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「あ、じゃあそれ私やりますよ?」~在宅で絵本の代理店になってみた~

■セミオーダーメイド絵本の制作と販売
テレビの情報番組で、かわいい絵本の紹介をしていた。
生まれた場所や病院の名前、初めてお祝いに来てくれた人なども登場する、セミオーダーメイド絵本の紹介である。
なにそれ、いいじゃん。

タイミングよく私の周りは出産ラッシュ。
ぴったりなギフトに胸躍り、さっそく販売しているという、
今はなきプランタン銀座へGo!
あったあった!
イラストも海外ちっくでかわいい。
これはいい。
さっそく地元のおともだちへヒアリング。

この絵本は、生まれてきた赤ちゃんの名前、身長、体重だけでなく、
初めて病院にお祝いにかけつけてくれたという設定で、おともだちが3人まで登場させられる。
3人といっても裏技で1人目を「たかさきのじぃじとばぁば」2人目を「とうきょうのおじいちゃま、おばあちゃま」3人目を「ひろみとみわ」みたいに無理くりくっつければ登場し放題だ笑。

そんな感じで事前にヒアリングしたり、一味違う出産祝いに出産後のママとも話は盛り上がる。もらったデータをお店に出して1週間~2週間ほどで納品されるシステムだ。
直接友だちのおうちへ郵送してもらうと、反応は上々。けっこう喜ばれた。この反応にご機嫌になった私は、かたっぱしから出産した友人にこの絵本を贈りまくった。
そして「登場したじぃじもばぁばもみんな喜んでくれたよ!」という感想にこちらも満足。
それからみんな言うのだ。

「どこで売ってるの?」と。
「東京はこういうの売ってていいわねぇ」と。

たしかに。
なぜこんなすてきな商品をみんな知らないのか。←王様のブランチで大々的に紹介され意外と知られてた。
なぜここでしか買えないのか。←実際は全国に売ってたし、ネットでも売ってた。

そこで私は思った。

「あ、じゃあそれ私売りますよ?」

さっそく絵本の裏表紙に印刷されいた販売元に電話。
「あのー、この絵本めっちゃ好評なんで私売りますけど?」
このとき、電話に出た方は実は日本の総代理店の社長さんで
「え?じゃぁ、代理店やってみますか?」
とのことで、あれよあれよという間に代理店になることに。

契約を済ませたら、開業届を出して代理店スタート。
実は私はこの時新婚ほやほや。
いずれ生まれてくるであろう我が子、生まれてすぐ保育園に入れるのはなんだか忍びない。そこへこの自宅を事務所にしながらできる絵本の代理店システム。自宅にいながら子育てできそう。

最高。

今ならリモートとか在宅とか普通になってきたが、当時はまだ珍しく「SOHO」とかなんとか呼ばれていたのだよ。
Small Office/Home Officeだよ。
ご存じ?

そんなこんなで、旦那様に
「すみませんが営業しなくても注文が入ってくるようになるまで。
ん-、取次店100店舗になるまでは、子どもは作れませんのでよろしくお願いします」
とごあいさつ。

一人で代表・広報・営業・経理・制作などなど、とりあえず手探りでスタート。絵本だから子ども相手、という商品ではない。ターゲットは大人である。まずは知ってもらわないといけないよね?
ってことでまずはチラシ作り。
チラシは広告代理店にお勤めの、インターナショナルな旦那様(当時の⁉︎)に依頼。
かっちょいいのができました。
しかし、効率の良いボスティングの方法もわからず、やみくもにポスティングし、反応はゼロ。

じゃぁ、取次店を獲得してそこに売ってもらえばいい。
飛び込み営業もしてみた。
絵本を詰め込んだガラガラをひきながら、子ども服、ギフトショップ、産婦人科。。。
26歳の小娘がとびこんでも
「結構です」
「時間がないんで」
「ぴしゃ!」
ガラガラ。。ずるずる。。お、重い。。。

やせたよね。。。

このやり方あってる?
あってないよね。きっと。
早く舐められない貫禄ある女性になりたいって思ったよね。

とりあえずこの非効率的なやり方は間違っている。
という事だけはわかった。
次の方法に移ろう。
一人でやってるとここらへんがいい所である。
営業方法を変えてみよう!って思いついても会社だといちいち上司の承認を得ないと動けない。でもひとりなら自分だけで承認完了である。
メルマガの文面だって、配信時間だって、発送完了後のお礼メールだって、何時がいいのか、いつがいいのか。試し放題である。

さてさて、営業方法を変えてみる。
ネットで全国のギフトショップ・雑貨屋・産婦人科などにメールを送ってみることにする。そこで、サンプルが欲しいと言ってくれたところにサンプルをお送りして、営業をかける。
そんな単純なことに気づかないくらい初心者である。
やってみないとわからない。
26歳。新婚。

おお、30通のうち1通くらいサンプル希望の折り返しメールが来るではないか。すばらしい!!東京都内は直接会いに行く、その他はメールとお電話で対応。そうやってひとつひとつ取次店を獲得していくのは本当に楽しい!

開業届に「東京OFFICE」と入れたことが功を奏したのか、あちこちから来る問い合わせの電話。
大口のご注文は日本の総代理店である本部にヘルプ。
ヘルプどころか全部やってもらっちゃう。
丸投げ?
大口の注文が入るたびに本部に振ってたら、本部からは小さな取次店のお問い合わせはちょこちょこうちに回してくれるように。
おお、これぞwin-win。
あれよあれよという間に取次店は目標の100店舗になりましたよ。

ということで、

「さぁ!100店舗になりました!もう子どもを作っても大丈夫なのです!」
と旦那様に再びごあいさつ。

あれよあれよという間に子どもも二人生まれましたよ。
男の子と女の子。
一人オフィスなので出産の日も、産み落とした翌日も、
もちろんPC持ち込んで受注対応です。

それでも赤ちゃんがいるとさらに広がるママたちの輪。
お仕事も順調です。

絵本は赤ちゃん誕生のお話だけではありません。
ストーリーはいくつかあって、お誕生日やゴルフにクリスマスなど、いろんなシチュエーションに対応しています。
基本的に絵本をギフトに選ぶ人に悪い人はいません(←偏見)
怒鳴り散らすクレーマーもほぼほぼいません。
いきなり、実際に商品が見たいとたずねてくるご老人はいらっしゃいましたが、ショールームや会社だと思っていたら普通の一軒家だった、みたいな笑

絵本には40文字以内でメッセージを印刷できるのですが、
みなさんの温かいメッセージを読みながら感動する毎日。
それでもメッセージを決められない、というご相談にはエピソードを盛り込んでいくつか例文を作ってあげたりもしましたよ。
英語バージョンもあるので、その際は当時の(!?)インターナショナルな旦那様に翻訳を依頼。ファンキーな旦那様だったので逆に言葉遣い心配だったけど笑

このお仕事は何といってもクリスマスが稼ぎ時。
サンタクロースと一緒にサンタさんの国に行くストーリーもあるのです。

とにかく11月~12月は大忙しです。
12月中旬には注文を締めて、製本、ラッピングに集中しないとクリスマスまでのお届けが間に合いません。
なんてったって受注対応するのも、入力するのも、製本するのも、ラッピングするのも、発送するのも私だけです。

そんな、もうあと2日でクリスマスというとき、1本の電話がありました。
「もう、クリスマスまでには間に合いませんよね?」
事情を聴くと、そのお母さんには兄と妹の二人のお子さんがいらしたそうですが、数年前、妹さんがご病気で亡くなられたとのこと。
それが昨日、お兄ちゃんが「〇〇ちゃん(妹)は天国でサンタさんに会えるのかなぁ」とつぶやいたそうです。
「この絵本のことを知り、せめて絵本の中で妹がサンタさんに会えれば、とお兄ちゃんと話していたものですから」
と言うのです。

もう締め切りなんか関係ないですよ。
もう泣きながら作りましたよ。
間に合わなかったら、私が当日配達しちゃいますよ涙

そんな思い出の1冊もあったりしました。



そもそもこのお仕事、わが子を保育園に預けるのは忍びない、
という理由で自宅を事務所にして開業。
いや~甘かった。

子どもたちは0歳と2歳。
それがまわりでちょろちょろしてたら仕事できます?
一人はそこらへん走り回ってひっくり返ってギャン泣き
一人は背中でおんぶされながらギャン泣き
仏のような精神力がなければ仕事はできませんよ。

ギャン泣きの中、お客様のお問い合わせの電話にも
「お客様のお子様が泣かれていて、少々聞こえづらくて申し訳ございません。おほほほほ。」
とか、わけのわからん嘘をついてみたり。

そのころには、あの有名な広告代理店D社からも、
「今月中にノベルティで3万冊ほど」とかいう恐ろしい無茶ぶりの電話とかも来るように。

あまりの大口発注に、思わず
「少々お待ちください。ただいま広報担当と変わります。」
とか言いながらい、いったん保留にして少し声のトーンを変えて
「お電話変わりました。広報担当の〇〇と申します。」
と、なぜか一人二役みたいなことしてたよね笑
一人舞台?笑

まわりから「そろそろ人を雇え」と言われても、
どーも人を信じることができない私。
それはなかなか無理なご相談。

子どものギャン泣きに耐えられず、思わず保育園を申請してみました。
保育園に入れるのが忍びないなんで誰が言ったの?←あんただよ
保育園に入れてみると、それはそれは天国のよう!
保育士の先生が天使に見えます。
仕事がはかどるはかどる!!

宇宙人みたいな子どもたちと、一日中宇宙語を話しながらのお仕事。
気が狂いそうだった私を救ってくれたのも保育士の先生。
もう、神様ですよ。
すっかり心のよりどころにさせていただき、その後、
入学、卒業、成人式とずっと見守っていただき節目節目でご挨拶させていただくのは、小学校の先生でもなく、中学校の先生でもなく、高校でも大学でもなく紛れもないこの時の保育士の先生方なのでした。
ありがたやぁ~。


そもそも性格がきっちりなしし座のB型。
え?関係ないですか?
自宅がオフィスだからって、のんびりなんかしませんよ。
9:30始業に合わせて、メイクも着替えもばっちりします。
ええ、今みたいにリモート会議とか全くなかったですがね。
いいんです。自己満です。

12:00~13:00 はお昼休憩です。
電話も留守電にセットですよ。
そして17:30終業です。

ひとりで寂しくなかったか?
さびしかったですよ。
保育園に預けるってことはママたちは働いているんです。
それってどこかに所属してるってことで、忘年会とか、新年会とか、
お花見とか、、、歓迎会とか、、、

くだらないですか?
そう、くだらないんですよ。
でもひとりで黙々とやってるとなんかさみしい時が、ふとあるのです。
リモートや完全在宅が普及している今ならきっとわかってもらえる気がする。でもそれってどこかに所属してるからまださみしくないと思うのです。
こちとら本当の一人です。
だから、フリーの人と境遇は似ているのかな?

が、しかし、さみしいが楽しい。
楽しいがさみしい。

でも自宅を事務所にして最初に思ったのが
雨の日に「あぁ、もう通勤靴で悩まなくていいんだ!」(そこ?!)

とにかく、このお仕事がなんだかんだ15年弱続けられたのは、やっぱり自分で決めて自分で采配できたからなんだろうなぁ。
楽しかったなぁ~。
その後、わたしの

「あ、じゃあそれ私やりますよ?」

が発動し、このお仕事は、実家の父親の会社に絵本事業部を作ってもらい、兄嫁などに引き継いだりしながらフェイドアウト笑

以上
「あ、じゃあそれ私やりますよ?」~やったことない仕事をしてみたら~
「セミオーダーメイド絵本の制作と販売」編でした。

その他のシリーズは
・江戸切子職人
・スタイリスト
・転職コーディネーター
などなどがあるのであります。

#やってみた大賞

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