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レンガ職人と息子(父の日に寄せて)

来る今週末の父の日の寄せて、はたらくすべての父親に捧げます


男がレンガを積んでいる

朝から晩まで、暑い日も寒い日も

痛む腰をさすり、ひび割れた手をじっとみつめる

みんなはたらいているし、自分はこれをしろといわれた

人生はそういうものだからだ

そのうちレンガは壁になり、次の日にもポケットにコインが残るようになった

この壁が倍の高さになる頃には、息子を学校に行かせる金が貯まるだろう

息子が毎朝男の後ろを通り、学校に通うようになったころ、

壁はもっと高くなり、大きな建物の姿が現れはじめた

「パパが作っているのは、偉大な建築家が設計した大聖堂なんだって。先生が言っていたよ」と、息子は教えた

男は誇らしさと奉仕のよろこびにつつまれて、レンガを運ぶようになった

自分の仕事が神の御心とつながり、多くの人の悲しみをいやす未来に心を躍らせながら、男は働きつづけた

それから十年の月日が経ち、大人になった息子が男に言った

「この大聖堂が完成するには、手で積んでいたらあと300年近くかかるんだって」

「だから、パパは完成するのを見られない」

「それに、僕はもう十分パパを養ってあげられるお金を稼ぐようになったよ」

「しかも、僕がいま作っている機械が完成すれば、パパがこれまでに積んだレンガと同じ数のレンガを、一か月で積むことができるよ」

「だから、もうこんな仕事やめなよ」

男はレンガを手に持ったまま、痛む腰をゆっくりと伸ばして言った

「ありがとう、でもおれはレンガを積み続けるよ」

息子はあきれて言い返した

「どうして?もうレンガ積みはしなくていいんだよ。お金もあるし、パパが今やめても、大聖堂はできあがる。いったいパパはここで何をしているの?」

すると男は、ひび割れた手でゆっくりとそのレンガを粘土の上にのせ、置かれたレンガをじっとみつめた

「レンガを積んでいるんだよ」

息子はあきれたまま首を傾げた

男は息子にほほえみかけ、愛おしそうにレンガを撫でた

「美しいだろう?」

息子は首を傾げたまま、困ったように、小さく笑った

「僕の機械が積むレンガは、パパが積むほど美しくはないかもね」

男は息子にほほえみかけ、愛おしそうに息子を撫でた

「もちろん、美しいさ。レンガも、機械も、お前も、みんな」

そして男はその愛おしそうなまなざしのまま、ひび割れた手をじっとみつめた


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