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怪談 冷たい手

「幼少期はとにかく寂しかった記憶しかないです」

Nさんは物心がついた頃には母を亡くしており、父と二人で暮らしていた。

「常に体調が悪くて、学校にも満足に通えずに色白で痩せていて、見た目から相当に貧弱でした。」

産まれたときから身体の弱かった新垣さんを男手一つで育てる為に、父は毎日働き詰めだったが常に笑顔を絶やさない優しい人だった。

ある雪の降る日、Nさんは熱を出して寝込んでしまっていた。

『早く仕事を終わらせて帰ってくるからな!』

心配しつつも急いで仕事へ出掛けていく父を横目で見送り、Nさんは身体の辛さと不安と心細さでいっぱいだった。
熱にうなされながら

(友達も居ない、お母さんも居ない、なんで私だけ辛い思いばっかりしているんだろう)

と悲しい気持ちになり、布団の中で1人涙を流していた。
その時、ギィ…と音がして誰もいないはずの家に人の気配を感じた。

(誰かいる?)

部屋を確認しようと身体を起こそうとした時、不意に額に冷たい感覚が走った。
驚いて声を出そうとしたが声が出ない。

いつの間にか布団の横に髪の長い、雪のように白く痩せた女性が座っている。

女性はNさんの額に細く長い手を乗せていた。その手はものすごく冷たく、しかし心地が良かった。
Nさんは冷たい手の感触を感じながら、そのままつい眠ってしまった。

『大丈夫か?』

目覚めた時には仕事を終え、不安そうな顔をした父の姿があった。
熱はすっかり下がっており、身体の怠さも消え去っていた。女性の姿は見当たらなかった。

「あれから何故か弱かった身体も徐々に元気になっていったような気がします」

学校へ通い、友人もたくさんできた新垣さんはもう寂しい思いをすることも無くなったという。

(あの女の人はきっとお母さんだ、寂しい思いをしていた私を助けるために来てくれたんだ)

と考えたNさんは父に、母の写真を見せてほしい、とお願いしたのだが
確認した写真の母はあの女性と全く似ても似つかなかった。
父に女性の話をしたが、熱で悪い夢でも見ていたんだろうと相手にされなかった。

「女性が誰だったのかはわかりませんが、雪をみるとあの冷たくて細い手の感触を思い出してしまうんです」

社会人となったNさんは今も健康に気を使いながら毎日を過ごしている。


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