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極東から極西へ行くことにした②:カミーノ準備編・コース選定

 前回の粗筋。
 
 2023年4月の終わり。
 秋に退職するのに合わせて、遥か西の彼方にあると言う、サンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼路に向かう事に決めた。




・コース選定



 5月頭。爽やかな陽気の中、散歩がてら買ってきたパンを齧りながら逡巡する。スペイン行きを決めたは良いものの、いざとなると何から準備すれば良いのか具体的なことが全然分からない。
 分かっている事は極めて漠然と大まかに三つ。徒歩で800km歩くこと、パスポートがいること、そこがスペインであって日本ではないと言うこと。

 分からないなら相手を知らないと! という訳で、サンドイッチを飲み込むと、まずは調べ物から始めることにした。インターネットで検索すると、日本カミーノ・デ・サンティアゴ友の会というNPO法人のホームページに行き着いた。

 ここで巡礼路が複数ある事を知る。
 私が昔観ていた世界遺産の映像は、どうやら「フランス人の道」という名前で、1番メジャーなコースらしい。きっと映像の中で他の道の名前も出ていたのだろうけど、当時はあまり意識しなかったものと思われる。他にも「北の道」や「ポルトガルの道」、「銀の道」、「イギリス人の道」などなど、びっくら沢山あって素直に驚き納得もする。ゴールは1つだろうけど、そこに至るまでの道が1本だけの訳がない。
 そもそも玄関を出た時から巡礼は始まるらしい。ということは巡礼者の数だけ道があることになる。名前のつかないそれらの道を含めれば、それこそ星の数だけあるというわけ。
 私は巡礼初心者だし、ならば仲間の多そうな「フランス人の道」が良さそう。きっと土地の人も巡礼者に慣れていると思うから、異国の地でも少し安心できるはず。


・サンティアゴ巡礼って何?



 ところで、そもそもサンティアゴ巡礼とは何なのか。読んで字の如くサンティアゴ・デ・コンポステーラ(サンティアゴの星の野原)へ詣でる為の巡礼、なのだけれど、サンティアゴって誰なのか。

 サンティアゴは聖ヤコブ。
 英語だとジェイコブ、フランス語だとジャック。
 


 キリストの12の弟子の1人で、レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた最後の晩餐で向かって右にいる緑の服の人。後に福音書を書いたヨハネは実の弟(キリストの向かって左側にいる)で、一緒にお父さんのゼベダイの元で漁師をしていたところを、キリストの呼びかけに応じた。何隻も船を持つ裕福であったろうお父さんと、そして手に持っていた網を打ち捨て兄弟揃って弟子になった。
 ヤコブは気性が荒く声が大きかったようで、雷の子とも言われている。キリストとの布教中、「天の火であの町を焼いてしまいましょうか」なんてヨハネと一緒に物騒な物言いをして嗜められることも(因みに死んだ後も、スペインでムーア人相手に馬に乗って戦うくらい血気盛ん)。
 やんちゃなとこはあるけれど、キリストが自分の死の前日に側に置いた3人の愛する弟子のうちの1人でもあったそう。

 キリストの12人の弟子は、ヤコブの弟のヨハネを除き全員殉教してしまう。ヤコブは12の弟子の中で最初に殉教したとされている。キリストの近親者の小ヤコブと区別する意味と、キリスト教最初の殉教者という意味で敬意を込めて大ヤコブと言われている(小ヤコブより前に弟子になったからという説もあり)。
 彼は当時辺境とされていたスペインの地に布教に行き、帰ってきたところをヘロデ王に斬首されてしまったそうだ。
 遺体は小舟に乗せられて、最終的にたどり着いた場所が彼が愛したスペインはガリシアの土地だった……というお話。因みに小舟の底にはホタテ貝がいっぱい付いていたとかなんとか(フランス語でホタテ貝はサン・ジャック)。

 それから約800年後、星の光に導かれ、隠者ペラギウスという人によってヤコブのお墓が発見された。
 それがサンティアゴ・デ・コンポステーラ。
 ローマ、エルサレムに並ぶキリスト教の三大巡礼地の一つであり、今回の旅の目的地。


・まずはフランス


 さあ、現地のルートは決まった。
でも、「フランス人の道」のスタート地点であるサン・ジャン・ピエ・ド・ポー(長いから以下SJPP)までどう行けば良いのか分からない。街の名前でおや? と思った通りどうやらこれはスペインとの国境近くのフランスの街らしい。

 飛行機はフランス着?
 それともスペイン着?

 結局どちらもバスなり電車なりを使う事になりそう。乗り換えやら何やら考えるとフランスの方が行きやすそう。
 まず私が向かうべき場所は、なんとパリ。
 こりゃやばい。

 フランス語は話せない。ツアーじゃないし、電車に乗るとなるとチケットを買わなければならない。「なんたらかんたらシルブプレ」のなんたらかんたら部分が分かって運良く一枚購入できたとしても、途中乗り換えがあるらしく、二枚目を買うなんてそんな器用な事が出来るのかどうかが分からない。
 ああ、せめて事前にチケット購入が出来ればいいのに。

 にしてもパリ。
 パリ?
 ラ・マルセイエーズのあの、パリ?
 何か素晴らしくお洒落なイメージの街だけど、巡礼前の必須事項でそこか、若しくはフランスのどこか(漠然且つ広範囲)に泊まらなければならない。

 SJPPに無事に辿り着けるのか不安しかないまま、私は一度インターネットをそっと閉じたのだった。



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