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【詩人の読書記録日記】リターンズ! 1月15日~1月21日

はじめに

こんにちは、長尾早苗です。詩誌の活動や個人の活動が活発になり、一人の趣味時間を作ることが難しくなっていくのがとても嫌なので、この日記をつけている時は一人趣味時間であろうとしています。今週でまた少しお休み期間をいただいて、詩のエッセイをまたマイペースで書いていこうとも思います。

1月15日 日曜日

あえてバスだけで横浜駅西口に行ってみました!
大学時代の思い出の場所です。
昨日読んだ『スナック キズツキ』のことを調べていたら森山直太朗さんの「それは白くて柔らかい」という曲が出てきて、バスに乗る往復3時間半くらい、それを何回も聞いていました。
今日はGoogleドキュメント合評会2日目。
たくさんのみなさんの最新作に触れられてうれしいです。

1月16日 月曜日

雨の月曜日。いつものようにウォーキングをしてからコワーキングスペースに出勤。平日が戻ってきたという感覚がとても強いです。ミーティングしている人々、談笑している人々。松田青子『持続可能な魂の利用』乗代雄介『最高の任務』を予約。さむい寒い言いながら帰ろうとして、味噌ラーメンとコーンポタージュのインスタントを買いました。あたたかいものを食べたり飲んだりすることって、いのちの洗濯だ。

C・パム・ジャン 藤井光訳『その丘が黄金ならば』早川書房

読み終えた後色々考えてしまいました。舞台は19世紀後半と思われるアメリカ。中国系移民の十一歳のルーシーと十歳のサムの姉弟は、父親の埋葬の場所を探すために流浪し続けます。
「爸」が求め続けた黄金はなんのためにあったのか、そしてルーシーが受けてきたジェンダーの問題、美しさについて、姉弟で違う性格や考え方、移民ということ。
とても体力を使う読書体験でした。

1月17日 火曜日

「礫の楽音」というスペースラジオのアーカイブで、水沢なおさんの朗読を聞き、大変よかったので頑張ろうと思います。日曜日に色々合評会でコメントをもらった詩を改稿し始めました。大量の煮物を作りながら行き詰って散歩をしたりしました。

フィリパ・ピアス 高杉一郎訳『トムは真夜中の庭で』岩波少年文庫

結末はわかっているんですが、なんだかもう一度読み直したくなって。
わたしの好きな「真夜中の読書会」という講談社のバタやんさんのポッドキャスト、最近第一夜から聞きなおしているのですが、この「真夜中」はこの本からとったそう。
トムははしかにかかったピーターから隔離されるためにおじさんとおばさんの家に行くのですが、そこでもはしかを移さないように引きこもった生活を強いられます。それはトムにとってとても嫌なこと。運動不足の末、不眠になってしまったあとに13時の鐘がなる不思議な大時計に誘われるようにして、真夜中の庭に出てみると、ヴィクトリア時代の少女ハティと友達になってしまうのですが……。
確かに「真夜中の読書会」自体も流行り病の時代に作られた番組なので、トムの気持ちをすくいあげているような気持ちもするんですよね。部屋で引きこもり、子どもなのに運動不足、そういうの今にもあるだろうなと思いながら読みました。ファンタジックな出会いが今の子どもたちにもありますように。

1月18日 水曜日

改稿2日目。なかなか難しいです。『群像 2023年1月号』の草野理恵子さんの創作「島と君と犬そして兄」を読みました。日記体・行分け詩・小説の中間、とてもいいなと思います。
コワーキングスペースで知人に風の谷のナウシカ全巻を借り(やっと借りることができました!)じっくりと読んでいました。3巻まで読んで体力を持っていかれてしまったため、残りは明日以降と言って元の場所に置き、早上がり。
今日は家で好物を食べるため、家で改稿していました。大幅に改稿しました……。いったんリリースできるほどになって、今日はおしまい。

松田青子『持続可能な魂の利用』中央公論新社

難しいなあ。この小説を読んで、最初に思ったこと。難しいなあ。
誰かにこのむずがゆさを伝えるのはとても難しい。いやがらせを受けて退職した敬子、彼女がハマっていく「笑わないアイドルのグループ」(実際にあるアイドルグループがモデルだと一読してわかります)のセンターの××、「おじさん」から「少女」が見えなくなる現象。
わたしたち、女性という問題提起。「見る」「見られる」ということ。
作中には「ハチクロ」など、わたしが「少女」だった頃に流行った漫画などが出てきて、今現在を描いている小説だなと思いました。「少女革命ウテナ」が下敷きになっているのだけど、「少女」が「革命」を起こす小説と言っても過言じゃないかもしれない。敬子やさまざまな女性の物語が絡み合い、第二部で演説しているのは誰なのか、最後までわかりません。最後を知ってしまえば、少し驚くような仕掛けが待っています。


1月19日 木曜日

一日がとっても短く感じられた日。何かを考え続けていたように思います。

津村記久子『現代生活独習ノート』講談社

ほんとは誰もが豊かで見栄えのいい生活や暮らしに憧れている。けれどいつもそんな暮らしを送るわけにもいかなくて。
生活や日常に少し倦んでしまった人々の短編集。仕事や育児にさらされながら、そして時代が違っても、働く人は働いている。どんなに人から見て適当な暮らしや食事をしていても、それでもその人ががんばって生きていることには変わりはないんだよなと思いました。
個人的にぐっと来たのは、志望する学生たちのSNSを日々チェックする人事部門の女性のリフレッシュ休暇の話と、わざとインスタ映えしない粗食を写真に撮ってアップする女性の話です。

宮崎駿『風の谷のナウシカ』(1~7巻)

あまりにも有名なジブリの名作映画の原作ですね。今回、近々コワーキングスペースで哲学バーというイベントが行われ、課題図書だったので『シュナの旅』と合わせてがんばって全巻読んでみました。
近未来、発展し続ける文明の中で「火の七日間」と呼ばれた「巨神兵」を使った大規模な戦争により、人類は行き場所を失い、大きく進化した虫たちが住む腐海ができあがります。腐海では瘴気という毒がいたるところにまかれ、マスクをしないと中に入ることができません。風の谷の族長ジルの娘のナウシカは、腐海の中でも虫や菌たちと会話することができます。一時期平穏を保っていた風の谷に、やがてクシャナ女王や他の民族との戦いが起こり、彼ら彼女たちを覆っていた憎しみの心や万物を意のままに扱いたいという思いが渦を巻いていきます。
ナウシカは死神だったのか、それとも救世主だったのか、最後まで読まないとわかりません。でも、彼女が念力で人と会話できる能力や、「優しすぎた」おかげで、彼女自身も苛まれた過去があったことが明らかになっていきます。
人工と自然、文明と戦い、虚無と自己、母親になることと少女から女性になること、そしてそれでも生きていくということ。
翼や空への憧れ、風への憧れ、そしてその反作用。
そんなことを考えました。

1月20日 金曜日

ナウシカにより、体力と気力を使い果たしました……。それでも、井戸川射子さんの芥川賞受賞はとてもうれしいです!
井戸川さんは2016年の現代詩手帖投稿欄などで活躍されていて、その頃は朝吹亮二さんと文月悠光さんが選者でした。マーサ・ナカムラさんに水沢なおさん。今活躍中の若手の女性詩人が数多く羽を広げられた時期でした。わたしもその時朝吹さんや文月さんに佳作に選んでいただいたのは忘れられません。井戸川さんが活躍していた頃は就職活動真っ只中だったので、自分の中でこれ!という詩が書けなくて大変だったのですが……思い出があるってうれしいことですね。
夕方、図書館とBOOK STAND 若葉台さんに行きました。バスに乗る車中で詩作。店員さんとお話しできてよかった!

1月21日 土曜日

新しいコラボのためのミーティング。いやあもう今から楽しみです。原稿は整えてあるので、次の文学フリマが楽しみだなあ。

加納愛子『これはちゃうか』河出書房新社

BOOK STAND若葉台さんで購入。よく聞いているポッドキャストで、おすすめされて読んでみました。
加納さんはお笑いコンビAマッソのツッコミ担当。今をときめくお笑い芸人さんです。確かに、お笑い芸人で女性で小説を書く方ってあんまり見かけなかったなと思いました。わたしがこの中で一番好きな短編は「最終日」なのですが、SNSや女友達って難しくて、時折自分の中にイライラすることとか意地悪な感情を持ってしまったり。そんな自分に自己嫌悪したり。でも、それでもいいんだと思ってスッキリしました。「最終日」は何かの展覧会などの最終日に駆け込んで、マウントを取る女子大学生の話なのですが、彼女が「不自然に自然体を装っている」女の子とのラインの描写が面白かったです。ラストは、まあ現実でもこうなるよね! と納得しました。
お笑い芸人かつ女性、ツッコミとなると「ことば」に対する感覚が一層研ぎ澄まされているのかなと思いますし、その「ことば」に対する反射神経がとてもよかったです。他にも5編の短編が入っています。

乗代雄介『最高の任務』講談社

書くことの意味を考えさせられます。手紙を通して、また日記を通して、自分が自分であることを求め続ける事。
表題作は亡き叔母から譲り受けた小学生のころの日記帳が、大学卒業を目の前にした語り手と叔母との記憶を解きほぐしていきます。
少し変わった家族ドラマといえばそうですし、何も姉の大学の卒業式に弟までいかなくても……と最初は思うのですが、語り手とその一風変わった「家族」の物語に惹きつけられました。
もう一作の「生き方の問題」は語り手が男性で、貴方と呼ばれる従妹につづられる手紙で物語が進行していきます。自分の生き方、本当に愛してしまった人のこと。まさに生き方の問題なのですが、どちらも深く考えさせられてしまいました。

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