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サカナクション 『sakanaction』 【好きな邦楽紹介 #2】

こんにちは。ゆりいかです。
先日から軽い気持ちで始めた、好きな邦楽の作品紹介をできるだけ丁寧に行うシリーズ
もうちょっと、自分のためにも書いてみたくなったので続けようかと思います。

そんな調子の第2回ですが、今回紹介させていただきますアルバムは

サカナクション『sakanaction』(2013)

前回紹介した作品より、もしかしたら今回のこの作品の方が聴いたことのある人が多いかもしれませんね。

前回紹介したアルバムはこちら。

ここで少し余談ですが、筆者のネームである『ゆりいか』というのは、サカナクションの楽曲『ユリイカ』が由来です。
彼らの作品の中でも好きな曲だし、この名前には本名の要素が多少含まれていたりもするので笑

そんなわけで、今回は1ファンとしてダラダラと紹介させていただきます。

サカナクション『ユリイカ』(2014)

今回紹介するアルバム『sakanaction』は、上記の楽曲が発表される前の2013年にリリースされた作品です。


アーティストについて

サカナクション とは

サカナクションのアーティスト写真。(2018)

北海道札幌市出身のロックバンドで、メンバーは、リーダーの山口 一郎(Vo/G)、岩寺 基晴(G、Cho)、草刈 愛美(Ba、Cho)、岡崎 英美(Key、Cho)、江島 啓一(Dr)の5人からなります。
「ロック」と「テクノ」を融合させた唯一無二のサウンド
が、たちまち人々を魅了しています。

2005年頃から活動を開始、2007年に1stアルバム「GO TO THE FUTURE」をリリースして、メジャーデビューを果たしました。

以降、精力的に活動を続けており、2022年、山口さんの休養のため一時活動をストップしましたが、2024年春、無事に活動再開を果たし今日に至ります。

彼らに影響を与えたアーティスト

主にサウンドメイク面では、くるりの「ワールズエンド・スーパーノヴァ」やレイハラカミ、YMO。
詞においては、石川啄木、宮沢賢治、吉本隆明などの昭和文学など。

サカナクションの音楽はこれらの影響を受けています。


このアルバムについて

【表裏一体】な一枚

この作品のテーマは『「表」と「裏」』、『表裏一体』。アルバムのジャケットはこのテーマを元に製作されたもの。
世間一般・タイアップを意識した「表」の面と、この時点でサカナクションが真に表現したいものを意識した「裏」の面という二面性を「表裏一体」のサウンドと表現しているのです。

またこの作品の特徴としては、全体的にどことなく内省的なムードが漂っていることや、アルバムタイトルがそのままバンド名”sakanaction”を冠しており、これはこの作品が自己紹介的立ち位置、バンドを象徴する出来の自信作である事から来ています。

今回どうして表と裏というテーマをアルバムに用いたかというと、このアルバムをリリースする前に、シングルを「僕と花」「夜の踊り子」「ミュージック」と、3枚出していて、これらの曲が3つとも、ドラマの主題歌やCMのタイアップソングとして話を頂いたので、表に向かってたくさん出しすぎた分、今のサカナクションが好きな曲を好きなように作ってみようと、(略)レコーディングを開始しました。だから、サカナクションの中では表と裏という意識がすごく強く出たんですね。

ニューアルバム『sakanaction』収録曲の"表と裏" / サカナLOCKS! (2013)

商業的な意味ではなく、バンドにとっての"勝負作"ですね。シングル曲も入ってるし、たくさんの人に知ってもらえるアルバムだと思うんですよ。YouTubeでシングル曲しか聴いたことがない人も、アルバムに手を伸ばすと思う。それは配信でも盤でも。だからそういう人が「サカナクションってこんなバンドだったんだ」ってわかるよう、ちゃんと"裏"と"表"を伝えたいって思ってますね。

サカナクション『sakanaction』インタビュー / 音楽ナタリー (2013)

僕たちがどういうバンドなのかがはっきりわかったアルバムになりました。ドラマの主題歌やCM曲、楽曲提供など外に向かって挑戦することが多かったぶん、自分たちの音楽はどういうものかを確認する時間があまりなかったんです。制作を通じて、自分もメンバーもその確認ができたと思います。

「自分たちのなかにある、表と裏の感覚」サカナクション 山口一郎氏 インタビュー / 週刊アスキー (2013)

従来とは異なる製作環境

さらにこのアルバムは、それまで主にスタジオで製作されていたのとは異なり、製作作業の大半が山口さんの自宅で進められています。

6枚目のアルバムになっていて、自分たちのバンド名をアルバムタイトルするぐらい気合い入った作品なんですが。これね、実は自宅で作ったんですよ。僕の当時住んでいた自宅で制作すると。要するに下北沢に住んでた時なんですけど。『下北沢の自宅で作ったものが、日本全国に広がっていってる』っていうコンセプトで、『家の中で作り上げたものを広げる』ってコンセプトで作り始めたアルバムなんですね。なので、非常に作品的にもタイアップ曲も何曲か入ってましたし、僕ら的にもこの時やりたいと思ったことを、外にも向けて作りながら内にも向けて作るという、非常にバランスがとれた集大成的なアルバムになったと思います。

『山口一郎のサカナクション解体新書』 / 山口一郎 Youtube (2021)

──なぜ自宅でやることになったんですか?
タイアップが続いてて、スタジオで音楽を作ることにみんな擦れちゃって。もちろんドラムから録って、上モノを足してっていうルールはあるけど、サビこうすれば盛り上がるよねとか、ここにもうひとつ付け足せば派手になるよねとか。そういう当たり前のルールの中で作るんじゃなくて、今本当に自分たちが好きなものを、デモを作る感覚でやってみようってなったんです。

──スタジオではできなかったんですか?
スタジオでは無理。時間制限あるし、仕事っぽくなっちゃう。アシスタントがいて、エンジニアがいて、ディレクターがいて。1つのブースの中に1人か2人しか入れなくて、作業する人は外でやってるみたいな。そういう仕事感覚じゃなくて、高校時代の放課後みたいにやりたかった。ほかに誰もいなくて、メンバーとエンジニアと6人でね。あと自分がいつも聴いてるスピーカーで作りたかった。

──うまいこといきましたか?
いった。みんなぜんぜん違うし。今までスタジオの中で一番いい時間帯を作るのって、なかなかうまくいかなかったんだけど、家でやってたら全員が同じ気分になる瞬間が1日に2時間くらいあって。そこがピーク。
(中略)

──山口くんはわりと音を詰め込むほうだもんね。作り込んでいっちゃう。
スタジオでやるとそうなるんですよ。物足りなくなっちゃう。いつも聴いてる環境と違うから、派手にしなきゃ派手にしなきゃって。音数が少ないと不安になっちゃう。でも家で普段そんな音を詰め込んだ音楽を聴かないですからね。家ならすぐ比較できるし、いらないって判断できる。理想に近付けるにはどんな音にすればいいか、すぐ相談できるし。耳が悪くなってから(筆者注:山口さんは2010年ごろに突発性難聴を発症)、スピーカーが変わったり、環境が変わると、まったくわかんなくなるんです。だから家でレコーディングしたかったのもそれが理由で。

サカナクション『sakanaction』インタビュー / 音楽ナタリー (2013)

それもあってか、このアルバムの曲からは、それまでのアルバムに比べて一気に音が深化している様に思います。

ただまあ、この頃のサカナクションはメディアへの露出が増えたりSMAPへの楽曲提供やタイアップなどで知名度が高まり始めた時期であるのに、そんな中で発表されたこのアルバムには、それまでの作品の中で見られたアッパーチューン(「セントレイ」、「アルクアラウンド」、「Klee」、「アイデンティティ」等)よりもどちらかといえば内省的で、やや落ち着いたサウンドのテクノミュージックが広がっていて、そうした姿勢はマジョリティーに対し挑戦しているかのようであり、なかなか攻めたことをしているなあ、って思います。
「これこそがサカナクションなんだ!」っていう。

今作はこれまで以上にグルーヴを大事にしたダンスアルバムだと自分たちでは思っていて。だから歌にしても、ほとんど楽器や音感覚。言葉も、"どうすれば、このビートにハマるか?"ばかり考えて乗せましたね。音数もこれまで以上に少なく、歌も必要のないところは、あえて歌詞を乗せずにハミング等にし、みんながそこに自由に歌詞や気持ちを乗せれるようにしてます。

「自分たちのなかにある、表と裏の感覚」サカナクション 山口一郎氏 インタビュー / 週刊アスキー (2013)

収録曲紹介

収録曲について、山口さんが当時出演していたラジオ番組での「表」と「裏」の区分を参考に、ここでは紹介させていただきます。

01. intro 【裏】

臨場感のあるバイノーラル録音方式を採用した、アルバムのオープニング曲。
開始早々にもう、このアルバムはどこか異質なオーラを放っていませんか?
どんな曲が来るのかな?って思ったら、いきなり、ぽちゃんって。

広く響く水滴の音、どこかを歩いている音、物音、山口さんの咳払いなどなど。
いやあ、この曲だけでもう楽しい。

02. INORI 【裏】

アルバムに収録されているバージョン。

INORI EP(2013) に収録されているフルバージョン。
このEPには、アルバム13曲目のインスト曲『ストラクチャー』のフルバージョンも収録されています。
サブスクでは解禁されておらず、レコードのみでの発売の為レアな作品です。

一曲目が終わるとそのまま流れを継ぐ様にこの曲が始まります。まさかの連続したインスト曲。
テクノDJのAOKI takamasaさんとの合作で、当アルバムのリード曲です。
前半はサカナクション、後半はAOKI takamasaさんが主に構成を担当しているという流れ。このアルバムの中では最もテクノミュージック寄りな曲。

最初はタイトルの『祈り』をテーマとした歌詞があったそうですが、製作する中で却下。


当初「INORI」って歌詞があったんですよ。今これ『らーららららー』で『ららら』だけなんですけど、『じゃあ歌詞書いてきます』って言って、僕が歌詞書いてきたんですけど。「INORI」っていうタイトルで、『何にも言わない』……違う、『何も言えない 言えない この祈りは』っていう歌詞だったんだよね。だったらもう何も言わなくていいんじゃないか、ってことになって、『らららららら』にしたんですよ。

『山口一郎のサカナクション解体新書』 / 山口一郎 Youtube (2021)

アルバムの初っ端に2曲連続でインスト曲を持ってくるという構成、珍しくないですか?しかも彼らはメジャーシーンのバンドな訳で。
発売後に行われたライブ(SAKANAQUARIUM 2013)でも一曲目に披露されていますし。なんてこった。

山口さん的にこの曲が最も「裏」

裏ですね~……ド裏!このアルバムの、一番の裏の曲です。この裏の曲を伝えるために、表の曲が存在すると言っても過言ではありません。この曲が裏であるということをひとつの基準にしてもらえれば分かりやすいかもしれませんね。

ニューアルバム『sakanaction』収録曲の"表と裏" / サカナLOCKS! (2013)

03. ミュージック 【表】と【裏】

8thシングルとしてリリースされた曲です。
サカナクションをあまりよく知らない人でも、この曲は聴いたことがあるかもしれません。
ドラマ主題歌として採用されていたり、紅白歌合戦の出場曲であったり、、正に代表曲ですね。

まあ、歌詞の素晴らしいこと。。ラスサビの箇所が特に大好きです。その辺の歌詞には特にハッとします。
個人的には、新宝島よりもこちらの曲こそが“サカナクションの真骨頂“です。
顔だといっても過言じゃない笑

山口さんの自宅でのアルバム製作作業の中で最初に手がけられた曲で、ドラマタイアップ、シングル表題曲として世間が意識された「表」の面と、この時点のサカナクションが表現したいものを意識した「裏」の面を持ち合わせた作品であることから「表裏一体」
これはこのアルバムのテーマや、バンドの基本的姿勢とも重なりますね。

ちなみに、この曲の誕生がきっかけでアルバムの構成、方向性が見えてきたそうです。

「ミュージック」のタイアップ話が来たのは、自宅レコーディングを始めたあとでしたね。テーマとしては「今のサカナクション」っていうのを掲げて。ダンスミュージックと歌謡曲っていうのをごちゃごちゃに混ぜて今のサカナクションらしいものにしたいと思って、「ミュージック」っていうタイトルを付けて、それをしっかり鳴らしたいと思ったんですね。
(中略)
──タイアップの曲を作っていく中で、アルバムの構想も固まっていったと。
「ミュージック」ができたのは大きかったですね。あの曲は家ですったもんだして作るっていうことをしながら制作してたから。これができたんだったら、それぞれが好きなものを吸い出して、持ち寄って作れるなって思った。そのあとNHKのサッカーテーマの話もきて(「Aoi」)。そこまでが"表"っていうか、わかりやすいものを作ろうと。自分たちが好きで、リスナーにも求められてるものを出すように。

サカナクション『sakanaction』インタビュー / 音楽ナタリー (2013)

ライブでは、基本的に前曲からそのままDJ形式で繋げる形で披露されています。
ラスサビ前にはDJセット→バンドセットへの移動があって、これがまた大興奮もの。
是非興味のある方はライブ映像も見てほしい曲です(特にフェスやライブに行こうとしてる方は視聴必須です)。

ほんと名曲です。聴いてください。

04. 夜の踊り子 【表】

2012年に7thシングルの表題曲として発表された曲で、こちらも代表曲かつライブのセトリ常連
"YMO×伊豆の踊り子"のイメージで製作されており、川端康成の『伊豆の踊り子』と大和和紀の『はいからさんが通る』がモチーフとなっています。
また、このMVもYMOの『RYDEEN 79/07』のオマージュ。

発売時、この曲のことをYNOと表現したことも。笑

ダンスミュージックを基調としたアッパーチューンで、モード学園TVCMソングにも起用されました。

いやあ、ギターにかかっているディレイのエフェクトがたまらんのです…

小学生の時にベストアルバム『魚図鑑』を借りて、そこで収録されていたこの曲にどハマりし、そこから一気にサカナクションの虜になりました。
今でも大好きな曲です。

モード学園TVCM (2012)。

この曲のリミックス (2012)。

製作時の仮タイトルは『イエロー』。ここからもYMOを意識していたことがわかりますね。

05. なんてったって春 【 裏 】

シングル曲が2曲続いてからの、内省的なムードのこの曲
この曲では生ドラムではなく打ち込み音源が採用されていて、音数も先ほどの曲よりかはやや少なめになっています。
歌詞は1番・2番では春の情景が広がり、サビで繰り返される同じ言葉。そして、ラスサビになると心象情景へ変わり、これが切ない。
そしてどことなく昭和の香り。

全体的なグルーヴ感も気持ちいいです。

ちなみに、製作段階の仮タイトルは「ナイトライダー」らしい。

「ナイトライダー」っていう仮タイトルで、最初。歌詞が付く前やってましたね。なんか、その辺の……あれでも「ナイトライダー」って80年代のドラマじゃなかったかな?あの辺の感じが、なんか我々にとっては90年代初期の雰囲気になってたのかな。その辺もなんか、時代のギャップが結構面白いですね。「ナイトライダー」っていうのは、しゃべる車ですよ。今で言ったらテスラです(笑)。テスラみたいなやつですね。

『山口一郎のサカナクション解体新書』 / 山口一郎 Youtube (2021)

06. アルデバラン 【 表 】

歌詞で広がる猫の物語。NHKの『みんなのうた』を意識して作られたとのこと。
この『アルデバラン』というタイトルは、山口さんの趣味の釣りの道具の名前が由来となっています。

制作中に何度かタイトルが変わっていて、『瞬き』、『東京オーケストラ』、『オルケストラ』とかなど様々。
"
オーケストラ"へのこだわりを感じる笑

07. M 【表】

比較的テンポが早目でアッパーな曲。どことなくエスニック。
一方で、ボーカルが控えめだったり、"夕方になり、好きな子と別れなきゃいけなくなった時に抱く寂しさ"が歌われた歌詞など、やっぱりどこか後ろ向き。

この曲はキーボードの岡崎さんが中心となって製作され、アルバム収録曲の中で一番最後に作られた曲です。

締め切りギリギリまで製作しており、レコード会社の都合からその時点ですでにアルバム内の曲名を決めている必要性があった為、仮タイトルがそのまま採用されて「M」が正式なタイトルになったという。

08. Aoi 【表】

ここで一風変わって、よりハイテンポの比較的ロック寄りナンバー。このアルバムの中では最も明るく激しい曲で、ライブでも必ず演奏されている定番曲。

2013年のNHKのサッカー放送テーマソングとして書き下ろされたもので、歌詞でいう“青さ”は、サッカーの日本代表の着るユニフォームの色のと、若い世代ののこと。

ちょうどワールドカップか何かだったかな?ワールドカップの前の年だったかな?で、そのサッカーコーナーの曲を作って欲しいっていうオーダーがあって、我々非常に研究して、モニターにサッカーの試合出して演奏とかやったりして、楽曲の頭、これ合唱から始まるんですけど、この理由としては、高校サッカーの『振り向くなよ 振り向くなよ らららららら~』っていう曲のイメージで行こうと。あれは合唱で始まるから。あの雰囲気を、ロックで、我々らしく、エモく行こうと。

『山口一郎のサカナクション解体新書』 / 山口一郎 Youtube (2021)

09. ボイル 【裏】

再び落ち着いた曲調と、山口さん自身が作詞している様子を描写したパーソナルな歌詞で進む曲です。
山口さんのお気に入り曲。

これは、僕が今回のアルバムで歌詞を書いている様をリアルに書いた曲なんです。すごく個人的で、ミニマムな世界観に対して、みんながどう置き換えて聴くかっていうのがこの曲のひとつの基盤になっています。決して分かりやすい曲ではないのでね。

ニューアルバム『sakanaction』収録曲の"表と裏" / サカナLOCKS! (2013)

歌詞中の"ライズ"というのは、釣り用語で「魚が水面近くを泳いでいたり、水面から少し影を出したりと、釣り人に姿を表すこと」で、曲名の『ボイル』というのもまた同じく釣り用語で「釣り竿の餌を食べるために跳ね回る魚の姿」のことを意味しています。

また、もう一つ歌詞で歌われている"意味が跳ねる"というのは、作詞中に山口さん自身に起きる、歌詞が跳ねる現象のことを表しています。

自分が書いた歌詞の意味が、突然「跳ねる」瞬間があるんです。
想像してなかったような意味合いを、文章の連なりの中で、言葉がいつの間にか獲得していたというか。

第5回 リアルじゃなければ驚けない。 | 特集 バンド論。 No.001 / ほぼ日刊イトイ新聞 (2021)

ちなみに後年、山口さんはこの曲について

『ボイル』は…あれはもう、本当に好きーっていう人がもっと好きーっていうふうになる曲だから。
(中略)
Aメロなんて念仏に聞こえんだから(笑)
あれはもう、どっぷりサカナクションに染まっちゃった、サカナ汁を浴びちゃった人が好きって言う曲だからね。
(中略)
『ボイル』からサカナクションを好きになりましたっていう人は本当にいないと思う。
コメント欄に聞いてみる?いないと思う。『ボイルで』(サカナクションに)沼る曲なのよ。
ほら「たしかに」って来てるじゃん。なんか寂しくなっちゃったじゃん(笑)

サカナクション山口一郎の今夜も雑談中。 / 山口一郎 Youtube (2024)

と、冗談混じりに語ったこともあります笑

制作段階の仮タイトルは『神の子』

あれなんで”神の子”になったかってあんまり覚えてないんだけどさ。適当に歌ってて、アドリブの歌詞で<神の子>って1フレーズが出てきて。なんで俺、神の子って歌ったんだろうって考えてたの。どうせまたいい加減な感じで出てきたんだろうな、響きだろうなと思っててさ、いつものことだと思ってたけど、”ミュージック”書き終えた後にあの曲の歌詞と向き合ってたらさ、神の子っていう言葉って、俺の中で幸せを隠喩してるんだなと思って。ありふれた幸せ、誰もが体験できる幸せみたいなものを諦め切れてないっていうことを歌いたくて、神の子っていうのが出てきたんだなと思ったし、そういうふうにこじつけられたんだよね。


 インタビュー / MUSICA (ムジカ) 2013年 02月号 (2013)

10. 映画 【裏】

アルバムバージョン。

8thシングル『ミュージック』収録の別バージョン(2012)。
デモ音源感。

この曲ではバイノーラル録音が全面的に使用されています。
もとは8thシングル『ミュージック』のカップリング曲として収録されていたものをリアレンジした曲で、後半部分が新たに追加されて前述のバージョンとは大きく異なったものになっています。
サウンド面で、前回紹介したアーティストのCorneliusから影響を受けているとのこと。

この『映画』というタイトルについてはサウンド面から着想。

レコーディングしてた僕の部屋のコップを洗ってる音とか、それを全部サンプリング、バイノーラルでサンプリング録音したものを切り刻んで、楽曲制作したから、映像のような、映画のようなサウンドってことで、「映画」っていうタイトルにしてます。

『山口一郎のサカナクション解体新書』 / 山口一郎 Youtube (2021)

筆者はこの曲も好きです。
環境音のサンプリングが好きなのかもしれない。

山口さん的にはこの曲は真裏に相当。

11. 僕と花 【表】

6thシングルの表題曲で、アルバム製作前に出来ていた曲。サカナクションにとって初めてのドラマタイアップ曲ということから【表】に相当。

歌詞とリンクしたこのMVは、なんとノーカットで撮影されています。是非、曲とセットで見て欲しいです。

テレビでSMAPと共演し、披露したことも(山口さんはSMAPに『moment』という曲を提供しており、その関係から)。

SMAP×SMAP に出演した際の映像 (2013)

12. mellow 【裏】

淡い印象のメロウな曲。土曜のダンスホールのワンシーンが描かれています。
で、この“土曜のダンスホール”というのは、アルバム制作環境である山口さんの自宅の空間のこと
製作段階での仮タイトルは『ミッドナイトコーヒー』で、これは製作中に山口さんがメンバーへ淹れてあげていたコーヒーから由来しているそうです。

この曲も大好き、、土曜の夜に部屋でノリながら聴きがち。未成年の自分にとってのささやかな楽しみです笑

これはあのライジング・サン(RISING SUN FESTIVAL)のムーン・サーカスっていうステージがあるんですよ。僕ねずっと売れてない頃に、売れてない頃っていうかデビューする前だよ。ライジング・サンのスタッフとして長年働いてたんですよ。で、ムーン・サーカスの担当で、夜よくいたんですけど、なんかそこで遊んでた時の雰囲気っていうのを、なんかこう曲にしたいなっていう感じだったんだよね。で、メロウな感じ。
で、これ演奏的には非常に難しい曲で、この曲作ってた時は実は浦本さん(サカナクションのエンジニア)が、夜遅くて愛美ちゃん帰ってたから、浦本さんがベース弾いてくれて、グルーヴ作って入れてたんだよね、最初。で、なかなかやっぱりね、こういう曲を生演奏でしっかりとプレイしてグルーヴを出すっていうのは、めちゃめちゃ難しい。けど、曲としてはめちゃめちゃいい曲だよね。

『山口一郎のサカナクション解体新書』 / 山口一郎 Youtube (2021)

これは、メロディも何もかも、僕の部屋で瞬間的に生まれた曲で、セッションして作った曲なんですね。サカナクションの部屋の曲です。

ニューアルバム『sakanaction』収録曲の"表と裏" / サカナLOCKS! (2013)

13. ストラクチャー 【裏】

インスト曲。
山口さんのiPhoneで録音した曲から発展したもの。アコギの音色を軸に始まり、lalala〜が入ってきます。
この曲のフルバージョンは、INORI EPにのみ収録されています。
また、2曲目の『INORI』と同様に、当初は歌詞が用意されていましたが、最終的に歌詞はなくなって、この形で落ち着いたとのこと。

山口さんのラジオ番組にて、リスナーにこの曲の歌詞を考えてもらうコーナーをやったこともありました。

14. 朝の歌 【裏】

アルバムを総括するラストの曲で、『INORI』同様にアルバムのリード曲にあたります。
音数は少なく、シンプルなアレンジで展開されています。
なんだかこの曲が終わると、毎度ちょっとの寂しさを覚えます。しんみりと。

当初はシングルとして発表する構想があったらしい。

この曲は今までになく音を減らしましたね。ギターもアコギだけだし、もっち(岩寺基晴)はずっとシェイカー。

ニューアルバム『sakanaction』収録曲の"表と裏" / サカナLOCKS! (2013)

歌詞は、夜が明けて朝を迎える時間帯が舞台となっています。
サビでは何度も"表と裏"という言葉が出てきたり、最後の"飛び魚になる"とあったり。これらはバンドの今後の意気込み、姿勢について表現しています。

このアルバム自体が、『表と裏』っていうことをコンセプトにしていたので、それを物語る、はっきりとアルバムのテーマに則った、「朝の歌」であると。これはもう裏テーマが色々あるんだけど、それはなんか俺が死んでから色々と多分語られていく話だと思うんで、今はここでは話はしないんですけど、そういう曲がね、実はいろいろあるんですよ。「目が明く藍色」っていう曲もそうだし。この曲もそうですけど。あの非常に僕的にはもう大好きな曲ですね。
(中略)
レコーディングめっちゃ思い出すね。これアコギとシェイカーのバランスって結構繊細にやった、やりましたよね。聞こえ方というか、立ち位置がね。この曲だけじゃないんですけど、特に特徴的なのは、この曲は歌はダブリングしてます。同じのを2回歌ってるのを、2つ重ねてる。表と裏で。

『山口一郎のサカナクション解体新書』 / 山口一郎 Youtube (2021)

――今までは魚として海中を泳ぐイメージでしたが、今回は“船”などを始め、海上を意識した言葉も多いですね。

僕らはずっと言い続けていますが「マジョリティーのなかのマイノリティー」になりたいという感覚があるんです。たくさんの人に届けるためにも、僕らのいるバンドというお山から、マジョリティーの海に、乗り込んでいく、攻め込んでいくという思いは常にもっているから、“船”というキーワードを使うのかもしれないし、いちばん合うのかもしれません。

――そのようななかで、『朝の歌』の歌詞に出てくる“飛び魚”という言葉はバンドの未来であり、目指している形だなとも思ったんです。

“飛び魚”はアルバムのひとつのテーマでした。異なる、でもつながった2つの世界を行き来し、どちらの世界も知っているから。それに“鳥”や“魚”という言葉もかなり歌詞に出てきますね。

――“鳥”と“魚”、そして“空”と“海”。

これも“表裏一体”。どちらが表か裏かはわからないけれど、魚からみれば海が表で、鳥や、人間から見れば、空が表で海が裏だったり。音楽も同じで、外に向けてつくっているつもりでも、裏だと思う人もいるわけで、その逆もありうる。つくり終えて、だんだんわかってきたところがありますよ。

「自分たちのなかにある、表と裏の感覚」サカナクション 山口一郎氏 インタビュー / 週刊アスキー (2013)

(おまけ)『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』(Ks_Remix)

2011年発表の5thシングル表題曲を、ベースの草刈さんがremixしたもの。この曲は初回限定盤にのみボーナストラックとして収録されています。

これがまたノれるし、格好いい。
まじでこのremix好きです。僕の夜のお供。

原曲。(2011)

最後に

今回もまた、好き勝手にばーっと書いてしまいました。。
前回紹介した作品がバイノーラル録音を使用していたという関係もあって、今回のこのタイミングでこの作品を紹介させていただきました。


もし、サカナクションの曲を聴いてみようとしている方には、是非ともこのアルバムの曲から聴いていただきたいです。本当に。

では、今回はこの辺で筆を置かせていただこうと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました!


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