《最新トレンドはあえて傾けて撮影?》ブラジルのレーシングフォトグラファーがこだわる写真撮影テクニック。
スマートフォンの普及と共に、誰もが簡単に写真を撮り、加工をする事が出来るようになった。バイクを運転する者の多くにとって、バイクの写真をかっこよく撮りたいという願いは共通のものだろう。
誰もが発信者となり友達や同僚にバイクの素晴らしさを伝えることが容易になった一方、その爽快感や力強さを写真という媒体で表現することは難しく、ノンプロには不可能だと諦めてしまっていないだろうか。
バイクを題材にして、どうしたら魅力的な写真が撮れるのだろうか。Neoriders Projectではこの問いに対して学びを得るべく、スーパーバイク選手権にも帯同した経験のあるレーシングフォトグラファーに取材を行った。
僕がレーシングフォトグラファーになったわけ
撮影テクを教えてくれたのは、ペドロ・ガルベリーニさん。ブラジルのサンパウロ州に生まれ育った彼は高校卒業後、スイスに一年間の留学を経験した。留学の様子を記録するため、セミプロ仕様の一眼レフを購入した。そして、同じく写真家であるお兄さんの助言を元に自由な時間の中で練習を重ねた。この時の経験がプロを志すきっかけとなったという。
留学後にはお兄さんのアシスタントとしてキャリアをスタートした。プロのドライバーであるお兄さんの友人のつてを基に、サーキット上で、たくさんの仕事をしていたという。
「サーキットのイベントでたくさんのプロドライバーや一般人の写真・動画の撮影を行いました。ブラジル各地のレーシングトラックやカートトラックで仕事をしたことで、高速走行する被写体を撮影することに安心感を覚えるようになりました。」
そのうちお兄さんは別の領域で仕事をすることになり、彼が写真・動画の作成を全て引き継いだ。
「スーパーバイクのチャンピオンシップに半年間帯同していたこともあります。カートトラックで働いていたときは、様々なプロのドライバーや、”Rotax Max Challenge”のような重要な大会の撮影を担当することができたので、とても楽しかったです。」
バイク撮影で一番重要なのは天気
モータースポーツ、それも特にバイクの撮影を長年続けてきたプロだからこそ知っているテクニックにはどのようなものがあるだろうか。人の言葉遣いは人の性格によって変わるように、カメラマンの技術はカメラマンの意識によって変わると考えられる。構図や加工方法の詳細な技術の前に、カメラマンが普段何に意識を向けて撮影しているか知ることが重要ではないだろうか。
「天気が最も重要であると考えています。バイクやトラックに関しては綺麗でなくても事物を記録する目的は達成することが出来ます。しかし、良い天気や光を得られなければ、使える写真が撮れないことがあります。」
筆者:「そうすると、晴れの日が一番良いということでしょうか?」
「いいえ、ベストな気象条件は曇りです。晴れではありません。」
これは、レーシングフォトグラファーに特有の事情が関係している。サーキットで撮影する場合、注目のコーナーやストレートが存在し、どうしてもカメラとバイクの位置が固定になってしまう。そのような時に、晴れであると太陽によって強く影が出来てしまうリスクがあり、好ましくないそうだ。
普段、公道で撮影する場合には立ち位置を柔軟に変えられるため問題ないが、サーキットで撮影会をする時は、曇りの日が狙い目だ。
レーシングフォトグラファーに求められる撮影の意識
他にもレーシングフォトグラファーに求められる固有の撮影方法・スキルはあるのだろうか。
「早く大量の写真を作成することが使命です。そのため、あまり加工は加えません。プリセット(フィルターのテンプレート)を作成しておき、それを用いて効率的に写真を仕上げています。」
「彩度を上げすぎると、嘘っぽく、人工的な絵になってしまいます。私は写真を写実的に見せたいため、むしろ彩度は下げることが多いですね。白黒写真にすることもあります。」
写真加工の際には以下のような操作を行うそうだ。
・彩度-
・シャドウ+
・ハイライト-
・明瞭度+
・コントラスト+
これらの質問からわかったことは、ペドロさんはアーティスティックというよりは、写実的な作風を好むことである。特にレーシングフォトグラファーという職業では、”条件がそろわず写真が撮れなかった”という言い訳は許されないのだろう。以降の彼の取材でも、まずは現実に存在する姿を、余裕を持つように写真に収めて、そこから目的に応じて修正していくというスタンスが伺えた。
写実的に撮影した素材があれば、このようにアーティスティックな加工を施した表現をすることも可能だ。
この「写実的に撮る」という考え方は、アマチュアの撮影でも使えるものだろう。現代では様々なカメラやスマートフォンアプリを使って撮影する事が出来るが、なるべく画素数の高いカメラで、高倍率にして撮ることが重要である。特にバイクは高速で移動したり、気象条件の整わない屋外にあるため、それらを考慮してなるべく高解像度の写真を撮ることを意識したい。
雑談:ブラジルのバイク事情
途中で、ブラジルのバイク事情について教えてくださった。
ペドロさんが生まれた町では、バイクの方が自転車よりも数が多いという。
「バイクが好まれるのは、単純に安いからです。バスなど公共交通の運賃よりも安く移動できます。車と比べてもガソリン代がかからず、渋滞時にすり抜けられるため有利です。免許を持っているだけでいい仕事に就けることもあり、貧困層の人であっても、まず初任給が入ったらバイクを買う人が多くいます。」
さらに、コロナ禍で一段と、バイク人気は加速しているそうだ。
「免許取得者が増加しました。(Uber Eatsのような)デリバリーサービスで働く人が増えているためです。ブラジル人はバイク免許を取得することで、選択肢を獲得しているのです。」
最近のバイクフォトのトレンドは「あえて傾ける」
「そうそう、カメラを傾けて撮るとかっこいいのが撮れるんですよね!」
ペドロさんによると最近、地平線を傾けた写真がフォトグラファーの間で流行しているという。
「一般的に、地平線を水平にして撮ることは写真の絶対的なルールです。しかし、MotoGPやドライバーの個人SNSを見てもわかる通り、地平線をあえて傾けた写真が流行しています。地平線が垂直に来るくらい回転させた写真もあります。」
確かに、Instagramを開いた小さなスマートフォンの画面では、傾いた写真も違和感がなく受け入れられる感覚があった。バイク撮影では、なぜこのような技法が好まれるのだろうか?
ペドロさんは、自らの体験を踏まえてその理由を教えてくださった。
「サーキットのイベントでは、一般人向けのライディングスクールがありました。私は彼らの撮影を担当していたのですが、プロに比べたらそれはお世辞にもかっこいい乗車姿勢ではありません。それでも、私は自分の写真を通じて、彼らに自信を持ってもらいたいのです。『ちゃんと乗れている感』を演出することがバイクフォトグラファーの腕の見せ所なのです。」
「シャッタースピードを調節し流し撮りをすることで、スピードが出ているように思わせる事が出来ます。また、少し広角に撮影しあえて傾けてクロップする(切り取る)ことで、バンク角*を深く見せる事が出来ます。そうすることで、お互いに楽しい撮影ができるのです。」
*バンク角... 地面垂直方向とコーナリング時に倒れこんだ時の車体の角度
ペドロさんの撮影。流し撮りのためスピードが出ているように感じられるが、乗車しているのは一般の方だそうだ。
以上、本記事では、撮影の随所で活用できるテクニックをお伝えした。これらを活用することで、バイクを題材にした写真が魅力的になり、被写体であるライダーが心地よくなるような撮影が可能になることを望んでいる。
Neoriders Projectでも、バイクの魅力を伝えるためInstagramやTwitterでメンバーが撮影した写真を公開しています。こちらも是非参考にしていただき、バイクの魅力を一緒に発信していけたら幸いです。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?