極東から極西へ行くことにした③:カミーノ準備編・本紹介と仲間が出来た話
前回の粗筋
「フランス人の道」はどうやらフランスからスタートする道らしい。
・本を読む
パスポートを申請して、後は巡礼関連の書籍やブログを読みまくった。最初に買ったのは高森玲子さんという方のこの本。
写真が沢山! しかもカラーだし、分かりやすいし、何より読んでいて楽しい。Kindle版も買ってしまった。1日のタイムテーブルや持ち物、Q&Aがついているおかげで、漠然としていた旅が段々と輪郭を表してきた。いまでも繰り返し読んでいる。
次に読んだのは新川秀之さんのこの本。
スタート地点の街、SJPPに行くまでのあれこれが書いてあったり、現地のトラブルだったり、1日の過ごし方だったりが書いてあった。書き手である新川さんの語り口が大らかで面白くてすぐ読んでしまった。SIMカードや、洗濯石鹸はいるかもしれないと気づけたのもこの本のおかげ。
あとは、巡礼者で読んでいる人が結構いるという事で、パウロ=コエーリョさんの「星の巡礼」。
宗教色が強いけれど、なるほどなぁと思うこともあり。キリスト教系RAM教団のマスターになり損なった主人公が、自分の剣を見つけるために、道を歩く。現代ファンタジーのようでもあり、修行の記録のようでもある一冊。
他にも読んだ本があるのだけれど、取り敢えず3冊。前回インターネットをそっと閉じた時よりぐーっと現実味が増してきた。
・旅の仲間ができた
仕事の同僚で1人、仲良くしてもらっている子がいて、ここでは仮にSさんとする。休み時間が被った時に、この極極計画の事を彼女に話した。
「え、常さんスペイン歩くんですか? いいなあいいなあ、行きたいなあ」
「一緒に行っちゃう? 800kmあるけど」
「800!? 行っちゃおうかな」
「行っちゃお行っちゃおー!」
そんなゆるい感じで仲間ができた。
正直この時は本気でSさんが行くとは思っていなかったのだけれど、上で紹介した高森さんの本を渡す(職場まで持っていっていた愛読書)と読んでくるという。
そして数日後、本を返してくれた日に言われたのは、「親に話してきました。行けますよー!」の一言だった。決断力の塊だ。
「ウソ……早っ……仕事辞めなきゃだけど……」
「辞める気だったし平気ですよ」
「おあああ!あああ! さらりと言うじゃん!」
「行っちゃいましょー!」
退職も1ヶ月以上の渡航も中々覚悟がいると思うのだけれど、あっさり人生の冒険に巻き混んでしまった。青猫みたいに叫んで内心めちゃくちゃ焦る私を他所に、Sさんは涼しい顔をしていた。
何はともあれ相談相手がいるのは心強い。
体力があるのはお互い知っているし、この決断の早さは得難い。心を鎮めてSさんに訊ねる。
「Sさん、ザックとか寝袋とかいるけど持ってる? 山のお店行く? 私はキャンプ行くから持ってるけど」
「ザックもう買いました。背幅もちゃんと測ってますよ。可愛いやつなんで使うの楽しみです」
だから本当行動が早いって。
・靴を買いに行く
5月10日。
ハイカットの登山靴はあるけれど、トレッキングシューズは持っていなくて、Sさんと待ち合わせて登山用品を見に行く事にする。
https://www.ici-sports.com/shop/takasaki/
こちらの石井スポーツ高崎店というお店でKさんという店員さんに大変にお世話になった。素直に巡礼に行く事を伝えて、歩く道は登山道からアスファルトまであると説明。
Kさんはスペイン旅行したことのある方で、靴選びだけでなく、スリの手口や身を守る方法など旅行のノウハウをおしえてくれた。
私は足に一番合ったSALOMONのトレッキングシューズに中敷を入れて購入。
「ゴアテックスのやつじゃないとダメですかね」
「ゴアの方がいいと思うよ。蒸れたらマメできちゃう」
「最初に防水スプレーかけとくと長持ちしますよ。目詰まり起こすと折角のゴアテックスの性能が半減しますし……」
Kさんに手入れや注意事項、保管方法も聴けた。因みに我が同僚Sさんはスペインのメーカーの靴を購入。
「SALOMONはフランスのメーカーだから、2人合わせて巡礼っぽいですね」
Kさんは会計をしながら笑顔でそんな事を言ってくれた。素敵な方だ。
・飛行機予約
無事に靴を購入後、旅行会社さんに相談に行くことにしていた。アポは取っていないし、既に時刻は夕方に近い。せいぜい航空券の相場を確認するのと、フランス版新幹線のチケットの取り方を聞くくらいだろうと思っていた。
カウンターで大体の日程を伝えると、お姉さんが幾つかのプランを出してくれる。2人でざっと目を通した。
昨今の情勢で、ロシアの上を通るのを避ける為か時間が長い。ドバイでの乗り換えか韓国での乗り換えが安そうだけれど、どちらにしようか。
「常さん常さん」
「なに?」
「直通便がありますよ」
それ、高いやつ。
「日本の会社だし、これから歩くわけだから絶対直通のが楽ですって」
でも一理ある。
現地に着いてもシャルル・ド・ゴール空港(以下CDG)からの街中までの移動。更にモンパルナス駅からバイヨンヌ経由でSJPPまでの長距離移動と、ずっと気を張って動かなくてはならない。更に更に巡礼初日はピレネー山脈越えの難所、時差ボケがあるだろうし体力は温存したい。
じゃあ持ち帰り要検討、と、頭の中で算段をつける。
「決めちゃいましょう」
「はい?」
「行くことは決定してるんだし、退路を断ちましょう」
私はカウンターのお姉さんの顔を見た。良くも悪くもとてもビジネスライク。その表情から真意は読めない。航空券は今後もあるのか、もっと安くなる可能性はないのか。
「あの、9月のパリ行きの航空券って結構埋まってきてますか?」
「そうですね、今の段階でこれだけです。情勢によりキャンセルが出る場合も勿論ありますが」
世間はアフターコロナ。
私達は職業的にまだまだコロナ対策は必須だけれど、とんでも円安の割に海外旅行の需要は増えているらしい。
「仮押さえってできますか?」
「他からの入金があったら流れますね。それに為替が変動するので、ずっとこの値段ではないです」
腕組みして約1分。
ちらっとSさんを見るとニヤニヤしている。
「今日キャッシュでいけますか?」
「ええ勿論」
にこりと笑ったお姉さん。
航空券をキャッシュで押さえ、本当に色んな意味で退路が無くなった。
まんまとSさんの即決に乗せられた形だけれど、行く日と時間が決まった事でより計画は立てやすくなった。
東海道中膝栗毛ならぬ、西洋道中膝栗毛になりそうな予感がひしひしとしている。
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