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『逆ソクラテス』

やふぅー٩( 'ω' )و
今回は、積読と化していた1冊を紹介します。

伊坂 幸太郎 『逆ソクラテス』 (集英社 、2023)

面白かったけど、人におすすめするかと言われたら、ためらう本書。
心の中に少年がいる、その思いを「わかるー」って思う方は楽しいかもしれない。



ざっくり内容

本書は大きく5つに分かれている。

逆ソクラテス
スロウではない
非オプティマス
アンスポーツマンライク
逆ワシントン

短編集の集成のような物語。
短編集だけど、登場人物や場所に共通事項があったり。
心の中の少年と書いたのは、過去を振り返りながら小学生の少年の日々が書かれているからだ。

とにかく、1つ1つの感想を書いてみる。


各項目の感想


逆ソクラテス

転校生の言う「俺はそう思わないけどな」って言葉。
小学生が対峙する、家族や身近な人以外の大人からの抑圧。

疑って考えることは、熟考するという面においても良いことだ。
そして、時に教師は恐ろしいほど、子どもたちに影響を与える。
しかし同時に、その世界で学ぶこともある。

小学生だった子どもたちが大人になって回想する物語。
その中で転校生が思い出され、教師という大人の抑圧や異論を唱えることを思い出す。
しかし、その転校生の行方は誰も確かなことを知らない。

さて、何が正解なのだろうか。

「そう思わない」と言うのであれば、どう思うのか。
なぜなのか。
どうれば良いと考えるのか。
覆しても覆される、世界や絶対のない世界で生きる。


スロウではない

ここでは大きく2つのテーマが書かれていると思った。
第一に、いじめについて。
そして、運動というか体育の授業が嫌いな人あるある。

悪や復讐は、結局のところ生産性がないように思う。
時に人は、それらの感情を”動力”とするには良いなどと言う。
いやいや、そんな。
恐ろしくてそんなこと言えない。
許すという、最も難しいことを成し遂げて欲しい。
それによって、人が暮らしやすい世界をバトンタッチしていけたら理想だ。
めっちゃ理想論だけど。

体育や体育祭、リレーが1番盛り上がるんだけどなー(持論)。
嫌だと考える人には、そういう考えがあるのか。
人に無理強いすることや嫌だと言っていることを、わざわざ面倒ごとにするのは嫌だな。


非オプティマス

権力のありそうな父親を持つクラスの子と、いつも同じようなシャツを着ている子。
そして、その2人を見ているクラス。
そのクラスの担任教師。

この物語は、本書で1番か2番かってくらい個人的に面白かった。

担任教師は、若くてどうにも頼りない。
その頼りなさは、生徒のみならず親にも噂が流れている。

クラスの生徒の父親は授業公開日の際に「しっかり言ってやる!!」という心持ちで学校に来る。
権力のありそうな生徒は、仕事で親も来ないのでいつも通りペンケースを落とすイタズラを考えて実行する。

学級崩壊?
いじめ?
なぜ強く注意しない?

後ろに並んでいるであろう親たちが、意見を飛ばし合う。

頼りなさげな若い教師は、そのことについて話合おうと授業の主旨を変更する。
これは、私自身が生きている間は考え続けるであろう答えの見つからないとこだ。
加害者も被害者も。

授業公開日、加害者側と被害者側のトンデモ接点に驚く最後はなんとも面白い。
物語のテンポが良く、考えさせられ、最後は意外性に驚く。
だから、この物語は1番か2番かってくらいに面白い。


アンスポーツマンライク

本書で、1番か2番に面白いと思った物語がこれだ。

アンスポーツマンライクファウル、以前”インテンショナルファウル”(インテンション)。
バスケ、スラダンを知っている人ならハッとするかもしれないファウルの1種。

名前からして選手に冷静さを取り戻させるというか、スポーツをしている者には痛いファウルだと思う。
「スポーツマンらしからぬファウル」であり、イエローカードに当たるものだ。

ここで、少し話が飛びます。
バスケのルールはスラダン時代から様々変わったとはいえ、ここだけは「インテンション」と明確なセリフ。

さて。
この物語では、アンスポーツマンライクファウル(アンスポ)が頻出する。
ミニバスの少年たちの物語だからだ。

高校に進むとバスケをしなくなっていくが、久しぶりにミニバス時を思い出しながら高校生になった彼らが集う。
そんな時、公園で事件が起こる。
刃物がちらつくような事件が起き、一緒にいる4人はそれぞれ動くが、主人公は一歩が踏み出せない。
「一歩が出せない人」。

事件あったよなって思い出す、今度は彼らが社会人になってから物語。
久しぶりに小学校の体育館で集まろうとする。
再び事件が起こるが、ここで2つの面白いと思ったことを書きたい。

1つは、叱り方。
そして、事件を起こすようなタイプの人間には様々背負っているかもしれない可能性。

叱り方。
怒鳴って力で抑圧しようとするコーチと、そのやり方に疑問を持つ元ミニバス選手。
親御さんからは、厳しくやって欲しいと要望もある。
しかし、それが本当に良いのかは結局のところ分からない。

事件を起こすタイプの人間。
これに関しては、やっぱり答えが出せない。
しかし、いかなる理由があるにせよ、他者を傷つけても良いという理由にはならない。
これは、自分の身に明らかな危機が迫っていても。

正しい知識を身につけ、訓練を受けた場合を除き、危機的な状況に追いやられた人間が正当防衛と過剰防衛を正当に判断出来るのだろうか。

厳しい教育も、今は様々なハラスメントがある。

逃げるが勝ち。
肉食動物と遭遇した草食動物は逃げているじゃないか。
あれと同じ理論で良いと思うんだよね、人間も。


逆ワシントン

真面目と正直さについて。

どのようにして生きていくか、すなわち選択していくか。
それを問われるような物語だ。

「怒らないから、正直に言うんだ」

こう言われた人は、どれだけいるだろう。
そして正直に言った後に怒られた人、怒られなかった人は。

正直さは、時に正論を相手にぶちかまして傷つけることもある。
真面目さも、真面目の定義がよく分からん。

まとめ

自分の小学生時代を思い出した。
何かに扮して、友達と会話をした。

かつての少年の物語は、かつての自分を思い出す。

「事実は小説よりも奇なり」

本を読んで過去を思い出し、改めて考える。
おかしな世の中だな。

全部わかる!!って言う人と仲良くしたいと思わんが。

冒頭でおすすめするかと言われたら、ためらうと書いた。
やっぱ、おすすめしたいかも。


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