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Cornelius 『FANTASMA』 【好きな邦楽紹介 #1】

はじめまして。ゆりいかと申します。
このシリーズでは、筆者の好きなアルバムを中心に、不定期に、フリーダムに、なるべく綺麗に紹介します。

そんなわけで、記念すべき第1回に紹介する作品は

Cornelius『FANTASMA』(1997)


名盤とも名高いこの作品。
米国のレビューコミュニティサイトの一つ、「Rate Your Music」の「史上最高の日本の音楽アルバム」では69位にランクインしていたりします。

おそらく、邦楽好きの方なら一度は見たことや聴いたことのある作品だと思います。

様々な洋楽からの断片的引用・サンプリング、当時としては珍しいバイノーラル録音などを大いに活用して製作された、自由な作風の一枚です。


アーティストについて

Cornelius とは

Cornelius

Corneliusとは、日本のミュージシャン小山田圭吾氏によるソロプロジェクト名、彼の音楽活動における名義です。
この名前は、映画「猿の惑星」の同名のキャラクターから。

小山田さんは、Corneliusとして活動を開始する前は、小沢健二さんと共に『フリッパーズ・ギター』というユニットで活動し、“渋谷系“と呼ばれる、洋楽から影響を受けた作風の音楽ムーヴメントにおける中心的人物でした。
フリッパーズギターは、わずか2〜3年ほどの活動期間でしたが、当時の若者に多大な影響を与え、90年代におけるトレンド・セッター的存在に。

フリッパーズ・ギター解散後の1992年には、レコードレーベル『Trattoria』を立ち上げ、このレーベルは作品発表の場を求めた若きミュージシャンとリスナーの掛け橋的存在として機能しました(その後2002年にレーベルは活動終了)。

そして、コンピレーションアルバムへの参加や、プロデュースなどを経て、翌年の1993年にシングル「THE SUN IS MY ENEMY(太陽は僕の敵)」をリリースし、Cornelius名義としての活動がスタート。
続く1994年には1stアルバム「THE FIRST QUESTION AWARD」をリリース。ここから彼のソロ活動が本格化していくこととなります。

1stシングル『THE SUN IS MY ENEMY / 太陽は僕の敵』(1993)。

1stアルバム『The First Question Award』(1994)。

「渋谷系」からの脱却

この1stアルバムは、華やかで洋楽の影響を感じさせる、フリッパーズギター時代を彷彿とさせるポップな作風で、まさに渋谷系サウンドの代表作といえる作品。
一方、それまで使用されていたサンプリングの手法は影を潜め、演奏がメインとなり、以前よりもポップで聴きやすい印象です。

オリコン最高4位、週間アルバムランキングTOP300に11週連続ランクインとセールス的にも好成績を収めており、このまま「渋谷系の王子」としてのポジションで活動を深化させていくように思われましたが、ここから徐々に「渋谷系」からの脱却へと向かうことになります。

そんな1995年、彼は2ndアルバム「69/96」をリリースします。

2ndアルバム『69/96』(1995)。

アルバムタイトルの由来は、小山田さんが1969年生まれであるのと、発売の翌年が1996年であるということから『69/96』

華やかで聞き通しの良い1stアルバムの作風とはガラリと変わって、へヴィー・メタルを軸としつつ、ハワイアンミュージックやクラシックを取り入れてみたり、”69”個のトラック・隠しトラックなどの遊び要素や、目新しいテルミンが用いられていたりと、かなり実験的で、それまでのポップなイメージを払拭させるような作品となりました。

また、このアルバムの楽曲はサンプリングがかなり頻繁に用いられており、そのサウンドは、前作には見られなかったフリッパーズギター時代後期のものを彷彿とさせます。
(この多数のサンプリングが直接的原因なのかはわかりませんが、このアルバムとそのリミックスアルバムである「96/69」は、サブスクで解禁されていません。)

この時の小山田さんのビジュアルもまた、それまでのイメージを払拭させるようなものを展開しました。

『69/96』の頃の小山田さん。
それまでのキラキラとした王子様キャラを払拭させるような、小悪魔ファッション。

テレビ番組に出演し、アルバム収録曲『Moon Walk』を披露した (1995)。

そして、リミックスアルバム『96/69』を経て、1997年8月6日、今回紹介する3rdアルバム『FANTASMA』がリリースされます。
このアルバムから、『音楽』→『音そのもの』の作風へとシフトし、現在のCorneliusサウンドが構築されることとなります。

このアルバムを機に世界進出を果たし、国内外からも評価を得るようになります。彼自身の音楽的変遷の転換点とも呼べるでしょう。

このアルバムについて

自身のリスナー体質を生かして、60年代ポップ、ラウンジ、ロック、メタル、エレクトロニカ等々の様々な音楽の要素を貪欲に取り入れたりと、自由な発想とテクノロジーを駆使し音が自在に配置されており、さらには全曲シームレスといった点も含めて、かなりコンセプチュアルな作品です。

是非聴く際はノンストップで聴いてみてください。

本作でもサンプリングが駆使されており、様々な洋楽が引用されています。

ビーチ・ボーイズやミレニウムとかと今回自分のやりたかったことって大分共通してて。

sound & recording magazine 「FANTASMA」インタビュー (1997)より。

また、このアルバムでは、以降の作品でも度々聞こえる『Corneliusといえば!』と言えるような特徴的なサウンドが出現します(CR-78などのリズムマシンなんか特に)。

収録曲紹介

01. Mic Check

特殊なマイクを用いたバイノーラル録音、さらには多重録音によるコーラスが特徴的な一曲目。既にもう、そこらのアルバムとは違う雰囲気がします。
1997年当時としては、かなり画期的というか新しいことをしているんじゃないかなと思います。

昔、『ウゴウゴルーガ』というTV番組があって、なかに「音の博物館」というコーナーがあって、そこでムシが交尾する音とか、すごく増幅したような音を聴かせるコーナーを持っていた人がいて、藤原(和通)さんという音フェチのアーティストがやっていたんですけど。その人がバイノーラル録音できるハンディ型のマイクを作っていて、売ってたんですよね。それを中原(昌也)くんと一緒に買いに行ったんですよ。そのマイクをDATに繋いで、いろんな音を録っていって、その頃に"Mic Check"を作るんですよね。

いかにして革命的ポップ・レコードは生まれたかーー 小山田圭吾 インタヴュー (2010)より。

02. The Micro Disneycal World Tour

アルバム製作初期に作られた曲。
もとは「NHK青春メッセージ」のテーマ曲として制作されたという背景があり、そのためNHKスタジオで録音したんだとか。

ディズニーランドの「イッツ・ア・スモールワールド」をイメージしたらしく、そうした背景から当初はタイトルに”Disneyland”を用いるつもりだったけど、ちょっとした大人の事情によりこのタイトルに落ち着いたみたいです。
さすがは徹底されていますね、夢の国は。

03. New Music Machine

ファンタジーで不思議な感じ、、からの激しい曲。
サンプラーで音を激しく刻んだり。なんか全部ぶっこわれています。良いメロディー。

他のアーティストにカバーされていたりもする一曲です。


04. Clash

ここで今度こそ一休み、リズムマシンがぽんぽん鳴って静かな感じ…かと思えば突然のドラムに「CLAAAAASH!」。

ちなみに、このCLASHというタイトルは、「THE CLASH」というバンドから取られていて、歌詞中に登場する“ミック・ジョーンズ”というのもこのバンドのギタリストの名前から。

05. Count Five or Six

テレキャスが活躍。さらに変拍子やハードコアを取り込んだサウンドに、読み上げソフトによる「1,2,3,4,5,6」。
これもまた、時代を先取りしているように思います。今では合成音声を用いた楽曲というのも身近ですが、当時まだ1997年な訳ですし、、

曲名は『Count Five』と、『Five or Six』という2つの海外のバンドの名前を合体させたもの。
ライブの定番曲であり現在でも度々演奏されています。

06. Monkey

次曲に繋がるインスト曲。
サンプリングによる権利関係から、海外盤では『Magoo Opening』というタイトルに改題されています。

07. Star Fruits Surf Rider

こちらもライブで度々演奏されている代表曲。このアルバムの中だと一番ポップ寄りな曲だと思います。
この曲でも『Corneliusといえば!』なサウンドのリズムマシン、CR-78がきこえます。

曲名はPrimal Screamの同名のカップリング曲から取られており、ミュージックビデオは、Gary Hill氏の「Why Do Things Get in a Muddle?」という作品がモチーフとなっています。

08. Chapter 8 ~Seashore and Horizon~

一転してアコースティックで落ち着いた曲。
2つの曲を合体させた感じで面白いです。カセットを切り替えている感じ。

09. Free Fall

からの再びロックナンバー。
ジェットコースターを意識して作られたそうです。フォールダウン。フォールダウン。

10. 2010

インスト曲。
3曲目の”New Music Machine”と世界線的にはつながっている感じ?
原曲はバッハの『小フーガ ト短調』です
なんだか遊び心を感じます。

11. God Only Knows

イントロが鬱陶しくて腹立ちます笑
おそらく、タイトルはビーチボーイズの同名曲が由来かとおもわれます。

12. Thank You For The Music

アルバムのフィナーレ曲。
歌詞では我々リスナーへの感謝の意と、それまで流れで聞いてきた曲たちの存在、小山田さんの『くだらない空想の旅』の終わりを告げるわけです。
曲中に挟まれるメドレーからも、この曲はアルバムの総括に当たる曲なんだと認識させられます。良い演出。。

ちなみに、“スマイリースマイル”という歌詞は、ビーチボーイズの同名のアルバムから取られています。
ここからもビーチボーイズからの影響を感じられますね。


13. Fantasma

ラストを飾る、アカペラのコーラスで展開されたタイトル曲。
日本語訳は「幽霊」。まさにアルバムの象徴の曲です。


(おまけ) Typewrite Lesson

日本盤では未解禁の1998年の楽曲。というのも日本での発売当時には収録されておらず、再発盤にてボーナストラックとしての収録という形に留まっています。

タイピングのレッスンをしている設定の、こちらも遊び心満載の楽曲。
一見無意味に聞こえる単語は、実はいろんな用語や名詞だったりします。

下記のブログを参考にして見ると面白いかもしれません。

あと、ふわふわとしたシンセ、そしてここでもお馴染みのCR-78が効果的に使用されていて、個人的にこの曲が一番、今のCorneliusの楽曲のサウンドに近いのではないかなと思います。

最後に

前述したように小山田さんは、このアルバムをきっかけに海外でも評価されるようになり、作風も『音楽』→『音そのもの』に焦点を当てた作品が増えていくことになります。
何よりこの作品、時代をさほど感じさせず、2024年に聴いてもどこか新鮮味があるのがすごいと思います。

今回はCornelius『FANTASMA』を紹介させていただきました。

いやあ、突然思い立って、初めてこのような文章を書いてみました。長ったるくて拙い文章ですみません。
もう何回かこのシリーズは続くかと思いますので、もし良ければまたお付き合いください。

最後まで読んでいただきありがとうございました!


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