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【エッセイ】母ということ

こんにちは。長尾早苗です。
ここのところ、よく友人や先輩や、一緒に活動をしている仲間のことなど、まあよく人に会っていた日々を過ごしていました。

その友人や先輩や先生や、色々な人たちの思う「母」ということについて、今日はゆっくりとお話ししていけたらと思います。

角田光代さんの存在

わたしにとって母を想起させる今一番重要な作家は、角田光代さんです。
源氏物語に触れてきて、「女」の色々な顔を書ける方だなあと思っています。もちろん『紙の月』『八日目の蝉』もつらくなるほど読みました。
読むとつらくなるというのは、自分自身が「そういう苦しみを味わうかもしれない」というリアルさがあるからのように感じます。
それはわたしが詩人であること、妻であること、母ではないこと、女性と名指される体に生まれてきたこと、そのすべてを彼女は描いていると思っていたからです。
いつか、母というストーリーを書きたい。
そう思って生まれたのが『フレア』(七月堂)でした。
よく読者の方から聞かれるのですが、わたしは出産経験も育児経験もありません。夫と二人暮らしのフリーランスの主婦です。
それでも、子どもを持つ母親の方や、同じように女性と名指される体を持つ人、そして母親の思い出がある方に、よくお便りをもらいます。
それは詩人としてとてもうれしいことでもありました。

母になること、母であること

わたしは今、30歳です。
母はわたしを30歳の時に産んで、今は子育てを終え、登山に励んでいる美しい人です。彼女のようにわたしはパワフルには生きられないのかもしれない。それでも、わたしは「書くこと」に救われていました。
「書くこと」がなかったら今の夫に出会えていなかったかもしれないし、たくさんのご縁にありがとうをいうこともなかったのかもしれない。
そんな中で、どんどんと変化する20代から30代の自分の体を、リアルタイムに感じていました。自分が、女性であること、夫を持つ妻であること、人を愛することを知っていること、若さを持て余すことを知っていること、それでも友人や家族を大事にしたいこと。
わたし自身が予測不可能な人間であるからこそ、自分が出産したり妊娠したりしたときなど、そんなプライベートなことを夫と瞬間瞬間で考えつつ、今の暮らしがあります。そしてその答えは、まだ出ていません。
それはわたしたちが働き盛りというのもあるし、わたしたち自身生き盛りの時を持っているからだと思います。そんな時に仕事と生活と作業以外のことを考えられなくなることもありました。

うしなっても母であること

先日、神奈川近代文学館で朗読サークルの後輩や同期、先輩や先生の朗読を聞いてきました。ぼろぼろと泣きました。久しぶりの感涙の涙。
作品は角田光代『口紅のとき』です。
わたしが体験してきたこと、わたしがこれから体験するであろうこと、それをそのままに表現しているみなさんが素晴らしくて。
コロナで女性達が一番に捨ててしまったものは、わたしが気を使わなくなったのは、「口紅」でした。どうせマスクで隠れるんだから。それに甘えて、わたしはどんどん自分の顔を鏡で見なくなりました。画面越しのミーティングぐらいだったかな。それでも、今のコワーキングスペースに通うようになり、またこの朗読を聞いて、ちゃんと自分を取り戻そうと思いました。
色とりどりの洋服、おしゃれをするということ、また誰かと会うこと、誰かと写真を撮ること、誰かと笑うこと。
その日々が、また戻ってきたように感じたのです。
なんでも話せて外に連れ出してくれる貴重な友人、あまり会えないけれど会ってごはんを食べたら大切な話をしてくれる友人、表現者として偉大な先生方。その一人一人が、「母」ということについて、色々な思いを持っている方ばかりでした。それは、わたしたちが30代になるという経験をしなければわからなかったこともたくさんあったように感じます。
誰かは距離的に、誰かは距離も心も関係のなく、誰かは心の距離的に、母を失っていることを、改めて思いました。
電話したら会える。そんな距離に、今わたしと母はいます。それでも、わたしは母を赤ん坊のようなわたしから解放してあげたい。いつでも登山や美しいものの話を聞けるわたしでいたい。そう思っています。

これから歩き出していくこと

人と会う。
とても重要で、かけがえのない刺激だと思います。これからのことについて、色々な意見もあるし、わたしも考え込んでしまうけど。
わたしの活動はこれからも続いていくと思うし、問うものはやっぱり「ことば・からだ」だと思います。
最近なんだか疲れていると思ったら、忙しさにかまけてラジオ体操をしておらず、瞑想もしない毎日でした。ハタヨガの先生が産休に入られ、わたしも活動や作業が忙しくて、からだの使いかたを間違えていたなと思います。

呼吸を整え、前を向いて歩くこと。姿勢を正し詩人であることを、自分であることを誇りに思うこと。

すべてはそれから始まると思います。

さあ、今日の夕食はカレーライスにしようかな。
冷凍を解きに行ってきます。

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