなる気もなき人に添ひゐたらむに、はかなきたはぶれごともつつましう、あいなくおぼされて、念じたまふを、雨いたう降りて、いとのどやかなるころ、かやうのつれづれもまぎらはしどころにわたりたまひて、かたらひたまひしさまなどの、いみじう恋しければ、御文たてまつりたまふ。右近がもとに忍びてつかはすも、かつは思はむことをおぼすに、何ごともえ続けたまはで、ただ思はせたることどもぞありける。
  かきたれてのどけきころの春雨に
    ふるさと人をいかに偲ぶや

真木柱

タイムスリップ意訳
源氏は「玉鬘が、髭黒大将のようなシャレの通じない無粋な男のそばにいるのでは、ちょっとしたお遊びのメールを送ることさえためらってしまう」と心中しんちゅう穏やかでいられない。「髭黒なんか玉鬘にふさわしくない」と思われなさって、それでも我慢しなさっている。しかし、春になってせっかく咲いた花を散らすような雨が降り続いていた時、「こんな日は玉鬘のところに行って語り合ったものなのに」と、淋しさがつのってたまらない。「髭黒がそばにいないときに玉鬘に見せてほしい」と、メールを侍女の右近にお送りなさるが、その一方、右近がどう思うだろうか?と心配なさって、きわどいことはお書きになれない。思わせぶりな言葉だけを歌にする。

しとしとと雨が降って、なんにも起こらないこんな時期に、あなたは、以前住んでいた家で歳をとっていく私のことを、どんなふうに思ってくれているでしょう?

ヘクソカズラ またの名を灸花

夏の盛りにも見られる花ですが、秋になっても咲いている灸花やいとばなはどことなく切ない……。

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