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父と夏

父はキャンプ・ゴルフ・ドライブが好きで、母は裁縫・映画鑑賞・音楽を聴くなど、趣味は対照的だった。
小さい頃の父の印象は、大広間に大きな机を何個も並べて、友人達を呼んでお酒を飲んで談笑している、そんな姿だった。
そしてその楽しそうな父の胡坐の中に座って、下から見上げるのがとても好きだった。
母はいつも父の好きな料理を並べて、父の好きなお風呂の温度お湯を張り、父の帰りを待つ、父のために生きる献身的な人だった。

小学生の頃、夏はよく家族でキャンプに出かけた。
いつもは料理をしない父が、カレーを作ったりガーリックライスを作る様子を見て「いつも家じゃやらないのにね~」と笑う母が好きだった。
子どもながらに、うちの家は仲が良くて何も問題のない平和な家なんだな、と思っていた。
それがとてもとても誇らしかった。

運転は、決まって父がしていた。
助手席に母が乗り、私たち兄弟は後部座席のシートをフラットにしてゴロゴロしていた。
たまに出す兄弟のアホのようなクイズに母が笑って答える。
福山雅治やサザンオールスターズやシャ乱Qがかかる車に揺れて、夏休みがずっと続けばいいのになと思った。

父と母が離婚したのは私が中学生の頃だった。
毎日決まった時間に帰ってきていた父が、ある日を境に帰ってこなくなった
聞けば私が幼少期の頃から、他に女の人がいたらしい。
母が日に日にやつれていった。
それでも母は、父を待っていたのではないか今では思う。
父が好きだった私は、自分が母の旧姓になることを最後まで抵抗した嫌な奴だ。

父は高校生の頃に癌で亡くなった。
最後に会ったのも夏だった。
ロケット花火のように一生を一瞬で生きたような人だった。
お盆の時期になると、父が必ず側にいる気がする。
きっと今でも楽しくお酒を飲んで、仲間たちと楽しく笑っているんだろう。
私のかっこいいオトン、いつまでもそのままで。

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