迷いの正体
「今日のお洋服には、こちらの方がお似合いですよ。」
レースアップブーツを履いた私をふわっと見ながら店員さんは淡々とした様子で言う。
自分でもわかっているのだ。今日のボーイッシュな服装には、レースアップブーツがしっくりくる。見るからにお洒落な人だ。しかし、いつもこのテイストの服装かと言うとそうではない。
シフォンワンピースを着る日もあれば、レトロファッションの日もある。気分で服のスタイルが変わっても、違和感無く履ける万能なブーツを探しに来たのだ。
思い返すと、昨年で履きつぶしてしまったブーツは非常に万能だった。
すぽっと脱ぎ履きできるフォーマルなサイドゴアブーツで、女性らしさと品を足元から感じさせることができる。ちょっとした食事や、デートにも履いていける便利な一足だった。
そんな昨年まで履いていたブーツとそっくりなブーツも、お店には用意されていた。きっと私と同じように万能さを求めて足を運ぶ人が多いのだろう。
これまでの私だったら何の迷いもなく、万能さを優先させ即決だっただろう。しかし、この日はどうも心が決まらないのだ。
「迷いに迷ってまた来ます。」
一言を残し、そのまま何も買わずに店を後にした。
帰り道のこと。
「よし、レースアップブーツを買おう。」と突然だが心が決まった。何かを思考した訳でもなく、突然そう思ったのだ。あまりに突然のことで自分自身が驚くほどだ。
本当のところ、私は今まで履いたことのないレースアップブーツを履いて街を歩いてみたかったのだ。けれども「個性が出過ぎてしまうのではないか?」「履く場所を選ぶのではないか?」といかにもな言い訳を並べ、エゴが本心を押し殺しにかかって来ていたのだ。これが今日の迷いの正体だろう。
どうやら本心が、エゴに負けない力をメキメキとつけはじめてきたようだ。
ここまで書いて元も子もない話ではあるが…レースアップブーツもサイドゴアブーツも、どちらも今の流行のブーツには変わりはない。そんなブーツのどちらを履こうが誰も個性的とは言わないのが今の時代だろう。
だがそこに、エゴではなく本心を優先させるという小さな個性を出し、その個性を愛でながら生きてみるのも、遊び心というものではないだろうか。
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