極東から極西へ29:カミーノ編day26(Astorga〜Foncebadon)
前回の粗筋
アストルガ大聖堂の前で沢山の知り合いに会う。そして、一回くらいはあるだろうなあと思っていたアレルギー症状についに襲われる。
前回
今回は25km離れたフォンセバドンまで。
体調不良は大丈夫なのか?
そして、ついに完璧に満たされた欲求。多少高くとも、節制するところはしてきたから良いのだ。
・Astorga〜朝ごはん
6時15分きっかりに目が覚める。
お腹の調子は大丈夫らしい。ホッとしていたら、目が覚めたばかりのカリマさんに声を掛けられた。
「冷蔵庫にあなたの分のチーズ入れといたから、忘れないで」
「ありがとう。朝ごはんにするね!」
「また後でね」
「うん、後で!」
そうだった。
昨日の夜は何も食べる気が起きず、ジュースと水だけなんとかお腹に収めたのだった。
チーズゲットの為に、準備を終えてからキッチンに寄った。巡礼者の中には自炊しながら旅をする人もいるので、調理用のキッチンがあるところが多い(コミュニティーディナーがあるところは、アルベルゲスタッフ用キッチンの可能性あり。使えるか訊いてね!)のだ。
クラッカーとチーズを食べてから6時45分きっかりに出発した。
ちょいお腹に重たく感じるが大丈夫そうだ。重苦しいまでにはならない。
ひたすら真っ直ぐ歩き続ける。
今日は約25km。緩やかな上りの行程だ。私は下り坂より上り坂の方が得意なので、朝の空気の中を気持ち良く歩いていく。
台湾の女性の姿を探してみたがいなかった。そう言えば、彼女は早起きで、歩くのも他の人より速かった。同じくらいに起きたのでなければ追いつけないだろう。それでも近くにいるのは確かなので、心強い。
段々とモホンに書かれた数字が少なくなってきた。太陽が昇る時間も段々遅くなってきた。日中は暑いけれど、道の落ち葉の量や風の冷たさに、季節の移り変わりを感じる。
ザックのウエストに仕込んだオレオを齧りながら、坂を一旦登り切る。みなアストルガの方を振り返りながら登っていた理由が分かる。緩やかでも、もう眼下にアストルガの灯りが広がっていた。
サンタカタリナの村の手前のベンチに、見覚えのある姿を見つける。
あやさんとひろさんが、朝ごはんを食べるところだった。ひろさんの側には玉子6個入りのパックが。
「おはようございますー!」
今日はどこまで? と言う話をしてすぐに別れた。この時はドネーションのアルベルゲを狙っていたので、早く行かないと埋まってしまう可能性があったのだ。
また、フォンセバドンで! と言って別れたものの、玉子6個パックの事が頭から離れなかった。
「ひろさん、アスリートみたいだなあ」
タンパク質を摂るために、何個か生で行くのかもしれない。醤油があるなら、日本人だし、ご飯がなくてもいけるのかも。
そんな事を思いながら、綺麗に扉がペイントされた可愛い家々が並ぶ村を通過した。
エル・ガンソ村に着いた。
フォンセバドンまで10kmくらいだろうか。珈琲を飲みたくなって、カフェの表示に釣られて寄ってみた。
カフェ・コン・レチェと菓子パンをお願いして席に着く。カフェ・アメリカーノを頼んでいた女の子と、「注文はできるけど、お釣りの数字が分からない時あるよね」と言うような話をする。
珈琲は相変わらず美味しかった。
いつだって、スペインの珈琲は美味しい。
・朝ごはん〜Foncebadon
のんびり珈琲を飲んでいたらあやさん達に追い越されていた。
お互いの話をしながら坂を登って行く。アストルガを出た直後よりも、丘から山へと道は変化していた。日が昇り、一気に気温が上がる。
巡礼宿の側にある車道を、車が土埃を巻き上げて走り去っていく。
道中日本語が話せる事が嬉しくて、つい喋りすぎてしまう。
フォンセバドン手前のラバナル・デル・カミーノ村の手前で、休憩すると言う二人と別れた。ラバナルは、台湾の女性が泊まると言っていた村だ。坂道の両サイドに石造りの家が並び、成る程雰囲気がとても良い。カフェもレストランも素敵。
心が揺らぐけれど、レオンから暫く距離を伸ばしていないので、先に進む事にした。村の真ん中を通る道を登っていると、前方から見慣れた姿が現れた。
「Hi!」
「わあっ、お久しぶりです!」
なんと、ブルゴスで別れたUKのサイモンさん! サリアから奥さんと一緒に歩くと言って日程調整されていたので、また会えるとは思わなかった。
「体調どう? 脚は大丈夫かい?」
「大丈夫。怪我も、マメもないです。あなたは?」
「僕も大丈夫だよ。強いね、頑張ってるね。…….僕は今日はここに泊まりなんだ」
「私はフォンセバドンへ行きます」
なんだか、サイモンさんの言葉が分かりやすい。分かりやすい単語を選んでくれているのかもしれないし、ひょっとしたら、普段から普通の速度で話しかけてくれるカリマさんのおかげなのかもしれない。
「そっか。またね! ブエンカミーノ」
「ありがとうございます。ブエンカミーノ!」
やっぱり久しぶりの人に会えると嬉しい。
ラバナルを出てから道はまた急勾配になる。とは言っても、ペルドン峠やカストロへリスのような急具合ではない。
ぐいぐい登り続けると、やがてフォンセバドンの村が現れた。時刻は12時15分。まあまあの時間だろう。
ドナティーボのアルベルゲは街の一番奥にあるようだ。前のドナティーボのところは古民家で、優しい二人のオスピタレロがいた。期待に胸を膨らませ、坂を登って見に行ってみると、これが中々迫力がある外見。
もう一人、ベッドを狙っているらしい男の子がそーっとドアを開けた。
二人で入ってみるとホールは真っ暗で、ホーンテッドマンション真っ青な絵が幾つか壁に飾ってあった。更に奥に大きな木の扉が鎮座していて、そう、まるでそこはアレそっくり。ホーンテッドマンションと言っている時点でお察しだと思う。
「ひえっ。お化け屋敷」
思わず失礼な事を呟いてしまった。どちらにしても、開くのは14時。
他の宿を見に行く事にした。
・贅沢をする
ふらふらと坂を下る。
やはりまだ本調子ではないようだ。
最初に目に入った入ったアルベルゲに泊まる事にする。中に入りベッドが空いているか訊くと、個室しかないと言う。
だけど!
大都会よりは安い値段。
シャワーの待ち人を気にする事なく、いびきや寝返り、準備のガサゴソを気にする事なく、更に自分の準備の時は電気をつけられる。寝袋じゃなくベッドでしっかり寝られるのもポイントが高い。加えて観光する程街は広くないから心置きなく部屋に居られる。なんだかんだ英語お休みデイも英語を使っていたわけで。
もうがっつりしっかり休んでしまえと、色々言い訳を考えながら個室に泊まる事にした。
シャワーを思う存分浴びて着替え、洗濯を終わらせた。
準備は万端だ。野望を叶えに行くことにする。……今日こそ肉を食べるのだ。
肉を食べて寝てしまえば、多分元気一杯になれるはず(消化器がやられていることはこの際目を瞑ろう。お腹は兎も角舌が欲していた)。
アルベルゲの隣のレストランは13時半から夜まで。シエスタ中も開いているレアパターン。入るとあやさん達がご飯を食べ終わるところだった。
相席(というか、ほぼ食べ終わっていたから付き合ってくれたのだと思う)させてもらい、メニューを貰う。
「暫くビーガンの人と歩いてたんで肉が食べたくって」
「やっぱり宗教柄なのか、ビーガン多いよね」
ビーガンでも、羊・ヤギのチーズやヨーグルト、玉子や魚は可な人。完全に菜食だけの人、色々いる。やがてビーガンの話から食べ物の話へ。
ひろさんはヨーロッパに来ると頭のスイッチが切り替わるそうで、日本食は恋しくならないと言っていた。一方であやさんは3日でチーズとパンに飽きたらしい。
私も2週間くらいは大丈夫だったのだけれど、うっかりラーメン画像を見てからラーメン欲が増してしまった。
あやさんはおにぎりを作って食べたと言っていた。おにぎりいいなあ。ラーメンも売っているとか。
「うちら貧乏旅行だから締めるとこは締めて、朝とかもパン背負ってきたり、ビスケットだけだったり、なあ」
「私もたまにオレオだけとかやります。あ、そう言えば今日、玉子。あれ生ですか?」
「殻剥いとったやろ、日本でも道端で生卵飲むやつおらんで!」
ゆで卵だった。
てっきりアスリートみたいに飲んだのかと思った。
ハンバーガーは巨大だった。
ミディアムレアにパテを焼いてもらい、ここ数日分の肉欲求を満たしたのだった。
部屋に帰り、倒れ込むようにして休んだ。
明日は、「鉄の十字」を超えて、テンプル騎士団のお城のあるポンフェラーダに行く予定。また25kmくらい。
折角だ、楽しもう!
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