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綺談 いけません

圭人さんの地元である沖縄県の小さな離島には、親戚一同で集まって行う慣例行事がある。

それは梅雨の時期から夏にかけて年に一度必ず行われており、何らかの布で作られている幼児ほどの大きさをした、『人形』の前で親戚一同飲み食いする、という物であった。

この『人形』は先祖代々受け継がれていて、親戚の誰かが持ち回りで管理しなければならない決まりがあり、圭人さんが小学校を卒業する年、家に順番がやってきた。
管理する家には様々なルールが細かく決められており、手伝いをお願いされ遊びにいけないこともあった。
その度に
「この人形はね、島にとっても物凄く大事な物なんだよ。だから大切に扱ってね」
と口酸っぱく言われており、圭人さんはこの気味の悪い人形が大嫌いだった。

梅雨も近づく頃、圭人さんは友人と大喧嘩をして苛立っていた。
家に帰ると両親は不在で、人形が置いてある部屋の襖には
開放厳禁!
と張り紙がしてあった。

苛ついていた圭人さんはこの張り紙をみて、思い切り襖を開けた。

「いけません」

耳元で鋭く尖ったような声が響き、
気が付くと圭人さんは知らない部屋に座っていた。

「あれ?」

訳が分からずに周りを見渡すと、ノートが目に入った。
(〇〇中学 〇〇圭人)
そこには自分の名前が書いてあった。

混乱し、奇声を上げ泣き叫んでいると、部屋のドアが開き男性が入ってきた。
「圭人、落ち着け、分かるか?」
落ち着いて男性の顔を見ると現在は沖縄本島で暮らしているはずの叔父だということに気がついた。
叔父から促され、両親へ電話をかける。
『あぁ、あとは成人したら島に必ず帰ってきなさい。それまではそのまま叔父さんにお世話になってね。』
電話口の両親は怒っているのか少し悲しんでいるのか、何とも分からない感じであった。

叔父に話を聞くと圭人さんは既に小学校を卒業しており、叔父の家に住みながら本島の中学校に通っているのだというが全く記憶が無い。
しかし、
(人形のルールを破ったからか)
と何故か圭人さんはこの不思議な状況を素直に受け入れていた。

「叔父もあの人形が嫌いで島を出たそうです。ただ叔父が話していた人形は布では無く、木で出来ており大きさも大人くらいはあったとの事でした。」

自分が知っている人形とは違うことを伝えると叔父は
「そうか」
とだけ呟いた。

圭人さんは来年成人するのだが、島に帰るべきか辞めておくべきか、未だ悩んでいるという。





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