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セクハラ発言のある会議で笑わずにいさせてくれた理由

森喜朗会長の女性蔑視ともとれる発言が話題だ。毎日新聞の記事には、

同紙は日本メディアの報道を引用する形で、首相経験者である森氏が「『女性を増やす場合は発言時間の規制を促しておかないとなかなか終わらないので困る』と(誰かが)言っておられた」と発言し、他の参加者から笑いが出たと説明。

(太字は書き手である私によるもの)

この笑いに対して、森会長だけでなく、日本のオリンピック機関自体(引いては日本全体)のジェンダー認識の遅れや差別を容認する空気があると指摘されている。
差別的な発言を笑った人間は、その差別を容認しているというロジックである。

セクハラ発言(?)が出る会議に出席したことがある

私もそうした会議に立ち会ったことがある。

詳細はぼやかすが、webサイトの成果物をリリース前に確認する会議だった。モデルさんや商品の画像が意図通りになっているか、商品の説明に売れるような文言になっているかを確かめていく。出席者は上司と4人ほどの部下で、週に2回行われる。

その上司は、サイト上の女性モデルに対して「かわいいモデルやなあ」「あかん、このモデルはかわいくない、変えて欲しい」と言うことがあった。
男性モデルに対してもたまには言うが、女性モデルに対しては、3モデル中1回は上記のような発言があった。
そして、「かわいいモデルやなあ」という発言はさらっと言うわけでもなく、溜めながら実感を込めた感じで言う。しかも、何回も繰り返して。

最初のうちはこのセクハラ(?)発言を聞き流していた。しかし、それが5回、10回続いてくると「この人はモデルさんに対して何を求めてるんだろう」「自分の好きな女性のタイプを発表してるんじゃないか」と感じるようになり、次第に嫌悪感が募ってきた。

私も最初の方は無表情を保っていられたのだが、次第に眉をひそめる軽蔑の表情を隠せなくなってきた。そのため「モデルかわいい」という感想を聞くたびに、顔を逸らすことで自分の顔を見られないようにしていた。

周りの出席者はというと、容姿の感想に対して無反応であることもあったが、笑う人もいた
ちなみに笑った人は男性もいるし、女性もいる。

眉をひそめた私は正しかったのか?

話を冒頭に戻す。
差別的な発言を笑った人間は、その差別を容認しているという指摘である。

会議で笑うことはしなかった私は、その差別(?)を容認することは確かになかったと思う。隠していたつもりでも私の不快な表情は、その上司に見られていたと思う。

しかし、私の行為は本当に正しかったのだろうか?そして、その会議で笑っていた人はセクハラを容認していたのだろうか?

私は、そんな単純なものではないと思う。
仮に容姿の感想に誰もが無反応だったとすると、会議の空気は凍っていただろう。その上司の機嫌が悪くなれば、その人の性格から考えて、別の些細だけれども正当性のある事柄で詰問されていたと思う。笑わないことは、あの場では不利な行為なのである。

また、その発言にいくら大声を出して笑っていたとしても、セクハラ容認がその部下の本心だったとは限らない。人は、嘘を見破ることよりも嘘をつく方の能力が高いという。

そして、ここを一番言いたいのだが、あの会議で容姿への評価コメントに誰かが笑っていてくれたから、私は笑わずに済んだのである
誰かが笑っていて空気を保っていてくれたから、私は自分の気持ちだけに従って眉をひそめることができた。一人だけ無表情でいさせてくれた。

後日談

とはいえ、この感謝は今だから思えることであって、当時は「なんで周りの人はこの発言にイラつかないんだろう?」と不思議に思っていた。

どうしても耐えられなかった当時の私は、上司以外の参加者の一人に「あの容姿への執拗なコメントは耐えられない」と話して、会議への参加を見送らせてもらえることになった。

セクハラと感じた発言に対して、私は面と向かって抗議することは遂に無く、逃げることで自らの心の平穏を保つことを選ぶことにした。

なぜ問題性を直接指摘しなかったのか?と思った人もいるかもしれない。しかし、私と上司の関係は元々ほぼ無言の関係であり、軽やかにたしなめる風通しのいい関係ではなかった。私は自分を犠牲にしてまで、正しさを頼りすることはできなかった。

※※※

それから数年後、風の噂ではあるが、まだあの上司はセクハラめいた発言をしていると教えてくれた。そして、誰もそれを咎める人がいない状態も同じだそうだ。

セクハラにしろパワハラにしろ差別にしても、会議中にそうした発言があったとき、あなたはどうするだろうか。何ができて、何をしないだろうか。

私はセクハラ発言のある会議で笑わずに済んだが、それは周りの参加者が笑ってくれていたからである。

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