極東から極西へ28:カミーノ編day25(Villares de Orbigo〜Astorga)
前回の話
日本人は静かな民族という認識!?
英語圏以外の人達と、心が通じ合った一瞬だった。
前回
今回は、オルビゴ村からアストルガまで。
本当なら少し先に進みたかったのだけれど、ストップ。ストップしたら嬉しい出会いもあった。そして、巡礼中一回はあるだろうなあと思っていた事がついに起きる。
・Villares de Orbigo〜峠の茶屋(ドナティーボ)
アストルガまでなら朝寝坊しても良いはずなのに、定刻で目が覚める。準備をして出発はきっかり6時45分。夜寝て朝起きて、運動するという実に健康的な生活で、身体の調子は頗る良し?
昨日の多国籍晩餐会で、台湾のマカレナが「明日は山登り!」と言っていたのを思い出した。でも初日にして、カミーノ・フランセ(フランス人の道)最大の難所ピレネー越えに比べたら、高低差は丘みたいなものだ。
ライトを準備して歩き始める。
すると、「山登り」手前の暗がりにマカレナが……。
「ヘイ、マカレナ!」
「ハイ! おはよう!」
進む先は真っ暗闇。なんだか犬の遠吠えも聞こえるし、一人より二人の方が心強い。
ヘッドライト二人分で明るくなった道を歩き始めた。
ザックのウエストベルトに仕込んだオレオを一枚あげたり、ポツポツ話しながら山登り。でも息は切れない程度なので、一日の始まりとしては程良い運動だ。
明るくなってきた頃に、お互いばらばらに歩き始めたけれど、それもカミーノ。
暫く行くと丘の上に何やらお店のような場所が出現した。
ボールで遊ぶ看板子犬のいる、峠の茶屋みたいな場所だった。つい犬と遊んでいると、マカレナがやってきた。やっぱり看板犬の可愛さに釣られてボールで遊んであげている。
その内にいつだったかのアルベルゲで一緒だったイタリア人らしい陽気な男性が買い物袋を下げて現れた。もうとっくに先に行ったものと思っていたので意外な感じ。
「あれ? チャオー!」
「チャオー!」
なんて挨拶を交わす。
本当に、前後2日間に知り合いが散りばめられている感じ。不意に会うから嬉しくなる。
茶屋には果物や珈琲、パンにビスケットと色々なものがある。
私はビスケットとパンを頂いた。なんだかあんまり食べられない。桃も魅力的だったけれど、気温のせいか喉も渇いていなかった。
ドナティーボとのことで、お金を入れて再出発。管理人さんにお礼を言って、ザックを背負うと、マカレナが「またね! バイバイ!」と手を振ってくれた。
「またね! また会おうね! ブエンカミーノ!」
元気なマカレナ。
きっとまた会えると思う。
・峠の茶屋(ドナティーボ)〜Astorga
マリンカさんは、レオンで別れてから毎日メッセージをくれる。
明日はいよいよCurz de Ferro(クルス デ フェロー/鉄の十字架)だそうだ。ここに、巡礼者は家から持ってきた石を置くしきたりがある……のだけれど、私は石を忘れたので拝むだけにしておく。鶴でも置こうかと思ったら、ブエンカミーノさん(アプリ)に、ゴミになるから他のもの置かないで! と注意されてしまった。
マリンカさんに、「宿は今までで最高だったよ」とメッセージを返しておく。
道はアストルガ手前までずっと降り続ける。でも、最後は壁に囲まれた小高い土地にある街に入る為にぐっと登る。
泊まる予定(中々来れる場所じゃないし、やっぱり史跡や教会は観ておきたい)のアルベルゲは11時オープン。時刻は10時半少し前。まずまずの時間ではないだろうか。大聖堂前の広場で時間を潰していると、マカレナがやってきた。やっぱり! また会えると思ってた。
「私も今日はここに泊まるわ。アルベルゲは何時オープン?」
「11時だよ。えっと……もうオープンしてるみたい!」
分かった、と言って彼女は大聖堂見学の為に中に入って行った。ファサードを見上げる人の中にはリネットさんの姿もある。
後ろから声を掛けてくれたのは、昨日同じアルベルゲだったドイツの男性だ。なんだか沢山の人に出会える広場だ。
宿の前に行くと、二泊予定のドイツ人の女性がいた。
ドアには貼り紙。オスピタレラは、15分後に戻るらしい。ドアが開くまで暫し話す。女性は、旗を持って旅している日本人の男の子に会ったと言っていた。
「彼に会ったことある?」
「会ったこと無いけど、知ってる。その人日記を書いてて、私読んでるんだ」
そう言えば、前々日に会ったあやさん達も、別の日本人の女の子に会ったと言っていた。多分それって、noteのあの人だよね? と思いながら話を聴いた。
不思議不思議。
日記でしか私は存在を知らない人達と、実際に会っている人がいる。少し嬉しい出来事だった。
アストルガのアルベルゲは、これまた過去最高レベル。久しぶりのシングルベッドにテンションが上がる。シャワーの圧も申し分なし。オスピタレラはすごく感じがいい……。
カリマさんは遅れてやってきた。
続いて昨日の宿にいたネザーランドの女の子も。
「ツネ、速いでしょ。ザック背負ってるし、別に必死に歩いてるわけじゃ無いのにね」
「一緒のアルベルゲだったよね。何時に出たの?」
「6時45分。もう少し遅く起きようと思ったんだけど、目が覚めちゃって」
その頃には、靴は私の分とアメリカ人のご夫妻のものしか無かったから、ネザーランドの子はもう出発していたと思うが。
「で、何時に着いたの?」
「10時半」
「ええ? 速すぎない?」
正確には10時半には教会の広場に既にいたので、もう少し早い。でも13kmあるかないかだから普通だと思うのだけれど。私が速いならロジャーさん親子は爆速だ。
早く着いたこともあり、日向ぼっこをしながら日記を書いた後。昨日に引き続きお昼寝をした。
なんとなく知らないフリをしていたけれど、お腹がおかしいから、身体を休めたかった。
・アストルガ大聖堂、知り合い、そして純日本製の考える人
15時過ぎにカリマさんからお誘いがありキッチンにおりる。食べ物をシェアしてくれると言うのでお言葉に甘えた。
ツナ缶とチーズ、ゆで卵代を支払ってキヌアと言う食べ物をご馳走になる。
どれも美味しいのだけれど、どうにも胃というか、腸というか、全体的にヘン。この重苦しい感じには覚えがある。多分アレルギーのあるハチミツをどこかで食べたのだ。味はすごく好きなので、うっかり食べてしまったらラッキーくらいに思っているのだけれど、あれは消化器症状が出るのだ。酷いと寝込む。寝込むのはやばいので、薬を飲んでおく。
お皿を片付けた後、お腹は兎も角大聖堂を観に行くことにした。
レオンのものとはまた違う迫力のあるファサードを観ながら、クレデンシャルを提示して中へ。
英語の説明のオーディオを借りて見学を開始した。ミュージアム見学の後いよいよ聖堂内部へ。
ロマネスクとゴシック、バロックが良い感じで入り混じる聖堂。建設時期が少しずつ違う為にこのような形になった上、イタリアやフランスの技術を取り込んでいるので、何というか、教会建築技術の集合体みたいになっている。
ブルゴス、レオン大聖堂とはまた別の、お化けカテドラルだ。
普段なら柱や彫刻、梁に見惚れるのだが、やっぱり身体がイマイチだ。
よろよろと見学を終えて、ファサードの前に座り込むことになった。25m先のアルベルゲに帰ることさえ出来ない。
痛いわけじゃないけど、独特の重苦しさに唸る。
うう、うぐうううう。
と、そこに人影が。
「まああっ、あなたは!!」
「……? Hola!!!!」
声を掛けられて顔を上げると、イチジクの食べ方を教えてくれたスペインの二人。沢山、何か話しかけてくれた。
私も会えて嬉しい旨を一生懸命伝える。二人の写真を撮ってあげて、大聖堂見学に行くと言う二人に手を振った。
うぐぐううううッ……!!!!
嫌な汗が出てきた。
これは困った。アストルガ大聖堂の前で完全に考える人のポーズになった。
そしてまた人影が。
「まあああッ! あなたは!」
「…………? うわあ、お久しぶりです!!!!」
「本当に久しぶりね。いつぶりかしら、思い出せないわ」
台湾の女性。DAY7か8で出会い、サント・ドミンゴで別れたきり会えて居なかった人だ。ひょっとして、オーストラリアのご婦人もアストルガのどこかにいるのかもしれない。
「本当にいつぶり? 友達は大丈夫? 大聖堂は観た?」
「多分、サント・ドミンゴの前のアルベルゲぶりですよ。友達はブルゴスから日本に帰りました。大聖堂は今見学してきたところ」
この女性、本当におばさんに似ているのだ。
ちゃきちゃきしていて、チャーミング。
「屋根の上の人は観た? 有名なのよ!」
「屋根の上? いえ、観てないです」
「後でネットで検索してみてね、有名だから。ほらこっちこっち!」
引っ張られて大聖堂の右側に回る。ガウディの司教館が門の向こうに見えた。なんだ、意外と近かったんだ。考える人になっていたせいで、分からなかった。
屋根を見上げると、確かに人がいる。
旗を持つ姿が、ちょっぴし杖をつく巡礼者の姿にも似ているような。
「中世の衣装?」
「多分ね。それで、この土地の衣装だそうよ。あ、ほら、こっちの方が顔見えるから来て!」
無事に写真を撮れた。
後で大聖堂の上の人について調べてみようと思う。
台湾の女性は明日のフォンセバドンの一つ手前の村で一泊する予定だそうだ。
「何日にゴール予定? 私は20日」
「多分、22か、23じゃないかと」
「冗談でしょう。なんでそんな遅いの? 10日くらいで着いちゃうわ。……さてっと。私はもうアルベルゲに戻るけど、きっと明日、あなたとは道で会えるわね。会いましょうね」
「はい、また、カミーノ(道)で!」
女性は私に元気を分けて去っていった。
・そっくりさんと、詐欺?
その後、司教館の外見だけ観た。中まで観る元気は無かったので、特徴的な外側をじっくり。
「ハロー!」
「ハロー?」
うろうろしていたら、アジアの女性に話しかけられた。韓国の人とはアクセントが違う。
「あなた、前の街でここに泊まってなかった?」
「前の街……オルビゴ村ですか? あ、そう。このアルベルゲに泊まってました」
なんか忘れ物した?
「実はさ、このアルベルゲに泊まってた人に、あなたと間違えられたのよ!」
「えー! あ、確かに似てるかも!」
チュン フイと名乗った台湾の女性は長身、短い髪。顔も確かに似てる。自分で思うんだから、周りからみたらきっと余計にそう思うだろう。彼女の方が背が高いけれど、ヨーロッパの人が見たら区別はつかないかも!
「記念写真撮らない?」
「いいねぇ」
そんな訳でお互いのスマホで記念撮影。彼女は娘とお母さんと三世代で来ているのだと言う。
「次会ったら名前で呼んで! またね。ブエンカミーノ!」
「またね、チュン フイ。ブエンカミーノ!」
彼女と別れた後、何やらおじさんに声を掛けられた。
スペイン語でうわーっと話されるが、こちとら三週間いるので、ジェスチャー混じりなら単語はなんとなく分かる。
「私は、フラメンコのギター弾きで……日本………手術…………何か日本のお土産……少し」
「今カミーノ中で、日本のものはありません。ここが日本なら助けられたかもだけど」
「……そうか、いいんだ。ブエンカミーノ」
翻訳ソフトを使って男性に答えた。
本当に折り紙くらいしかあげられるものは無かった。
アルベルゲに戻る。水さえあまり飲んでいない事に気づき、ジュースと水をなるべく飲んでからもう一つ薬を飲み横になった。内臓だけ殴られたみたいなダメージだ。多分今日がピークだろうから、明日には少し良くなっているはず。
カリマさんは宵っ張りだからまだ帰ってこない。
寝ようとして、言われた事を思い出す。
あれ?
本当にあと10日でサンティアゴ?
目を瞑る前にアプリを開き、ルートを確認してみる。
明日で残り250kmを切る。
ああ、本当に10日くらいで終わるんだ。
随分色んなことがあったなあ。
いや、まだ終わらないんだけど、それでも色々あったなあ。
毎日世界遺産の街を渡り歩き、沢山の人に出会い、別れる。再会できる時もあり、オスピタレロの皆さんみたいに、多分二度と会うことがない人もいる。
SJPPからこれまでの事が思い返されて少ししんみり。そしてはっとした。
「やだもう、走馬燈には早いよね」
殉教はしたくないでござる、と思ったので、本格的に寝る事にした。
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