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『正欲』

やふぅー٩( 'ω' )و
今回は、読んだ本の紹介をします。


朝井リョウ著 『正欲』 (新潮社 、2023)


「読んだら、読む前には戻れない」だっただろうか。
そんな文言が、どこかに書かれていたような気がしたのに見つからない。

そんなの当たり前では?と思い、本書を手にしなかった。
それは例えば、「もうAがなければ、生きていけない」というような言葉が示す。
こういうこと言うと、「今まで生きてたじゃないか」と言われる。
それは、「Aを知らなかった」という条件づけが前提となる。

Aを知らずに生きる
Aを知った後、以前と同じく生きる

そういうわけで。
「読書後には戻れない」という言葉が、やたら気になっていたことと同時に、捻くれ者の私は「それでは読まん」と思っていた。

だがしかし。
この表紙が、どうしても目を引く。
この鳥は、落下しているのだろうか。
飛ぶのを諦めたのか。
表紙が濃い青なのだから、水面下なのか。
慌てている様子もないので、水面下で静かに生きているのか。

結果論から書くと、本書を読んで良かった。
また、後戻りに関して書くと、冒頭から最後まで通常運転であり、何も思うことはなかった。

「生きる」ことに関して。

もう、卑屈にすっかり飽きたのだ。
生きていきたいのだ。
この世界で生きていくしかないのだから。
楽しみたいものを罪悪感を抱かずに楽しみ続けるための方法を、今のうちに見つけ出しておきたいのだ。

朝井リョウ著『正欲』(新潮社 、2023)、379頁。

本書のタイトル「正欲」は、「性欲」にもつながる。
(最後にある解説では、フロイトが引用されている)
人とは、それぞれ何かしらの欲求を持ち、日々、多数派に沿えるように生きている。
それに疲れる人がいる。
多数派の意見こそが、自分の意見と同じだと言う人もいる。

本書は冒頭から、終わりが見えるような始まり方。
冒頭の情報が、どのように繋がり、最後へと導かれていくのかを読む。

個人的に、このような文章構成がとても好きだ。
緻密で計算され尽くされ、一切無駄のない削ぎ落とされて、洗練された文章は美しい。

「多様性」
用いるのに、便利な言葉だ。
例えば、多様性を定義するのに100ほどの条件が必要であっても、
この言葉を利用する際に、多くの人は完全なる条件付のもとに用いていないかもしれない。

「繋がり」
SNSなど、常時オンラインで辟易していることを見聞きする一方で、
誰かと繋がることを諦めている人もいる。
人は繋がりから逃げられず、繋がりを求め続け、生きている根底にあるのは繋がりである可能性。

これらを含めて、良し悪しの二元論で考えるべきではないと思う。
しかし、多岐にわたる選択肢が不要な複雑さをもたらす可能性もある。
多様性の持つ特有性のものか、人のエゴだろうか。


最近、意図せず斬新な視点の世界観を持つ本を読んできたが、
同時に現実では、信じられないニュースを見聞きする。

「事実は小説よりも奇なり」を目の当たりにしながら、
本書は人の生き方や考えるによく、夢中になって読んだ。

興味深い本。


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