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【掌編小説】猫は正義党

 西暦二〇二×年、【猫は正義党】というとんでもない名称の政党が設立された。

 選挙公約は『猫が住みやすい世の中を作る』。大きな政党から小さな政党まで、既存の政党に属する人間は、猫狂いの頭のおかしなヤツが出てきたと相手にしなかった。国民も同様で、猫好きによるイロモノ政党ができたと面白がってさえいた。

 しかし、そんな世間の印象が二年後に一変することとなる。

 その年行われた衆参同日選挙において、【猫は正義党】が見事当選を果たしたのである。一人や二人ではない。北海道、宮城、東京、長野、福井、大阪、広島、大分でそれぞれ一人ずつ当選した。

 番狂わせの結果は他の政党を、世間を大いに騒がせた。しかし、次第に当然の結果だと捉える国民が増えていった。

 【猫は正義党】の『猫が住みやすい世の中を作る』という選挙公約を実現すれば、結果的に人間も住みやすい世の中になるのではないか、と気づき始めたのである。

 例えば、“無益な争い”や“爆音を轟かせる乗り物”、“口を大きく開けて行うくしゃみ”は原則禁止。猫は怒声や罵声、大きな音が苦手だからだ。また、外での喫煙は、猫が煙を吸い込んだり吸い殻を口にしたりする可能性があるため、こちらも原則禁止される。

 【猫は正義党】の選挙公約は働き方すら変える。まず、ゆとりある心で猫と共生できるよう、企業には、一人の従業員に仕事を振りすぎないように配慮することと、休憩は好きなときに好きなだけ取れるよう善処する努力義務が課せられる。
 さらに、猫と暮らしている者の場合、猫が昼間寂しい思いをしているようなら在宅作業への切り替えが可能となる。

 これらを実現すると、初めのうちは企業に損失が出る可能性が高い――その穴には税金を投入する。現政府による無駄遣いを改め、猫と国民のために税金を使うようにすれば、補填は十分に可能だ。

 同時に、猫の無責任な飼育、加虐は厳罰化される。猫に悪事を働いた者には懲役ならぬ猫役が課せられ、監視の下、二四時間・三交代制で、身寄りのない猫を集めた「猫屋敷」のスタッフとして働くこととなる。

 【猫は正義党】の考えは昨今の猫ブームも相まって急速に世間に広まり、受け入れられ、やがて衆参両議院で第一党となるまでに大成長を遂げた。

 その後、対抗勢力となるべく犬好きの有志による【犬は正義党】が発足したが、犬種ごとに党が分裂して弱体化。自然消滅してしまった。

 第一党である【猫は正義党】は政策を意欲的に押し進めた。国民の心は潤い、争いや貧困はなくなり、元々愛されていた猫は国を挙げてより一層愛されるようになった。

 そして時を経て日本は「大にゃんこ独立国」と国名を改めた。

 世界の他の国々は、真面目な日本の人々が猫によって狂わされたと驚いた。しかし、大にゃんこ独立国と国交を深めるにつれ、共感が他国の人々の胸を震わせた。

 日向でお昼寝する猫のごとく、世界中の荒れた心は穏やかに凪いでいき、やがて戦争がなくなった。世界に平和が訪れた。

 その後、宇宙から侵略者が来襲するというアクシデントが発生したが、その未知の生物は瞬く間に猫のかわいさに骨抜きにされた。地球人、侵略者ともに一滴の血も流さず和睦に至り、異星間交流が始まった。
 猫のかわいさは地球を救っただけでなく、異星間交流によって新たな科学や知識を得られるきっかけを作った。猫は偉大である。

                ***

「はちまる!おれ頑張って【猫は正義党】、実現してみせるからな!」

 はちまると呼ばれた、白黒のはちわれに鼻周りが黒い猫は、ちらっと飼い主の人間のほうを見た。

 スーツ姿に猫耳のお手製カチューシャを付け、【猫は正義党】と書かれたのぼりを手に、目を輝かせている。

 はちまるはふわーあと大あくびして、丸くなって寝始めた。


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