極東から極西へ38:カミーノ編day35(Boente〜O Pedrouzo)
前回の粗筋
プリミティボの道からの新しい友達ができる。低気圧予報を見てしまった。
前回
今回は、雨降りの中ペドロウソまで行く話。
サンティアゴ前日譚。
・Boente〜朝ごはん
低気圧の気象予報通り、支度をして外を見てみると雨がざあざあ降っていた。
当然日の出前なので、真っ暗だ。流石にレインウェアは上下フルセットにして、ザックカバーもきちんと外れないようにかけた。寝袋が濡れたら死活問題だ。
今出るか、もう少し待つかかなり判断が難しい。日の出の時間は9時に近く、待っていたら28kmは厳しい。
それにミンニョンに公営アルベルゲに向かうと伝えていたから、宿の予約はしていない。パンプローナの件があるから、遅く着くと泊まる場所が確保できない可能性がある。
「もし良かったら一緒に出ない? 5分待ってくれたら準備するから!」
「ええ、いいんですか? 一緒に行きましょう。今日は一人は危ないみたい」
アメリカの、ニューオリンズ出身のアリソンさんに声を掛けてもらえた。正直心強い。
アリソンさんは、サリアから歩いているそうだ。これが初めてのカミーノで、最初は旦那さんが来てくれようとしたけれど、一人でやってみたくてここまで来たのだと言う。彼女は、今日ペドロウソまで行くそうだ。
「今までで一番距離が長いの」
そう言って、肩をすくめていた。
真っ暗な上、土砂降りの中を二人で進む。
ピレネーぶりの酷い雨だ。早くあったかい珈琲を飲みたいねぇと言いながら歩き続けた。
「facebookのカミーノのグループの記事、読んだ事ある?」
「ええ、二つのグループのを少しだけ」
「そこに、ベッドライトなんて必要無いとか書いてあったじゃない? 今絶対必要よね。矢印が見つからないもの!」
本当、昨日もだけれど、雨降りだと二人分のライトでやっと矢印が見つかる暗さ。
「日本の人の記事でも、ライトはスマホで十分ってあったけど、私には必要不可欠ですよ」
だって、以前がっつり迷ってしまったし。
アリソンさんは、ゆっくり進むのが良いという。
一つの村、一つの街を楽しみたいのだと言っていた。
「TVの番組で、サリアからの100kmを休まず眠らず歩くって言うのがあったんだけどね」
「どこにも寄れないですね」
「そう! なんで? って思っちゃった」
カミーノは、沢山見所がある。
だからどこにも寄らないのは勿体無いのだ。多くの国の人にとって、すぐに来れる場所ではない。国内なら100kmをスポーツ感覚で歩き切ることはありだけれど、アジアのTV番組だったと言うから無し。
珈琲が飲めるところを探したり、バターナッツかぼちゃ? を見つけたり、可愛い家の写真を撮ったり、アリソンさんは色んなことに興味津々。
明るくなってから漸くお店を見つけると、すぐに吸い寄せられる。
「お腹が空いちゃった。カフェに寄るわ」
「じゃあ私も!」
なんだか新鮮なやり取りだ。
・朝ごはん〜Arzua
アルスーアの街に着いた。ミンニョンが泊まると言っていた街だ。大きくて、良い感じの場所。雨は辛うじて小雨になった。
巡礼者の女性が歌いながら私達を抜かして行った。
「ねえ、そのポールって歩くのにいい?」
晴れてたら、見るの楽しそうな街よねぇ、とさっきまで写真を撮っていた筈のアリソンさんに、不意に聞かれた。
「ええ、これを使うと私、膝が痛まないんです」
「そっか……私もポール買うわ! 坂道が不安なのよ。あっちにお店があるみたい」
そんな訳で、アリソンさんのストックを買いに行く。
確かに森の中はどろどろだし、坂道……特に下り坂はあった方が怖くない(無くても大丈夫な人はいる)。良い感じのものを店員さんに見つけてもらっていると、ピアスだらけの女の子が入ってきた。
何回か見た事があるけれど、かなり貫禄がありお互い話した事がない。でもお互い「君もここにいるね?」という感じで毎回会釈程度の挨拶を交わしている子だ。
今回も、「雨だけどちゃんと歩いてるね?」とお互い挨拶し合った。
・Aruza〜お昼ご飯
もう一度カフェに寄り珈琲で手を温め、また進む。スマホの調子が悪く、電波をちゃんと受信できないから、みんながどうしているのか分からない。
そう言えば、昨日ミンニョンが、夕方に会ったあやさんが寒そうにしていたと言っていた。COLDは、風邪、と言う意味もある(因みにカリマさんはfluと言う単語を使っていた。インフルエンザ、では多分なくて風邪のスラングだと思う)。
ここ数日かなり気温が下がった上に雨だから、昨日のアルベルゲにも調子の悪そうな人がいた。
時刻を確認すると12時過ぎ。
いつもだったらゴールしているか、目前の時間だけれど、まだ10km以上ある。歩きは時速4kmくらいで進んでいるから悪いスピードではない。
でもやはり、雨が邪魔をするのだ。レインウェアを着ているせいで普段より動けないし、フードを被れば視界が悪い。それに寒さが半端ない。
「お昼食べましょうか」
「ええ!」
体が冷えてしまうから、エネルギーが必要だった。
丁度土砂降りから奇跡みたいに晴れた。
食べたボカデージョは今までで一番美味しかった。
・お昼ごはん〜O Pedrouzo
カフェで珈琲を飲んだ時に賑やかな集団がいたのだが、道中で彼らに追いつかれそうになった。
「賑やかすぎるから、あんまり一緒じゃない方がいいみたい」
「分かった」
スピードを上げたアリソンさん。
でも彼らの方が速かった。結局追いつかれ、話しかけられて会話するアリソンさん。ちらほら聞こえてくる内容に、おや? と思う。
「ごめんね、実は彼ら、さっきのカフェで話していた内容で、アメリカ人が嫌いなのかしら? って私思っちゃって。だから速く行きたかったんだけどね。なんと、話してみたら同級生だったのよ。こんな奇跡ある?」
「同級生……って、すごいね。カミーノミラクルだね!」
「本当にそう。アメリカって大きいのよ。なのにまさか同級生に、カミーノで出会うなんて!」
カミーノミラクル3回目だ。
時間は刻々と過ぎるけれど案外人がいる。
どのみち洗濯はランドリーマシンを使うしかないから良いのだけれど、ペドロウソが近づいた時に致命的なことに気付いてしまった。
ネット通信がおかしいので、宿を探す時に使っていたブエンカミーノのコンパスが使えないのだ。
すーっと血の気が引く。
「泊まるとこ、わかる?」
「地図が使えなくなっちゃってて」
「待って。多分助けてあげられる!」
アリソンさんが地図で宿を検索してくれた。またね、と言って別れた。明日はたった20kmの行程だ。道中で会う可能性は高い。
振り返り手を振りあって、そちらに進むと、同名の小さな宿が……! 私が探していたのは公営の大きなアルベルゲ。
そう言えば、巡礼のマスコットみたいなのを何回か見た事があったので、チェーン店みたいな感じなのかもしれない。
慌ててアルベルゲが並ぶメインぽい通りに進路変更し、地図を見つけて確認する。
かなり外れたところにあるのが目的の場所らしい。
「すみません、今夜のベッド、まだありますか?」
なんとか辿り着いて尋ねたら、無事に確保できたのだった。多分、雨で皆到着が遅れているのだ。
大きなアルベルゲで、設備も良かったのだが、結局ミンニョンには会えなかった。雨が止んだタイミングで外に散歩に出たけれどいない。
スーパーにもカフェにもいなかった。
明日は、フランス人の道ラストウォークだ。
次の話/最終回
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