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人生の岐路に立つ #2000字のドラマ


「アイツとは別れたの。」

またか、とさほど驚きはしない。
優茉が前の彼氏と別れ、新しい人と付き合っている話を聞くのは慣れている。

「えー次の人はどこで出会ったの?職場の人?優茉って本当にモテるよね。優茉が彼氏いなかったのって大学受験の時くらいじゃない?本当羨ましいー。」

生後半年を過ぎたという娘を抱きながら理沙が面白そうに反応している。
羨ましいってあんたはもう結婚してるでしょうが。理沙は2年前に大学時代から交際をしていた彼と入籍した。そして今年5月に生まれた娘を保育園に入園させ、来年度には職場に復帰する予定らしい。大手IT企業でシステムエンジニアとして働いている理沙は、キャリアも子供も両方手に入れている。システムエンジニアの仕事はチームで働くので、子育てママでも働きやすいと先輩から言われているそうだ。大手IT企業であれば、オンライン設備もあるだろうし、在宅でも働けるだろう。私からしたらそれが羨ましい。

「由衣は?彼氏できたの?というか、転職するんだっけ?あれ、もうした?」

ずけずけと聞いてくる。結婚して子供がいると未婚の時とは違い、どこか高い所から私達が見えるのだろうか。

私たち3人は高校2、3年生の時に同じクラスになったことをきっかけに仲良くなった。29歳になる今年、半年ぶりに3人で会った。産休に入り、暇だという理沙の家で会った以来だ。久々に都内に出掛けるし、お洒落なカフェが良かったのだが、理沙のリクエストでファミレスで会うことになった。子供がいるとオムツ替え台があることと、子供が泣いても周りから白い目で見られないことがランチ場所選びの条件になるらしい。

「転職はしてないよ。転職サイトには登録したんだけど、やっぱり7年間も働いてるとね。古い会社だし、おじさんばかりだし、文句も山ほどあるけど、仕事はこのままでプライベートを充実させようかなって。」

「プライベートを充実って?やっぱり彼氏できたか!」

理沙の頭には恋愛しかないのか。自分の恋愛の結末が見えてしまったから、他人の恋愛の目撃者になりたいのだろうか。

社会人になってから彼氏がいなかった訳ではない。友達の紹介で付き合ってみたこともあった。メッセージアプリでやり取りしたときは、趣味も違うし、異なる点が多すぎてうまくいかないだろうと思ったが、実際会ってみると良い人オーラが漂っていて、こういう人と結婚したら正解なのかもしれないと思ったからだ。そして何よりも、彼氏がいない期間が長すぎて、リハビリから始めてみようと思ったのだった。ま、案の定うまくいかなかったわけだが。

「いや、カメラだよ。2年前くらいにネットで見つけてカメラのサークルに入ってるって言ったでしょ?今までは遠出するときにだけ参加してたけど、最近は隔週くらいで活動というか近場に出かけて撮影してる。車も出してくれるし、カメラに詳しい人もいるし、楽しいよ。」

「カメラか。確かにインスタとかにもよくアップしてるよね!いや~今のうちに出掛けときなよ。子供ができたら中々行けないからね。」

うとうとと母の肩に頬をつけて寝てしまった理沙の娘。起きないようにそっとベビーカーに寝転がらせる。

「それで?優茉の今の相手はどんな人なのよ。」

「いや、別れただけだよ。新しい人とは付き合ってない。」

「え?珍しいね。どうしたのよ。」

「私さ、海外に行こうと思ってるんだ。だから彼氏とは別れたの。何年か向こうに行こうと思っているから、待ってもらうのは申し訳ないし、それに何より海外に行こうって思った時、彼氏のこと迷いの天秤にかけることすらしなかったんだよね。それってもう答えが出てるよね。」

出た。優茉はこういう奴だ。いつだって自分で何でも決めて先に行ってしまう。

「ひぇ~流石というか、なんというか。けど海外って言ったってどこに行くの?仕事は?」

「それはこれから。看護師が海外派遣される日本のプログラムがあるんだよね。それを使って行こうと思う。だからまだ国はわからない。受ける側は働く国を決められなくて、採用側が決める制度なんだよね。今結果待ち。けど多分受かるかな。」

「いや~もう驚かないよ。優茉は会う度に情報のアップデートが激しいわ!聞きたいことは山ほどあるけど、海外もどんどん行って。けどね、私が言いたいことは子供を持ちたいのか、そうじゃないのかくらいは今決めておけってことよ。結婚はいつだってできるけど、妊娠はそうじゃないからね。考えておけばよかったって後悔はしないでよー。」

どうしてこうも進んでいくのかな二人は。
この二人といると、このままじゃいけない気がしてくる。

誰かが世話をしてくれる。
そんな時間を疾うに過ぎた私達は、人生の岐路に立つ。




#2000字のドラマ

読んで下さりありがとうございます!いい記事がかけるように頑張ります。