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極東から極西へ12:カミーノ編day9(Navarrete〜Azofra)

前回の粗筋
ナバレッテでクラリッサにアドバイスをもらう。カミーノは一人一人のもの。

前回

今回は、アイルランド兼、南アフリカ共和国の出身のカリマさんと歩くお話。
カリマさんは、サパーにいたメンバー。



・Navarrete〜sotes


 ナバレッテを暗い内に出る。
 教会の横のカフェが開いていたので、朝ごはんを食べた。


カフェはこんなとこ。
ホタテ貝の形が街によって違うのも楽しみ。


 カフェコンレチェをお腹に流し込み、クリーム入りのがっつり甘いマフィンを食べてスタートする。
 空は透明で高く、薄ら東が明るくなっていた。やっぱり早朝が気持ちいい。葡萄畑が変わらずに広がっていて、慣れた光景のはずなのに何回でも感動する。


日の出が綺麗


 ところが、30分も歩かずにSさんの歩みが止まってしまった。とうとう両脚が痛くなってしまったのだ。

「大丈夫?」
「うーん、ちょっと、ダメかも。ゆっくり行くから先に行ってください」
「……分かった。何かあったら連絡して。タクシーやバス使ってもいいしね。e-simは大丈夫?」

 e-simの残り容量を見てみたらなんと30MBしかない。メガドライブ(古のゲーム機)と一緒。

「連絡取れなくなるとこじゃん。チャージするね。もしも万が一esim切れたら、必ず機内モードにしてね。そのまま使っちゃダメだよ?」
「えー、分かりました」
「えーじゃありません。超高額請求になっちゃうからね!」

 別の意味で心配ごとが増したが、ここでSさんと別れることにした。
 クラリッサのアドバイス。カミーノは一人一人のもの。だから、ここからは彼女のカミーノだし、私のカミーノだ。LINEできる状況にしておいて、進んだ。
 ペースを合わせることが無くなったので、抜かされた人に軽々追いつく。
 その中に、カリマさんがいた。道中何回も会って、サパーで一緒だった女性だ。

「ハロー! あら、また会ったわね」
「ハロー、カリマ!」
「友達は?」

 歌うようにハロー! と言ってくれる明るいカリマさん。Sさんの事を尋ねられた。彼女は両脚を痛くしちゃったよ、と伝えると、バッグが重すぎたんだわと心配してくれた。休めばきっと良くなるから、とも。

・sotes〜ventosa

 まだ起きない街の中を過ぎて、再び葡萄畑の中。カリマさんがある家の傍にもっさりと生えている草をちぎった。私も倣ってちぎってみる。

「これは?」
「これは、ローズマリー。目が覚める匂いでしょ?」

 ああ、本当だ。
 ちぎったばかりのローズマリーはとても良い香りで、暫くちょこちょこ嗅ぎながら歩く。カリマさんは今度は道端に生えている背の高い草に手を伸ばした。
 でも目当てのものが見つからなかったようで、残念そう。

「あれは、なんだったの?」
「あれはフェンネル。葉っぱを噛むと歯磨き粉の替わりになるの。すっきりするわよ。でももう枯れちゃってた。もう少ししたら種子が取れるけど、種子はまだみたい」

 カリマさんは物知りだ。こんな風に、植物について色々教えてくれる。

・ventosa〜Najera


 ベントーサからナヘラは10kmオーバーの長距離だ。

「今度はブドウを試してみようかしら〜!」

 葡萄はそこら中にあるけれど、みな畑のものだ。良いんだろうか? カリマさんは鼻歌を歌いながら畑に入り、一つ、二つ取って口に入れる。

「うーん、いい味ね! 流石美味しいわ」

 そんなに美味しいの?
 果物の中でも葡萄はトップ3に入るくらい好きな食べ物だ。
 誘惑に抗えず、つい釣られてふらふら畑の中へ。まんまるで、大っきい粒がたわわに実っている。ワイン用だから渋いのではないかと思ったのだが。


葡萄畑。確かに巡礼路にものすごーく近い。
葡萄の粒がしっかりしていて美味しい。


「うわっ、美味しい!」
「でしょ? ジューシーでリッチな味よね」

 食べると果汁が溢れだした。
 ウェルチなんて目じゃないくらい濃い味で、びっくり。

「びっくりした」
「びっくりする程美味しかったわね」
 
 声に出ていた。
 カリマさんは南アフリカ共和国に両親がおり、今はアイルランドでくらしているそう。南アフリカは自然豊かだそうだから、自然に詳しいのかもしれない。

 セントパトリックス・デイ(セント・パトリックはアイルランドの聖人。この日は皆緑の何かを身につける。東京タワーやボストンの川が緑になったりすることも)の話をしたり、昨今のウクライナ情勢の話をしたりした。

「ウクライナからの難民は、ヨーロッパの中でちょっとした問題になってるの。私の住むアイルランドなんかは特に小さなところだから、受け入れ先が一杯なのよ。
 政府がお金を出してるけど、一体いつまで? ウクライナの人達、週末になると飛行機で国に帰ったりできるのよ。
 アメリカがウクライナをNATOに誘ったのが問題だったのよ。ウクライナはユーロ圏とロシアの間の国だもの」

 センシティブな話題だった。他にも、福島の話やクリーンエネルギーの話をした。
 最終的に、戦争は馬鹿げた行為だと言うところでセンシティブな話題は着地した。

・タパスと最初の邂逅

 
 ナヘラの街に入り、ご飯を食べられる場所を探す。

「旧市街のほうが巡礼者向けだと思うのよ」
「ここら辺、建物新しいですもんね」

 カリマさん曰く、〝いい感じ〟の街並みになったところにでた。ペルグリーノメニューは無いが、タパスが食べられるお店を発見した。
 中で2種類のタパスと珈琲を頼む。

「美味しいですね」
「ねー、最高!」


ピミエント(ピーマン)と生ハム。エビのフリッター。

 なんて、外の席で言っていたら、ガタイの良い男性がキョロキョロしながら街を歩いている。そして、こちらへやってきた。黒い髪にサングラス。

「Hola!」
「Hola!」

 微妙な間。
 この独特の、多分アジア人特有の間。

「日本人、ですか?」
「韓国です」

 違ったかー!
 お互い笑ってしまった。男性はどこかへ去っていった。

 タパスを食べ終わった後は教会見学。
 中庭が相変わらず素敵だ。柱と柱の間の装飾が素晴らしく複雑だった。それに騙し絵みたいな天井があって見ていると落ちそうになる。
 写真を撮り、後にした。


騙し絵天井。
装飾がすごい。
高いクロスリブが見える

・Najera〜Azofra


 やがてアソフラの街に着いた。
 公営アルベルゲはとても素敵で、一部屋にベッド二つのかなりプライベート間の高い場所。シャワーと洗濯を終えて、中庭でのんびり日記を書く。

池があって、脚をひたすことができる。


 やがて、ガイさんとカリマさんがやってきた。そして、あのガタイの良い韓国の男性が。2度目の邂逅である。

「ここいい?」
「あれ? 日本語喋れるんですね」

 互いに自己紹介した。

「エリックって呼んで。韓国の名前は難しいから」

 四人で話して時間が過ぎる。
 エリックは、韓国語と日本語は似てるから喋れるんだと言っていたが、にしてもうま過ぎではないだろうか。エリックは休暇が限られているから明日は30km以上歩くと言っていた。その30kmを繰り返しているらしい。すごい体力だ。
 ガイさんがワインを飲み終わり、カリマさんが軽食を食べ終わって一度、お開きになった。

 夕飯を食べにカリマさんと外に出て、それから部屋で横になった。同室の人はイタリア人の女の子。
 英語はそんなにできないと言っていた。

「明日は何時頃出発ですか?」
「多分6時か7時だけど、なんで?」
「起こしちゃったら悪いかなって思って」

 こんなやり取り、前もしたなあ。
 気にしないで、大丈夫だよと言って、寝袋に潜り込んだ。

 一人一人のカミーノか。
 まだ少し心配だけれど、離れた方がお互い楽しめるのなら良いのかもしれない。
 

次の話


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