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読書感想文課題図書で1番のおすすめ『ぼくのあいぼうはカモノハシ』を読んだ感想

昔から繰り返し言っているが、私は夏休みの読書感想文の宿題が大嫌いである(だった)。などと太いフォントで書かなくても日本の小学校に通っていた人の過半数には共感してもらえるのではなかろうか(※個人のイメージ)。

……と、この調子で書いていたらいつの間にか「いかに私は読書感想文が嫌いか」という主旨の長文が出来上がりつつあったので方向転換しよう。

こんな読書感想文嫌いの私だが、ゆえあってここ3年ほど小学生の読書感想文課題図書を追いかけ続けている。毎年すべてではないがほぼ目を通しており、ある程度はそれについて話すことができるつもりである。

そして今回のエントリではこの3年間の小学生向け課題図書36冊(ただし私が完読したのは33冊)のなかで、最も面白いと思った本を紹介したい。その名も『ぼくのあいぼうはカモノハシ』。今年度の小学校中学年の課題図書だ。

『ぼくのあいぼうはカモノハシ』
ミヒャエル・エングラー著
はたさわゆうこ訳 杉原知子絵
2020.8 徳間書店

私は子供のころ読書感想文の「書かされてる感」が大嫌いだった。そのため自分から文句なく読んで面白かったと言える本があればそれでよかった。そういう意味でこの本はNo.1と言っていい。

舞台はドイツ。少年ルフスはオーストラリアに単身赴任中の父親を思い淋しく思っていた。そんなときに出会ったのが人間の言葉を喋るカモノハシのシドニーである。シドニーは故郷のオーストラリアに帰るために動物園から逃げ出してきたという。人間の言葉を喋る動物との遭遇にルフスは驚きを隠せないが、「カモノハシは勇気と知性に溢れた無二の生き物」だというシドニーのいい加減な言葉に騙され(ただの見栄?)、終いにはふたりでオーストラリアに行くことになってしまう。

父親に会えるのだったらとささやかな期待を抱くルフス。しかし目的達成のためにルフスの家に同居することになったシドニーの行動は理解不能なことばかりだった。

見栄っ張り(?)ですましたシドニーは庭の木に登ってオーストラリアを眺めようとしたり、バスでオーストラリアまで行こうとしたり無茶くちゃである。ルフスもおかしいとは思いながらシドニーの勢いに押されたり、生来の人の好さのためか怪しいと思いつつもシドニーの言うことを信じてしまい結局いつも大失敗してしまう。しかしそのドタバタがとても面白く、おとなの目線で見れば愛おしくて仕方がない。イラストの可愛さももちろんだが、ルフスとシドニーのコンビは読んでいるだけで読者を幸せな気持ちにしてくれる。読書感想文の課題図書ってこんなに面白くてよかったの? と言いたい。

ネタバレになるため多くは書けないが、シドニーのとんちんかんな発言も見逃せない。コアラが木登りの名人だと言うと、

「コアラが名人とは、ちゃんちゃらおかしな話だ。そもそも、コアラに木のぼりを教えたのはカモノハシです。ここだけの話、とっておきのコツだけは、やつらにも教えていません」

などと言い、何か優れたものがあるとすべてカモノハシの手柄にしようとする。その荒唐無稽さがまた面白いのだが。

また密航がバレたら飛行機から放り出されるという話になり、怖がるルフスに対しシドニーは、

「カモノハシは、一万メートルの高さでも生きていられますが、人間にできるかどうかはわかりません!」

とのたまう。読んでいて思わず「大丈夫なわけないやろ!」とツッコまずにいられない。しかしシドニー本人は嘘を言っているつもりはなく、大真面目なのである。

シドニーはカモノハシなのにピーナッツバターを好み、悩むルフスの隣で能天気にスプーンですくって食べているシーンが印象的である。都合が悪くなるとすぐ死んだふり。結局いつもルフスだけが怒られるが、心優しい少年の性格はみんなわかっているようで、彼がこっぴどく叱られることは少ない。

作品としてふたりのおとぼけた冒険シーンに眼目が置かれていることは明らかで、最後に感動の再会シーンが描かれて終わるわけでもない。「あ、そこまで書かないんだ」と思う締め方が却って印象的である。

といった具合におとなが読んでも楽しめる作品となっている。読書感想文として書きやすいか否かは別として、単に苦行(失礼)の課題図書としてだけ認識されるにはもったいない作品と言える。

今年度の中学年の課題図書はタイムスリップものあり、全校での昆虫図鑑作成ものありで楽しめる作品が多い。書きやすさなら他の課題図書に軍配が上がるかもしれないが、作中のふたりの冒険に自身の体験を交えて書けば宿題の道は開けるかもしれない。

余談であり個人的な感想だが、このところ中学年の課題図書の外国文学枠に面白いものが多い。

昨年度の課題図書の『ねこと王さま』は作者による挿し絵がふんだんに使われており、ページ数ほども分量が少なく読みやすかった。ドラゴンの襲来で城を追われた王さまがねこの力を借りながら自活能力を得ていく物語だが、最後のシーンには感動してしまった。

さらに前年の『子ブタのトリュフ』は死にかけていた子ブタを助けた少女が、子ブタの存在価値を認めさせるために奔走する話となっている。全編通してストーリーに動きがあり、多種多様な動物も出てくるため楽しめる。実は続編もあるらしい。

子供たちがこれらの本と別の出会い方ができていたなら……と思わずにいられない。もちろんこういう機会があったからこそこれらの本と出会えるのもまた真なのだが。

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