極東から極西へ35:カミーノ編day32(Saria〜Portomarin)
前回の粗筋
サリアで人が増える。
Day7で出会ったソンヒさん、またブルゴス以降会っていなかったコビさんに会う。
前回
今回はポルトマリンまでの話。
大事に歩いて行くよ!
・Saria〜朝ごはん
準備を終えて、一度市街地からカミーノのある旧市街の方へぐっと登っていく。通りには既に人が沢山いて、お店で朝ごはんを食べていた。
リッカさんとマークさんに会い、ハグして別れる。もうここまできたら、みんなでゴールしたい。一緒にじゃなくても、故障なくサンティアゴ・デ・コンポステーラに到着したい。
まだ暗く、朝ごはんには早すぎるので、ザックのポケットに仕込んだチョコを食べながら進んだ。
今日も一応午後から雨の予報なのだが、夜目にも空はどんよりと暗く今にも雨が降りそうだ。それに、微かに空気に雨が降る前の匂いが混じっていた(雨ツーリングで身につけた自前の天気予報)。
サリアから登りが続き、途中でスウェーデンのハンナさんと一緒に歩く。
日が昇ったはずなのに、明るくならないな、と思ったらやっぱり雨。二人で慌ててレインウェアを装着した。
ハンナさんと途中で別れて、カフェに立ち寄る。私がストックとザックを置いておいた席に普通に座って飲みだす巡礼者。靴がピカピカなサリアからの人らしい。
「ペルドン!」
と言って、ザックとストックを移動させて席に着いた。
頼んだのはナポリターナに次ぐお気に入り。エンパナーダ。前に食べたポジョパイもこれ。ちなみに、豚肉のエンパナーダもある。「豚まんの味やね!」というあやさんの的確過ぎる言と一緒に紹介しておく。
エンパナーダはどれを食べても美味しい。
・朝ごはん〜Portomarin
最近急に、高床式倉庫(オレオ)のある家が増えてきた。
オレオの写真を撮りながら、のんびり歩く。
モホン(道標)の数字はどんどん少なくなっていく。とうとう、A Pena という村で残りピッタリ100kmとなった。
100kmという距離は、地元ネタなのだけれど、国道17号で前橋〜東京間が丁度この数字。800kmは4往復分の換算なので、最後の復路まで来た計算になる。
一日25kmとしてあと4日。
スタートして4日目はペルドン峠に登って、プエンテ・ラ・レイナに泊まった日。
随分昔のことみたいに思える。
あの頃よりは知らない人の中にいても怖く無くなった。
あの頃よりは英語が分かるようになった。
でももっと話せるようになりたいと思った。できればスペイン語でも話したいと思うようになった。
スペインの人を好きになった。
他の国の人を好きになった。
ヨーロッパの人がアジアの人同士で言葉が通じないのを不思議に思うと知った。
自分自身がヨーロッパの人同士で話が通じないのを無意識に不思議だと思っていたことを知った。
自分の歩行距離の限界点を知った。
人のことを気にし過ぎる自分に気がついた。
人でも荷物でも、重たいなら自分の分だけ持って歩けばいいことを、それに時には降ろしてしまってもいいことを知った。
100kmモホンは人気スポットのはずなのに、あんなに沢山人がいたのに、不意にぽんっと誰もいなくなってしまった。
本当に、前後に誰もいないのだ。
モホンと一対一。
色々あったなあと思いながら、写真に収めた。
ポルトマリンにやがてたどり着いた。
コビさん、ハンナさん、タケル君という日本人の男の子もいて、皆んなで古い石段を登った。
・豪華なお昼と、たまごと、ビール
アルベルゲに着くと、マークさん、リッカさんも来た。またハグ。だって数日後には会えなくなってしまう。
コビさん、リーさんに誘われてお昼を食べに行くと、ちょっとびっくりの値段。ディナー並みに少したじろぐが、パンと鮭を頼んだら大満足のご飯になった。
因みに、コビさんはタコ。リーさんはイカを頼んでいた。そりゃあガリシアはタコが有名だもの、食べるよね。
前回のステーキの時、コビさんが多めに出してくれたので、次に会ったらビール奢るよ! と言っていたのだが「ここ高いから自販機のビールで大丈夫」と言われてしまった。
ご飯後少ししてから、スーパーに夕飯の買い物ついでにビールを買いに行った。戻ってきたらリーさんに会えたので、二人で飲んでと渡しておいた。
そしたら後で更に、ゆで卵を頂いてしまった。
・カミーノに来て良かった?
共有スペースのキッチンに行くと、あやさん達がいた。
二人は、カミーノが終わった後の相談をしながら歩いているのだと言う。そう、もうそんな段階なのだ。帰りに観光するなら、飛行機や電車のチケットを取らなくてはならない。どこを観るのか下調べも必要だ。
「友達来るって?」
「そうみたいです。でも日付が月末で」
「ああー、そりゃ、もうとっくにゴールやんな。そこにー私はいません〜って歌があったなー」
それは「千の風になって」。
あやさんが続きを歌っていた。
「日本で生活しとる人とカミーノ中の我々とは、そこら辺の感覚がちゃうねんな。日本におる人、スペインおるなら誰々に会ってきーって簡単に言ってくんねんな」
〝現地にいる我々には我々のプランがある〟ことを日本にいる知人は知りようがない、と、ひろさん。
私のサンティアゴ到着と友人の到着の日付が大きくずれているのも、上手く言えないがそういう事だろう。
会えないなら、その時は終わり。
後は個人の問題だよね、という風に話は落ち着いた。
私は終わったら、アンダルシアの街を見る予定だ。そして最後にサグラダファミリアを観て帰る。カミーノ中に考えていたプランだ。それだって、フィニステーラやムシアまで行ったら分からない。カミーノだけで、お腹いっぱい胸いっぱいになって考えが変わるかもしれない。
途中でイタリア人のご夫妻とアルベロベッロの話をしたり、あやさん達が帰りに寄る街の話をしたり、おでんや豚まん、シュノーケリングの話をしたりした。
今後の話をできるのも幸せな事だ。
カミーノが終わっても道は繋がっているという事だから。
「カミーノ、来て良かったな」
「!」
散々話した後、あやさんが言った。
どうだったかと問われて即答する。
「それはもう、間違いなく最高の旅でした」
「うん、人生で一番良かった旅かもしれんわ」
単純な生活。
毎日黄色い矢印を追いかけて、助け合いながらゴールを目指す、それだけ。それだけなのに、沢山経験をして、沢山学んだ。他では得難い宝物のような日々。
カミーノ、来て良かった。
迷わず言える。
大きなアルベルゲの、二段ベッド。
誰かがずっとラジオを聴いているのを子守唄に、この日、ぐっすり寝たのだった。
次の話
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