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トルストイの日露戦争論/エピグラフの機械翻訳 第三章分

・「トルストイの日露戦争論」は、各章に多量のエピグラフが付されているが(第十二章を除く)、平民社訳、あるいはその底本となった英訳からは省かれている。
 そのエピグラフ部分を訳してみようという試み。

・タイトルに「機械翻訳」と銘打ったように、機械翻訳によるざっくり訳を想定。ただし、既存の翻訳が特に問題なく引用できそうな場合は、そちらを使用。

・各引用文の最初にある(1)(2)(3)…の番号は、記事作成などの都合上、当方で付したもので、原文にはない。

・その他、原文にない要素を加える場合もある。
 (聖書からの引用の場合、原文に章・節番号がなくても、それを付加する、など。)

・誤訳を見つけた場合、こっそり修正すると思います……。

第三章エピグラフ


(1)
《戦争は、市民であることをやめ、兵士となるよう、人々を成形する。彼らの習慣は彼らを社会から引き離し、彼らの主な感情は上官への忠誠心であり、兵舎では専制主義に慣れ、暴力によって目的を達成し、隣人の権利と幸福をもてあそぶことに慣れ、彼らの主な楽しみは嵐のような冒険と危険である。平和的な労働は彼らにとって忌み嫌われる。

戦争そのものが戦争を生み、終わりなく続く。戦勝国民は成功に酔いしれ、新たな勝利を求める。被害国民は敗北に苛立ち、名誉と損失の回復を急ぐ。

人々は相互の侮辱に憤慨し、互いの屈辱と破滅を願う。病気、飢餓、欠乏、敗北が敵対国に降りかかれば、彼らは喜ぶ。

何千人もの人々の殺害は同情の代わりに、彼らの中に熱狂的な喜びをもたらす。街はイルミネーションで照らされ、国中が祝う。

こうして人の心は荒み、最悪の情念が育まれる。人は同情心と人道の感情を放棄する。》

チャニング


(2)
《兵役の年齢に到達すると、すべての若者はろくでなしな、あるいは無教養な者たちの命令に、説明もなしで従わなければならない;彼はこう信じねばならない。高貴さと偉大さは、自らの意志を放棄し、他人の意志の道具となり、斬ったり斬られたりし、飢え、渇き、雨、寒さに苦しみ、障害者になることから成り立つものだと。それも、その理由は知ることなく、戦いの日の一杯のウォッカだとか、ごくささやか、かつ架空の物事についての約束──新聞記者が暖かい部屋に座って、そのペンで与えたり否定したりするところの、死後の不滅と栄光──だとか以外の褒賞なしで。

発砲。彼は傷つき倒れる。戦友たちは彼を足で踏みつけ止めを刺す。彼は半死半生で埋葬され、その後不死を享受できるようになる。戦友や親類たちは彼のことを忘れる:彼が自らの幸福と苦心と人生とを捧げたところの人たちは、彼のことなど知らぬ存ぜぬ。そして何年かの後に誰かが彼の白くなった骨を見つけ、そこから黒い塗料と英国風靴墨を作る。自分の将軍のブーツをきれいにするために。》

アルフォンス・カール


(3)
《彼らは、若さの絶頂にあって力みなぎる人を連れて行き、その手に銃を持たせ、その背に背嚢を背負わせ、頭にコカルデ(円形章)をつけ、それから彼にこう言うのだ;「我が仲間よ、何某の君主が私のことを悪く取り扱った。なのでお前は、彼のすべての臣民を攻撃しなければならない;私はお前がいついつの日に彼らを殺しに国境に現れるかについて、彼らに通告しておいた…」

「お前はひょっとすると、経験不足から、我々の敵は人だと考えてしまうかもしれない。だが、それは人ではなく、プロイセン人、フランス人(、日本人)だ;お前は、彼らの正装軍服の色で、人類種から彼らを見分けるだろう。お前の責務をできるだけより良く果たすように努めるのだ。なぜなら私は家に残り、お前を監視するだろうから。もしお前が勝ったら、お前たちが帰還した時は、私は正装軍服を着てお前たちのところに出ていって、こう言う:兵士諸君、私はお前たちに満足している。もしお前が戦の野に留まることとなったら、それは大いにありえることだが、私はお前の家族にお前の死の知らせを送り、彼らがお前を悼み、お前の跡を継げるようにする。もしお前が腕や脚を失ったなら、私はその価値に見合った金額を支払う。でももしお前が生きながらえて、もう背嚢を背負えないようになったら、私はお前に暇を与える。そしてどこへなりとでも行き、くたばって構わない。それは私には関わりのないことだ。」》

クロード・ティリエ


(4)
《そして私は軍律を理解した。それすなわち、伍長が兵士たちに話すときには常に正しい。そして軍曹が伍長たちに話すときには、下士官が軍曹たちに話すときには、等々である。陸軍元帥ともなれば、例え彼らが2掛ける2は5だと言おうとも! 最初は理解するのが難しいが、どの兵舎にも掛かっている銘板が理解を助けてくれるので、自分の考えを明確にするために、それを読む。この銘板には、兵士がやりたくなるかもしれないことが全て書かれている。例えば、自分の村に戻る、兵務の遂行を拒否する、自分の上官に従わない、その他。そしてこれらすべてに対する罰が標示されている:死刑または5年の重労働。》

エルクマン=シャトリアン


(5)
《私はニグロを買った。彼は私の物だ。彼は馬のように働く;ロクなものは食べさせず、着るものも同様で、言うことを聞かないときは殴る。何を驚くようなことがある? 自分の兵士たちに我々はもっと良くしているとでも? 彼らがこのニグロのようには自由を奪われていないとでも? 違いといえばただ、兵士の方がずっと安くつくというだけだ。いいニグロは今では少なくとも500エキュするが、いい兵士はほんの50だ。どちらも置かれた場所から逃げることはできず;どちらも些細なミスで殴られる:賃金はほとんど同じだが、ニグロは自分の命を危険にさらすことなく、妻や子供たちとともに過ごすという点で、兵士たちより有利だ。》

(アマチュアによる百科全書への質問、「奴隷制」の項)


以下、第三章本文(平民社訳)。





(1)チャニングは次の人です。米国の説教師。

出典は "Discourse of War" とトルストイ全集の註釈にありますが、正しくは「Discourses on war (1903)」でしょう。

引用文については、最初のパラグラフが上に掲げた書籍で本文23ページ、2つ目のパラグラフが24ページ、残りは22ページが出典のようです。


(2)アルフォンス・カールはフランスの小説家。下はWikipedia フランス語版の彼の記事。

次のブログ記事によると「今はほとんど忘れられている」そうです(^_^;)。

仏語版の記載によると、出典は『菩提樹の下』。
(Alphonse Karr, Sous les tilleuls.)。

なお文中、「彼を足で踏みつけ」云々というのは、戦場の混乱した状況の中だと、倒れている者に注意などしていられない(ので踏んづけてしまう)という意味合いの描写かと思います。多分。

骨を使って英国風の靴墨、云々というのはどういうことかと思ったのですが、Wikipedia の「靴墨」のロシア語版に何やらそれっぽいことが書いてありました。

『Состав наиболее распространённых в конце XIX века сортов «английских» вакс』
(19世紀末における「イングリッシュ」ポリッシュの最も一般的な品種の構成)
……というところ。
 これは本当に雑な機械翻訳で済ませますが
「4 ブルナーワックスは次のように調製されます。骨すす 10 部と糖蜜 7 部を粉砕し、硫酸 5 部、ソーダ 2 部および水 4 部を少しずつ加えます。」、等々……。
興味のお有りの方は、翻訳機能を使うとかして、お調べになるのも良いかもしれません。


(3)クロード・ティリエはフランスの作家。下はWikipedia フランス語版の彼の記事。

次のブログ記事によると「100年前当時も21世紀の今もほとんど振り返られる機会の少ない作家」とのことです。

仏語版の記載によると、出典は『バンジャマンおじさん』。
(Claude Tillier, Mon oncle Benjamin.)。

文中にカッコ書きで「日本人」とあるのは、これは恐らくトルストイの筆が「走って」書き足したものではないかと思うのですが、まだ確認していません。


(4)エルクマン=シャトリアンについては、次のところにちょっとした説明があり
ました。

フランスの作家で、二人組で作品を書いていたようですね。

一応、フランス語版のWikipedia も。

仏語版の記載によると、出典は
(Erckmann-Chatrian, Histoire d’un conscrit de 1813, p. 119-120.)。
(とりあえず『1813年の徴兵の物語』と訳しておきます。)


(5)ここでは仮に「アマチュアによる百科全書への質問」と訳しましたが。
ヴォルテールにそういう作品があるのです(今回、はじめて知りました)。
"Questions sur l'Encyclopédie, par des amateurs"
Wikipedia はフランス語版だけ項目が立っていました。

この作品のことは、日本語で情報がさっぱりヒットしないので、タイトルにしても、上に挙げた訳が妥当なのかよく分からないというのが正直なところです。
このWikipedia 記事を(まさに機械翻訳で!)読む限り、百科全書への素人質問という体を取った哲学的著作……というような感じでしょうか?

同書のオンライン書籍をざっくり探した中では、次のものが見やすいと思いました。
(ひょっとすると、閲覧には Google アカウントを持っていることが条件になっているかもしれません。)

これは同書の第3巻。下の方に「目次」があり(これはどうやら、AIで適当に判断して付しているっぽい?)、その左側中ほど「ESCLAVES Section première  107」とあるところから、資料の107ページに飛べます(少なくとも私の環境では)。ただし、見たい項目(奴隷制 / Esclavage)の冒頭は107ページでなく100ページ。
(なお、「奴隷制」の項目はこれ以外にもあるっぽいです。)

トルストイの引用している文は100ページ終わりからの「l'anglais」(英国人)のセリフです。
以下、参考のため文字起こししてみます。
引用されているのは「英国人」のセリフの途中からですが、念のため当該のセリフの最初から引っ張っておきます。引用箇所の始まりにはその旨、記載を入れます。
訳は入れませんが、機械翻訳なども使って、雰囲気なりとご確認いただければ。

Nous n'avons pas à la vérité le droit naturel d'aller garrotter un citoyen d'Angola pour le mener travailler à coups de nerf de boeuf à nos sucreries de la Barbade, comme nous avons le droit naturel de mener à la chasse le chien que nous avons nourri. Mais nous avons le droit de convention. Pourquoi ce nègle se vend-il? ou pourquoi se laisse-t-il vendre?
(引用ここから)
je l'ai achté, il m'appartient; quel tort lui fais-je? Il travaille comme un cheval, je le nourris mal, je l'habille de même, il est battu quand il désobéit; y a-t-il là de quoi tant s'étonner? traitons-nous mieux nos soldats? N'ont-ils pas perdu absolument leur liberté comme ce nègle? La seule différence entre le nègle & le guerrier, c'est que le guerrier coûte bien moins. Un beau nègle revient à présent à cinq cent écus au moins, & un beau soldat en coûte à peine cinquante. Ni l'un ni l'autre ne peut quitter le lieu où il est confiné, l'un & l'autre sont battus pour la moindre faute. Le salaire est à-peu-près le même; & le nègle a sur le soldat l'avantage de ne point risquer sa vie, & de la passer avec sa négresse & ses négrillons.

↑上の文章ですが、底本で「f」っぽく見えるけれど、どう考えてもこれは「s」でしょう?というところがいくつもあったので、文字起こしは都度判断して行いました。それを別にしても、正しくない文字起こしになっているところが、多分あるだろうと思います……。

「f」と「s」については、昔の印刷だとそういうこともあったのかなぁ、ぐらいに漠然と思うのみですが(それらしき解説は見つけられませんでした)。
ただ、次のページの「フランス語の筆記体」についての文章を見ますと。「s」のところで例に出ている「Sarthe(サルト県、地名)」の頭がまさに "fっぽい" s 。これは私の推測の補強ぐらいにはなっているかもです(?)


◆最後に付言を。ここまで露骨だと、却っていわずもがなな気はしますが。ヴォルテールもトルストイも、批判的な意味を込め(=悪い見本として)、あえてド直球に差別的な文章を書いたり引用したりしているのだと思います。その趣旨から、当然ここでも「極力原文のニュアンスに沿うような」訳を目指した次第です。