2話 キーホルダーとサラリーマン
ここ何年かで、なんばの様子が大きく変わったと感じる。
ゲームセンターがパチンコ屋になったり、道路が広場になったりと少しずつだが時代に押し流されていく。昔にあったものが無くなって、昔に無かったものが現れる。
そんな中の一つに、ガチャガチャがある。いや、ガチャガチャ自体は昔からあった。私が小学生のときにも、スライムやらキーホルダーやらのそれはあった。
しかしそれらは、あくまでも子供のおもちゃ、駄菓子のような位置づけだった。
一方で今のガチャガチャは、クオリティーと値段が格段に上がっており、子どものおもちゃというよりは大人が収集するグッズになっている。
「これ取るのにいくらかかったと思う?」
目の前の二人組のサラリーマンが酒を飲みながらウダウダ話をしている。細めの男が宇宙人のキーホルダーを揺らしながら、もう1人の同僚らしき男に質問する。
「500円ぐらいか?」
質問した男は、ニヤリと笑い答える。
「2000円だっ‼︎」
「高っ‼︎」
つられて私も、そんなもんにお金使えるなら、うちの店にもっと金落とせ‼︎っと心の中で毒っいてしまった。
とは言っても、誰が何にお金を注ぎ込もうと自由である。それぐらいは、私でもわかる。
キーホルダー【キーホルダーサラリーマンの略】から、ふいに話をこっちに振られた。
「あんたはガチャガチャしないの?」
「したこと無いですね」
「そっかぁ〜」
ここで話を終わらしてもいいが、一応客商売をしている身だから話を膨らましてみる。
「でも最近、増えましたよね。ガチャガチャ」
「確かに」
もう1人の男もうなずく。
「なんか、ドラッグストアの前にも置いてますしね」
そう、最近は駅やドラッグストア、コンビニなどどこでも置いてある。それどころか、ガチャガチャ専門店まで存在する。
「俺が子供の頃は、駄菓子屋の前でしか見たこと無いな〜しかも、全部壊れてたわ〜わはははっ」
キーホルダーが1人で喋って自分で爆笑している。酔っ払い特有のやつである。
「そう言えば昔はデパートの屋上に金魚屋とかあったな〜」
何かを思い出したように上を見上げて、もう1人の男が昔を語り出した。
「あったあった‼︎」
それに反応して、キーホルダーが嬉しそうに答える。
2人の中でガチャガチャの話が終わり、金魚屋の話しに移っていった。私は巻き込まれないように一歩引いて皿を洗うことにした。
ここに来る客の多くが昔話をする。
「子供の頃は〜」「昔は〜」「若い頃は〜」「学生の頃は〜」
思い出は変わらないのかもしれないが、なんばの町の様子は少しずつだが変化している。
みんな昔を懐かしながらも、やはりその変化には適応していかなければならない。
うちも、時代の変化に取り残されないように変化するべきなのだろう。最近原材料費が上がってきたので、値上げを考えていたところだ。
しかし、今までのお客さんのため無理していたがガチャガチャに、2000円突っ込んでるのを聞いて、おかげで安心して値上げする覚悟ができた。
今日も裏路地からは、サラリーマンたちの昔話が聞こえてくる。
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