極東から極西へ34:カミーノ編day31(Toriacastela〜Saria)
前回の粗筋
オ・セブレイロを無事に抜けた。
「君の名は……?」とトリアカステーラで呆然とする。
前回
今回はサリアまで。
サリアはサンティアゴ・デ・コンポステーラまで約100km(よりもあるけれど)の距離。徒歩で「コンポステーラ(完走証明書)」が貰えるのは100kmからだし、交通の便も良い為、ここから始める巡礼者も多い。サリアでの出会いと別れのお話。
・Toriacastela〜Samos
トリアカステーラのアルベルゲで準備。同室の人の内、まだ二人は寝ていたので、階下まで荷物を持って行って準備する。
やっぱり階下で準備していた人に、どこから来たの? と問われた。
「日本です」
「日本! 僕は前にいたことがあります」
ブラジル人のワシントンさん。なんと日本語でやり取りをする。やっぱりブラジルに沢山日本人がいる事を教えてくれた。
日本に滞在した事があるだけではなく、彼女がいたそうで、最初は何がなんだか分からなかった言葉も段々と分かるようになっていったんだとか。
「そっかあ、それなら使ってれば私の英語もマシになるかな」
「段々となるよ!」
ワシントンさんはそう言って、握手してくれた。
もう誰が日本語を話していても驚かない。驚かないけれど、自分がカタコトなのが本当に悔しい。やっぱり帰ったら真剣に英語とスペイン語を勉強しよう。
光る十字架を見ながら町を出る。
さっさか歩いていたのだが、他の巡礼者がいない。そういえばルートがもう一つあったなあと思い出し、みんなそっちに言ったのだろうかと首を捻る。
すると後ろから昨日私のベッドの下にいた人が現れた。
「ワシントン、見た?」
「いえ、会ってない。というか誰にも会わなかったです」
「そうか……」
そう言って、少し明るくなるまでつかず離れず程よい距離感で歩いた。時々道が分からなくなった時に相談できる距離感。暗い中を歩く時に、これが出来ると心強い。
連日の雨で村も道も、しっとり濡れて落ち葉の匂いがする。
時々甘い匂いが混じるのは、沢山落ちている栗のせいか、よく見るりんごのせいか。そう言えば、いちじくは大分少なくなった。季節が変わったからだろう。
10km程歩いて大分明るくなった頃、サモスに着いた。大きな公営アルベルゲがある中々素敵な村だと聞いていた。
橋を渡り、カフェに寄ることにする。
すると外の席になんだか見た事がある人が。
「おはよう、ミンニョン!」
「おはよう!」
再会を喜び合う。
ミンニョンがなんだか美味しそうなシフォンケーキを食べていたので、珈琲とそれを頼んだ。口に運んでみるとシフォンケーキではなく、重量感のあるカステラだった。腹持ちが良さそう。
「今日はどこまで?」
「サリアまで。あやさんひろさんもサリアって言ってたよ」
ミンニョンは、本当? と言って笑っていた。
グーグル翻訳と英語を混えて話した。
「あんなに楽しい人達に会うの初めて」
「そうだねぇ。私も初めて!」
そう言うと目を丸くしていた。
「えー! 日本のカップルはみんな楽しい感じなのかと思った」
「いや、二人の個性だよ」
「個性、そうかも!」
笑っているミンニョンだって、何時も楽しそう。
サリアからは、スタンプ2つ必要なんだよね、と言う話をすると、SJPPからスタートした巡礼者はそんなに厳しくチェックされないみたいと情報をくれた。
確かに、そうかも。
でも折角新しいのを買ったから、ちょっと多めにスタンプを探して推して回ろうか。
・Samos〜Saria
写真を撮りながら森の中を通ったり、村の中を通ったり。
特に森の中は、時々苦手な下り坂があるものの、落ち葉がふかふかで歩いていて気持ちがいい。景色はすっかり秋本番。歩かなければ肌寒いくらいの気温になってきていた。
サリアの手前であやさん達に遭遇。ひろさんはカミーノのカッパをゲットしていた。青にホタテ貝がちょっと羨ましい。
サリアの入り口で、ミンニョンに追いつかれる。何故かそこにはヤギがいて、みんなで写真を撮った。
私は昨日……というかもう少し前から咳が出始めていたので、カプセルホテル風のアルベルゲを予約していた。
本当は個室の方が良いのだろうが、そうも言っていられない。長引きそうな咳なので毎回個室では財政難に陥ってしまう。
そんな訳で、皆と別れて巡礼路から逸れたところにチェックインする。
チェックイン時に後から足を引き摺りながらやってきた女性は、ネザーランドのホノカさんと言うらしい。ホノカさんは今日で一度カミーノを終了するそうだ。
身長が同じくらいなので、着圧サポータータイツのCW-Xをあげようか? と提案したのだけれど、もう帰るチケットを買ってしまったのだと言う。
「ありがとう。気持ちだけもらっておくわ! 来年来る時の参考にする。あなたが使って!」
「分かった」
ここまで来てのリタイアは、すごく悔しいだろうなあと思う。サンジャンから来て、友達だって沢山いるだろうに……。
「日本よりは遠くないのよ。大丈夫! 家に帰ったら沢山休むわ」
来年は良いゴールができますように、とサンティアゴで祈ろうと思う。
・キッチンにて
ご飯を食べに行こうか、スーパーで何か買ってくるか、迷った末にまずキッチンの調味料を見てみることにする。
ひょっとすると、ドネーションで何か良いものが置いてあるかもしれない。がさごそやっていると、なんと米がある。ぱっと見、普通の米。パエージャに使われている細長いタイプには見えない。
炊いてみることにした。
キッチンには韓国の男の子が一人。多分ラーメンらしきものを作って食べていた。
小鍋に米を入れ、研いで水を入れる。
蓋をして……あれ? IHの使い方が分からない。適当にボタンを押すとやがてコトコト煮えだす。
「日本人、ですか?」
「そう、日本人。常と言います。あなたは?」
「ユンホワン、韓国です」
ユンホワン君は、日本人のカミーノ友達がいるのだと言う。会えなくて寂しい、と言っていた。
「彼は、歩くの速いから。今どこにいるんだろう」
日本の国旗を持ってる日本人の男の子。
結構色んなところに影響を残して、去って行くから面白い。
大体好印象で、「いい子ね」「いいヤツ」「今どこにいるの?」と言う言葉を沢山聞く。
「どこかな、私も追いつけるかと思ったけど、速すぎて無理だった」
知らない人なのに、知っている人のようだ。
そんなこんなするうちにお米が炊けた。レンジでお湯を作っていると、ユンホワン君に、「米だけ?」と言われた。フリーズドライの味噌汁とチーズもあるよ! と見せた。我ながら大分変な食事だ(主にチーズのせい)。
・サリアの街と、再会と
アルベルゲはカミーノのある旧市街から外れたところだったので、お腹を満たしたあと、旧市街を散策する事にした。
サンダルを突っ掛けて、カミーノに向かって歩く。
少し登った場所が旧市街。
建物は良い雰囲気、なのだけれど、今までと何か様子が違う。SJPP以来の賑やかさなのだ。ピカピカの靴や服、それにヨレていないザックの人が沢山いる。
そうか、これがサリアから人が増えると言う意味かと、妙に納得した。
教会を観ているとミンニョンに再会。また後でね! とすぐに別れられるのは、お互いまた会える気がしていたからだろう。
「あら! 元気にしてた?」
「元気です。あなたは?」
別の教会で、なんとDay7の、ビアナのアルベルゲでルームメイトだった、オーストラリア在住の韓国人、ソンヒさんと再会した。
多分この時はお互い、大分前に会ったことのある人、と言う認識だったと思う。大分前、多分メセタの前……とずっと記憶を辿って思い出せた。
夜ご飯どうしようかなと考えながらアルベルゲに戻ると、何回も会っていたけれど、ブルゴス以降会えなくなった韓国の男性が。
お互い「うわあ!」と声に出して再会を喜んだ。
「会えたねぇ」
「会えましたね」
韓国の男性はコビさんと言う名前。
ここに来て、色々な人に再び会える。
コビさんと、再会を祝してステーキを食べに行った。
日本と韓国は隣同士なんだし、もっと仲良くしたいよね、と話し合った。コビさんは、スマホの翻訳機能で話す。
「みんなさ、カミーノを歩けばいいんだよ」
「そうだよね、そしたら仲良くなれる」
同じ目的地に向かって800kmも歩けばみんな仲良しだ。
なんとも良い夜になった。
ゴールまで、明日を含めて後4日。
4日かあ……。
私もそうだけれど、皆これまでの出会いを大事に抱えて残りを歩くのだろう。
この出会いの繰り返しが、カミーノの大事なところなんじゃないだろうか。
そんなことを思いながら眠りについたのだった。
次の話
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