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雨に寄す

晴れのあかるさの中、突然の雨が降る。
片隅の銀行で見た天気予報が当たった雨だった。数時間前にテレビがその雨を警告していたのを、一定のスピードで落ちてきた雨滴が目の前に現れてようやく、思い出したのだった。
傘はなく、わたしは店屋の軒先で、そのしたたたっていくのを眺めた。天からぴっしりと並んで落ちてくる雨滴。数えきれないしずくは、離れ離れにならないようにと途切れがたい絆で結ばれている。足任せに動いたりしないで。落ちるべきところ、染み込むべき土を最初から理解して、一滴一滴が向かうべきところへ向かう。自分の居場所をはるか昔から知っているような、まったく無駄のない落下の動きにわたしは見とれる。

雨滴を生む灰色の雲はのろのろと、よわよわしい動きで空の旅を続けていく。よわよわしい動きでありながらも、それは大きな獣のように見える。
追いかけてくるその雲から逃げるように、細い軒下をくぐる。注意深く歩くさまは巣へ帰る小動物を思い起こさせる。

仲間からはずれた雨滴は、木の葉のうえで昼寝などしている。すっかり乾いた地面から取り残されて、葉脈のすじに沿ってぶらさがっているものもいる。時間旅行者のごとく休んでみたり、置き忘れてきた太陽の光にきらめいてみたり、とたんにころがってみたりする。最期を見届けるわたしの鼻先に、そして一滴、ぽったり落下してくるのであった。

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