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かつての旅の相棒を手放す

とうとう明日になってしまった。
手放す日が近づくにつれ、私はかつての相棒と一緒にどこの国へ旅に出たのか思い出せない事に気が付いた。

一番小さいコインロッカーに入るサイズのスーツケース。
長くても2泊3日程度の旅の相棒だったはずだ。


大学生の頃、海外旅行に目覚めた。
韓国や台湾などのアジア旅行用に、初めて自分で稼いだお金でブラウンの小さなスーツケースを購入したのだ。

出来る限り小さく荷物をまとめ、お土産用のチャック付きカバンを詰め込んでは近場のアジアを旅する。
仕事で出張が増えてくると、今度はオフィスカジュアルと言われる部類の服を詰め込んで国内も一緒に飛び回った。

コロナ禍には、GoToトラベルという制度を利用して日本中の山を登りに行った。


その相棒は、ある時から伸び縮みする持ち手にガタが来ていた。
そして、前回の福岡旅行中にタイヤが壊れてしまい、とうとう動かなくなってしまった。
それを受けて、かつての相棒と似たワインレッドの小さなスーツケースを新調したのが半年前の話だ。


新しいスーツケースが届いても、どうしても相棒を手放す気にはなれなかった。
タイヤを修理すればまた一緒に旅に出れるのではないか?と調べてみたが、中々難しいという結論しか目の前に現れなかった。


ふと、相棒に貼られているバーコードシールが目に入る。

母と一緒に行った韓国旅行。
最後に行った海外旅行は、友人と行った台湾。

そういえば…

砂利道と知らずに、相棒を担いで奈良、青森を歩いたことがあった。
上司とトラブル対応後に広島でやけ酒を呑んだこともあった。

日々の目まぐるしさにかまけて忘れていたが、たくさんの思い出が詰まった相棒なのだ。


半年間手放せなかったのは、思い出も一緒に失われてしまう恐怖があったからかもしれない。


手放す前日の今日、こうして相棒は大切なことを最後に教えてくれた。
すぐに思い出せずとも、脳内の引き出しには思い出がしっかりとしまい込まれている。その思い出を時々取り出して、愛でれば良いのだと。


ありがとう。


そう相棒に告げ、最後の夜を穏やかな気持ちで迎える。


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