【映画感想】『デューン 砂の惑星 PART2』 ★★★☆☆ 3.0点

 遠い未来、宇宙は様々な貴族が惑星を支配する封建社会となっていた。惑星カラダンの領主であるアトレイデス家は、皇帝から宇宙人類の生活の要である物質「メランジ」を供給する惑星アラキスの管理を命じられる。しかし、これはアトレイデス家を滅ぼすための皇帝の罠であり、皇帝と結託したハルコンネン家の謀略によりアトレイデス家は滅ぼされてしまう。しかし、アトレイデス家の跡継ぎであるポール・アトレイデスとその母レディ・ジェシカ・アトレイデスはハルコンネン家の襲撃から密かに逃げ延びていた。惑星アラキスの先住民族フレメンのコミュニティに接触したポールは、アトレイデス家に代わって惑星アラキスでの実権を握ったハルコンネン家とフレメンとの抗争の中で徐々に頭角を現し、フレメンに伝わる伝説の救世主リサン・アル・ガイブとして信仰の対象となっていく。同じくフレメンの教母としての地位を確立したジェシカの手によって、未来予知能力者クワイサッツ・ハデラックの力を覚醒させたポールは、フレメンを指揮し、亡き父のかたきを討つために、ハルコンネン家と皇帝に戦いを挑む。



 映画を楽しむうえで、面白さを測るものさしはいくつかあり、作品ごとにどの要素に重きが置かれているかは変わってくるものである。例えば、リアルな社会派作品であれば、取り上げる社会問題とその調理方法が重視されるだろうし、重厚なミステリーならシナリオの展開やギミックに、大衆娯楽的なアニメ作品ならキャラクターのカッコよさや可愛さの演出に力点が置かれるであろう。そういった切り口で本作を語るとすると、この作品が力点を置いているのは作品世界観の完成度だ。

 本作は古典的な騎士流離譚かつ、宇宙規模のスペースオペラという構成の作品がゆえに、少しでも映像や演出がショボければ、あっという間に陳腐な作品になりかねない危険性を孕んでいるのだが、本作の演出はアラブ風の風俗とサイバーパンク的なデザイン、さらにスケール感の大きい砂漠の映像を組み合わせることで、作品設定にしっかりとした説得力を与えることに成功している。

 ある種、前日譚のようだった前作と比較して、惑星アラキスの巨大砂漠での全面戦争が描かれる本作は、作中のほとんどの時間でスクリーンに映し出されているのは砂漠や岩山なのだが、要所要所で登場する他惑星の描写にキャッチーなSF的演出が施されているため、作品全体のSF世界観がハイレベルに保たれている。

 黄色い砂漠が広がりイスラム文化圏の生活風土や宗教観の印象が強い惑星アラキス、古代ローマ調の風俗や全員が坊主という異様な文化性、モノトーンで統一された色調が印象的な惑星ジェディ・プライム、緑と水が豊かでキリスト教文化圏をイメージさせる帝国惑星と、それぞれの舞台のカラーがはっきりとしている点も良い。

 このように細部まで作り込まれた造形物、小物、衣装、メイクなどにより、巨大なスケールの遠未来宇宙の世界観が高精度にがっちりと構築されているため、本作では作品世界に3時間とっぷりと浸ることができるようになっている。3時間という長い上映時間も、このDUNEの世界観に没入するためには必要な時間であると言えよう。



 一方、本作の話運びは良くも悪くも叙事詩的な印象を受ける。本作では、救世主リサン・アル・ガイブとして覚醒していく主人公ポールにしろ、フレメンの教母として自身の謀略を進めていくジェシカにしろ、ポールを受け入れ、愛し、そして離別していくチャニにしろ、人間的に大きく成長し変貌していくキャラクターが多いのだが、そのいずれの描写も拙速で説得力を欠く印象が拭えない。

 作中での印象的なイベントである、ハルコンネン男爵の最期や皇帝シャッダム4世の失脚にしても、ドラマの積み重ねによる納得感は強くない。もっとはっきり言ってしまうと、上演時間の割に人間ドラマの密度が低く、いずれの登場人物にも共感しづらく、かつ、政治ドラマとしてもロジカルな印象が薄いのである。

 ただ、原作がSF小説の古典かつ、物語の骨子は前述の通り騎士流離譚であることを考えると、そもそも、本作はヒューマンドラマや政治ドラマとして見るべき作品ではおそらくない。どちらかと言うと、救世主の誕生を描いた神話や教典の映像化というのが本作のスタンスに近く、そういう意味で登場人物一人一人の心情にそれほどフォーカスせず、歴史映画として作中の事件の積み重ねを大局的に見ていく方が鑑賞スタンスとしてはしっくり来る印象だ。



 建付けこそ遠未来SFなのだが、その本質は神話であり歴史映画である本作。イスラム文化圏の風俗と宗教観をベースに、スペースオペラ的なSFがフレーバーとしてまぶしてあるこの世界観にハマれるかどうかが本作を楽しめるかの分水嶺なのだが、うまくハマることができれば、その世界観を骨の髄まで堪能できる至福の3時間を楽しむことができるだろう。作品の世界観と映像のスケール感が直結している作品であるがゆえに、100%楽しむためには映画館の大きなスクリーンで鑑賞するのがマストだ。

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