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光ちゃん

友人が子供を授かったらしい。

報告を受けた日の夜、いつになくお酒が進んだ。

そして、不思議なことが起きた。

知らない公園。懐かしさをこれっぽっちも感じない公園にいた。


目の前には、小さな赤い花たちが嬉しそうに咲いている花畑。その中心に女の子がしゃがみこんでいる。

可愛い。顔ははっきりとは見えないが、絶対可愛い子だこれ。私分かるよ、可愛い子好きだからさ。

いつもならすぐに声を掛けているが、この時は少し緊張しているようだった。ただじっと見ているだけだった。

すると彼女は、いきなりジャンプをするように立ち上がり、

それがもう地面にトランポリンを仕込んでいたのかと思わせるほどの勢いで、

たまたま上にUFOが来てたら完全に吸われてたね危なかったねぇ〜!と言ってしまいそうなくらいで、

私はつい「うっひょ〜!」と声を上げて、尻もちをついた拍子にお得意の後転を2回披露してしまった。

私はそのまま足の小指を攣り、起き上がれずにいた。

寝そべって分かったのは、私がいたのはどろだんご作りにうってつけの場所だったということ。

背中もおしりも頭皮からも、冷たさとぬめりが感じられる。久々にどろだんご作りたいな、またお母さん褒めてくれるかな、

そんなことを考えていると、目の前にクリームパンダちゃんのようなフォルムの白い手が現れた。

「ふぅん!」

と言いながらその手を力強く差し出す女の子。


「ああひかりちゃん」


自分でも意味が分からなかった。

その子は、さっき花畑の真ん中にいた可愛い少女。

その子は、さっき宇宙人にとって都合のいい女になってしまいそうだったジャンピング少女。

今さっき出会ったはずの少女に向かって、なぜか名前を呼んでいた。


「行くよマム」


微動だにしない私の手はすっと持ち上げられ、光ちゃん(多分この漢字)に続いてどろんこマムは軽いステップで歩き出す。

娘と母。

この子は自慢の娘よ、なんて出会ったばかりの光ちゃんの手を優しく握り直す。


いやちょっと待ってマムて。しんどママのおはロックなんだけど勘弁して自分。英才教育やめなよね。


どこまでも続く花畑。

白飛びしているくらいに明るすぎる空間。

なぜだか楽しくて小走りをしてしまう2人。

これじゃあどろだんごは作れないしダンボールそりで遊べないね。


綺麗な世界、

でもいいね、彼女の行く場所は全部全部こうであってほしいんだよ。


光ちゃん


光ちゃん、


光ちゃん!!!


現実世界でないことにはとっくの前に気づいていた。

でもやっぱり楽しいから。知らないふりをした。

ただ、バレてしまったようだ。知らんぷりは苦手だから。


どこからか聞き馴染みのある声が聞こえてきた。

あ、これは『ボーイズ・オン・ザ・ラン』ではないか。

そこで、目が覚める。

はぁ、

ただいま。


ハイボールでびちゃびちゃになったアルバムのケースが目に入る。

愛してやまない銀杏BOYZの、特にお気に入りだった『光のなかに立っていてね』だ。

はぁ、歌詞カード全滅じゃ。

ティッシュを無造作に数枚取り、丁寧に拭かないととアルバムを手に取る。



そこには、光ちゃんがいた。







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