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【病理学】基礎医学の教科書・勉強法

(1)病理学とは

病理学 pathology は、
病(やまい=pathos)理(ことわり=logos)を学ぶ学問で、
要するに、
「どのようにして病気が発生するか」
ということを学ぶ。

病理学は【基礎と臨床の架け橋】としばしば言われる。
病理学では、
その前に学んだ生化学、生理学、解剖学、組織学などを前提に、
正常なものがどのように変化すれば異常(=病気)になるかを学び、
それはつまり、
基礎医学の中で唯一「病気」そのものを中心に扱っているからである。

臨床医学では、
正常の人体の機能から病気のことまでを学ぶ。
すなわち、
どのような病気があり
どのように診断し、
どのように治療するか、
を勉強する。

病理学では、
この病気の部分を勉強するのである。

それ以前に学ぶ基礎医学の多くでは、あまり病気を扱わない
そのため、
しばしば医学としての面白さを感じられず、
医学生があまり勉強しないという現象が起こる。
(本来、そこは教員の工夫が必要と思うのだが)

なお、
どのように治療するかを基礎医学として勉強するのが、
薬理学(薬の作用を学ぶ)に相当する。


(2)病理学で具体的に学ぶこと

病理学実習ではしばしば
顕微鏡を使って病気になったヒトの組織を観察してスケッチする。

そして、
この作業により多くの医学生が病理学に苦手意識を持ち、
病理学が嫌いになることとなる。

あくまで【個人的意見】だが、
スケッチをする意味はないと思っている。

【病理学で学ぶべきこと】は、
(1)病気の原因は何か(病因 etiology)
(2)どのように病気が形成されるか(病態形成 pathogenesis)
(3)病気が形成される過程でどのような形態的変化が起きるか

   =病理学では主に細胞や組織の形態の変化を捉える
(4)その病気がどのような振る舞いをするか
ということに集約される。

たしかに病理学は細胞や組織の形態変化を基盤に考えるが、
スケッチでは(3)形態変化ばかりにフォーカスが向き、
(1)(2)(4)が抜け落ちがち
である。

スケッチに割く時間があれば、
(1)~(4)すべてを有機的に捉える学習、
例えば具体的な臨床症例を用いたケース・スタディなどを行う方が、
病気のイメージをつかみやすいだろう。


(3)オススメの教科書

まず、簡単本を通読し、
その後に成書を通読するのが理想的である。

はじめから成書を読めればそれでもよい。
復習用として簡単本を利用するのもありだ。

あとは、形態学であるので、
アトラスを用いるかどうかであるが、
アトラスは各疾患に少数の写真しかないため、
医学生がそれで実際の組織像を理解できるかは疑問である。
(自分にはできなかった)

ⅰ)簡単本

色々あって、何を読んでもいいが、
オススメは【よくわかる病理学の基本としくみ】である。

他にも以下のような本がある。
特に仲野先生の【こわいもの知らずの病理学】は医療従事者向けではなく、一般読者向けに書かれたものであるにも関わらず、病理の概要をよく捉えている。

なお、初期臨床研修医、消化器系臨床医および病理診断科専攻医で病理を学ぶ過程では、分野として消化器病理に限定されてはいるが、【臨床に役立つ消化器病理 ギュッと1冊!まるごとBOOK】が実務上の内容に触れており、オススメできる。

ⅱ)成書

間違いなく【ロビンス病理学】が筆頭である。
その他に【ルービン】【標準】などがある。【ロビンス】が特にお勧めではあるが、これらのいずれかをしっかり読み通せれば、敢えて「これじゃないとダメ」とは言わない。好みや予算などと相談して選ぼう。
なお、【ルービン基礎】は簡単本とも成書とも言えない中途半端な感じであり、個人的にはお勧めしない。

ちなみに、僕個人は学生当時ロビンスを通読し、簡単本は病理医になった後で何冊か読んでいる。

これは原著の学生版の訳書である。英語で1000ページ以上読めるならば原著でもよいが、通常の医学生にそれほどの英語体力はないだろう。日本語でも内容は難しいので、確実に読むためには訳書を勧める。少なくとも総論だけでも通読するべきだが、後述の通り細かな分子・酵素・遺伝子などの名称を事細かに覚える必要はない。大筋を掴むのが大切。大筋だけでも、簡単本と比べて、より詳細・正確に記載されている

ポイントは各論的な内容よりも「総論的内容」をきちんと理解することである。ここでいう総論的は単に「病理学総論」という意味ではなく、病気のストーリーを説明できることである。
例えば、「病理学総論」においては、炎症とは?急性炎症と慢性炎症の違いは?創傷治癒過程は?腫瘍とは?癌とは?梗塞とは?血栓と塞栓の違いは?といったことを理解することは重要である。細かいカスケードの酵素の名前やアポトーシス経路の分子の名前を覚える必要はない。大体の流れを理解すればよい。教科書では絶対に覚えるべきものも、重要な分子だが暗記してしまうほどではないものも、同様に太字や下線で強調されて、初学者がそれを判別するのは困難である(敢えて言うならばそれこそが授業で聞くべきところであろう)。個々の名称は、あとで必要になったときに覚えればよい。
また、「病理学各論」では個別の疾患を臓器毎に学習するが、ここでも個々の病気の詳細を暗記するのは不可能である。病気の大まかなストーリーを知るべきだ。例えば、心不全の分類や機序はほとんどすべて重要であるが、骨髄異形成症候群の細かな分類を記憶する必要はない。骨髄異形成症候群全体がどういう疾患群で、大体どんなものが含まれるか分かればよい。悪性リンパ腫の組織型を全部覚える必要はないし、神経変性疾患を細かに理解するのは困難である。脳梗塞の機序は重要だが、脳腫瘍の組織型を覚えるのは難しい
どうやってそれを見分けるんだ!?
それは、【病気の成り立ち】を理解するのが重要ということである。
逆に、個別の組織型や細かな病型を事細かに記憶する必要はない⇒簡単本ではここら辺がほとんど完全に省略されていることが多い
(個別のもので重要なものは、授業で強調されるだろうし、臨床医学でも学ぶのでそのときに詳しく勉強すればよい)

ⅲ)アトラス

アトラスにも比較的コンパクトなもの大判のものがある。
簡単・成書と分けないのは、アトラスはアトラスだからである。
詳しい記載は成書を参照するのが正しい

【① コンパクト系】
僕の知り得る限り以下の2択かと思う。どちらもバランス良好。あとは好みで、という感じ。

見た目のコンパクトさ以上に、わかりやすく、意外と詳しくポイントを押さえて書かれている。これこそ医学生、研修医、病理専攻医まで使用できる本だろう。

下記の大判系に記載する「組織病理アトラス」のシリーズから、医学生~研修医向けに分離された本。非常にバランス良く記載されていて、病態生理への言及が特にわかりやすいと思う。

【② 大判系】
多少値が張ってくるし、医学生に必須ではないと思う。その分教科書をきちんと読む方がいいだろう。余裕があればもちろん買ってもよい。組織像は本によって差があるので、比べる写真が多ければ多いほどイメージがつくだろう。ただし、前述の通り、個人的には組織像ばかりにとらわれるのではなく、病気のストーリーを理解することが重要だと思っているので、アトラスはあくまでオプションである。

よく書店でみかけるが、正直中身を把握していないので、ここで書評を述べることができない。

歴史ある日本の代表的アトラス。むしろ病理専門医試験の前に役立つ。

カラーアトラス同様に伝統的な日本のアトラスである。この版の改訂から、対象が【医学生~専門医試験】から、病理の対象疾患の多様化を鑑み、【専門医試験・病理専攻医~病理生涯学習】へと変更され、【医学生~研修医】向けには上記コンパクト系の「病理組織マップ&ガイド」が分離された。

成書・教科書を原著で読むのは困難であるが、アトラスならばそう難しくもないだろう。しかし、日本と欧米の病理教育のスタンスと思うが、こちらでは組織像は結構少なく、肉眼像が豊富である。
個人的には、医師としての素養のためにはマニアックな組織像を読み解けることよりも、肉眼的・マクロ的な変化を知っていることが重要であると思う。その意味で、日本の試験対策には向かないが、より良い医師を目指すために役立つと考える。


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