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「関西女子のよちよち山登り 1.金剛山(千早本道)」(2)

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 登和子が金剛山に来たきっかけは、彼氏とのケンカだった。

 登和子には七年間付き合っている同い年の男性がいる。秋庭次郞(あきば じろう)といい、趣味は登山だ。
 付き合い始めた当初、まだ彼は登山に出合っておらず、週末ごとに登和子といろんな場所に出かけていた。

 しかし二九歳のとき、大学の先輩から誘われた富山旅行に出かけてから、彼は一変した。旅行のメインは富山県にある立山登山だったらしく、雄山の頂上から見た山々の雄大な景色に、次郞はすっかり惚れ込んでしまった。
 それから登山にのめり込み、今は週末ごとに、仲間と近畿の山に登ったり、大阪府外に遠征したりしている。

 当然、登和子はその間ひとりである。

 しかし、登和子は趣味が小説やマンガを読むことで、ひとりの時間を大切にしている。だから放って置かれること自体はそれほど気にしていない。平日の夜にタイミングが合えば一緒に外食をしているので、会えない淋しさもなかった。

 だが、ずっと前からしていた約束を反故にされるのは我慢がならない。

 昨年の十二月から、次のGWは一緒に旅行に行こうと次郞の予定を押さえていた。折に触れて旅行の件を念押しし、四月上旬に外食したときには、ガイドブックを広げながら遊ぶ場所の相談をしていた。

 それにもかかわらず、中旬になってあっけなく予定は覆された。山友達が次郞を登山に誘ったのだ。

 カレンダー上の休みと休前日をすべて使い、行きと帰りを夜行バスにして3泊5日で山に登るという。
 彼はその山に登ってみたかったし、登山を始めるきっかけとなった立山登山のときの先輩も来るから行かせてほしいと、外食しているときに登和子に頼んだ。
 心底申し訳なさそうな顔はしているし、謝罪もしてくれたものの、伏し目がちのまつげの影から漏れ出す、内心のウキウキわくわくした気持ちは隠せていない。

 ひとり好きの彼女とはいえ、週末はずっと放置して登山三昧。たまにした約束もあっけなく破って許されると思っている次郞の顔を見ていると、登和子の心のマグマがぐぐぐっとせり上がって一気に噴き出した。

「次郞、ちょっとこれはあかんのちゃうか」

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