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言葉たらずの愛

私が所属しているHEARシナリオ部で書いた作品です。
月に一度テーマを決めて、部員で作品を書き合います。
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※この作品はフィクションです。
 

「自分の都合ばっかじゃなくて、
相手の幸せを願えるんだったら、大丈夫だって」

君は言ったよね。

 

僕は悩んでいた。


ネットで知り合って仲良くなった女性に
誘われたけど、会っても大丈夫だろうかって、
僕は君にうっかり言ってしまった。

 

「お前……俺だって、ネット上の人間だし、
お互いに会ったことねえじゃねえか!」

 

でも、恋愛関係じゃないし。

 

「そりゃ、そうだけどさ。
まあ……大丈夫なんじゃねえの?
女がオフで会うのは、あぶねえと思うけど、お前、男だし」

 

美人局(つつもたせ)とか。

 

「は? よくそんな古い言葉知ってるな、お前!
別に喫茶店でお茶飲むくらいの関係にして、
様子見てればいいだろ!」

 

怪しい商品の仲買いを依頼されるとか。

 

「考え過ぎだよ!
男をそういうふうに釣る気なら、廃墟なんて変な趣味じゃなくて、
もうちょっと、女の子、女の子したキャラクターを偽装するよ。
それに、詐欺師の作る写真やデザインは、もっと、綺麗だ。
彼女がSNSに挙げてる写真は、悪いけど、洗練されてないよ」

 

そこまで言うか。

 

「だから、大丈夫だって、お前。
廃墟なんて変わった趣味が同じで、気が合う異性なんて、
そうそういないだろ。

別に、そこまでなるつもりじゃなくても、
リアルで、距離感保って付き合えば、いいじゃないか。
このご時世で、出会いなんか無いぞ? 
それに、ネットを越えて、ビジネスじゃなくてさ。
一緒の時間を過ごしてくれる人なんて、
どれだけ尊いか、わかってるのか?」

 

そうなんだけど……

 

「あれか? 話してくれた、家族のトラウマ問題とかか?」

 

ああ。父親みたいになりたくない。

 

「考え過ぎだって。
ずぶずぶのプライベートな関係になってから、
そういうことは考えろよ。


先の事ばっかり考えてたら、何にもできないだろ!」

 

あれは、洒落にならない。

 

「確かに、家族に対して、日常的に振るう暴力は洒落にならないよ。
でも、お前と、お父さんは違う人間だろ!」

 

いや、人には見せてない残酷な所があるし、
人に対してどうしようもなく甘えたくなる、
依存的なものを、自分の中に感じてる。

 

「どうしようもないことは、隠してるだけで、みんな抱えてるよ。
おせっかいかもしれないけど、後悔してほしくないんだよ。
人生は短いし、いつ何が起きるかわからない。
うまくいかないかもしれない、お互い辛くなるかもしれない。
でも、いろんなことが、進み始めてる時は、踏み出してみろよ。
うまくいかない可能性もあるけど、
幸せになる可能性だってあるだろうが!
ちゃんとした女だったら、
待たせるのは、百害あって一利無しだぞ!」

そんなことを、君は、言ってくれたね。

君とは、最初、何で知り合ったんだっけ。
読書の趣味だっけ、映画だったっけ……忘れた。
でも、君みたいに、安心して本音で話せる奴なんて、僕は初めてだった。

 

自分の感情がわからなくなるまで、親に心を破壊されて、
それでも擬態して、生きている自分が、
恋愛の相談までするようになったんだ。

 

君は、凄い奴だって、思ってた。

 

初めて、ネット越しで同じ映画を見て、
笑ったり泣いたりしたんだったよな。
あれも、君が誘ってくれた。

 

だけど、君は、恋愛相談の直後、突然、ネットからいなくなった。

 

SNSも更新されないし、

メッセージを送っても、梨の礫(なしのつぶて)だった。
なんか嫌な予感がしていたら、君の家族から、連絡があった。

 

君は、心臓移植をしていた人間で、
5年生存率、何パーセントという存在だったんだってね。


全然、知らなかったし、気づかなかった。

いや、声が高くて、少しかすれてたし、
ときどき咳してたから、体弱いのかなって思ってた。

 

でも、乱暴なくらいの元気な口調だったから、僕は騙された。

君はベッドで、両親に、僕の話ばかりしてたんだってね。
間違いなく、あなたに恋してたって。
君のお母さんは言った。


そして、君が同性愛者だったってことも。


僕は想像すらできなかったよ。
君からは、そんな感じがぜんぜんしなかった。

 

「自分の都合ばっかじゃなくて、
相手の幸せを願えるのだったら、大丈夫だって」

 

君に、その言葉、そっくり、そのまま返してやりたいよ。

僕が、彼女との距離を縮めるのをためらっていたのは、
毒親育ちで、
ちゃんと、依存的にならずに、
一人の人間を愛する自信が無かったのも、
もちろんある。

でも、君の存在もあったんだ。


君の存在のことも、凄く気になっていた。

言った事なかったけど、僕は、バイだ。

君と彼女への思いで、
僕は凄く気持ちが引き裂かれそうなくらい揺れていた。

だから……彼女との仲を進展させられなかったんだ。

そこまでは言えなかった……

 

僕は、顔を上げて、彼の墓標を見た。

彼の墓の前で、大きな声を上げて、僕は、泣いた。

 

「おせっかいかもしれないけど、後悔してほしくないんだよ。
人生は短いし、いつ何が起きるかわからない。
うまくいかないかもしれない、お互い辛くなるかもしれない。
踏み出してみろよ。
うまくいかない可能性もあるけど、
幸せになる可能性だってあるだろうが!」

その言葉も、そっくり君に返すよ。

僕のひい爺ちゃんが、そんな経験をした。

 ひい爺ちゃんは、結核で療養所にいた。
ひい婆ちゃんは、看護師をやってた。
ひい爺ちゃん、ストレートな人だから「結婚してくれ」って
言ったんだ。


あんまり長く生きられないって言われてたのに、
何考えてるんだか。


大好きな人に対して、
「迷惑」とか「負担」というものを考えないのかよって、
その話を聞いたとき思ったよ。

 

ひい婆ちゃんも、
相当おかしい人だから、
「いいですよ」

って、すぐに答えて結婚しちゃった。

そしたらさ。

ゲンキンなことに、ひい爺ちゃん、
長く生きられないって医者に言われてたのに、
どんどん、良くなっちゃって、60歳まで生きた。

君もさ。
言ってくれればさ。
惨めな結果だったかもしれないけど、
踏み出してくれれば、何か、変わったかもしれないじゃないか。

選択肢すら与えないって、ずるいよ。

 病気だから、足手まといになるとか、
ごちゃごちゃ考えたんじゃないか?

なんで言ってくれなかったんだよ。


言ってくれなかったら、始めることすらできないよ。

 

ぼくは、涙が出なくなったあと、
待たせてしまっていた彼女に答えを連絡するため、
スマホのアプリを起動させた。




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