見出し画像

「関西女子のよちよち山登り 1.金剛山(千早本道)」(1)

次の話

  山谷登和子(やまたに とわこ)、三二歳。

 「山」と「谷」、「登」る「子」という、山に登るために生まれてきたような名前の人間が、今、ひとりで山に登って息も絶え絶えになっている。
 冗談のような話だが、当人としてはまったく笑えない。


 登和子は登山をしたことがほとんどない。

 記憶がないくらい小さな頃に祖父に連れられて一度、そして小学校のときの遠足で一度登ったきり、山に登ろうと考えたこともなかった。
 そんな登和子は現在、大阪府の南部に位置する金剛山にいる。数多くあるルートのうち、最も登りやすく人出も多い千早本道の、五合目の休憩所で、全身で荒い息をしていた。

 おかしい、こんなはずじゃなかった。

 金剛山の千早本道は、子供でもお年寄りでも行けるハイキングコースで、登山デビューにぴったりなはず。
 それなのにどうして、私はこんな死にかけの虫のような状態になっているのか。
 登山道の脇にある四阿(あずまや)のベンチに座り込んだまま、登和子は呆然としていた。

サポートいただけたら、もれなく私が(うれしすぎて浮かれて)挙動不審になります!よろしくお願い致します!