小料理屋の悲劇 #6
*この物語は、『新潟市中央区オステオパシー(整体)』の施術者が創作したフィクションです
残念ながら、いくら上川を買っている織部であっても、江藤の張り込みに十分な人員を用意することはできなかったようだ。唯一、織部とともにこの事件の捜査をしていた泉野舞子(いずみのまいこ)という女性刑事が、その手伝いに来てくれた。ショートカットで小柄な、元気のよい女性だ。年齢は40歳でバツイチ、県警の大会で上位入賞したことがあるほど柔道が強く、上川のことも知っていて二人はわりと仲が良かったらしい。彼女と、織部自身、上川、そして私が、交代で江藤の張り込みをすることになった。
江藤のアパートから数十メートル離れたところにマンションがあり、その外廊下からちょうど江藤のアパートを見渡せるので、私たちはそこで張り込みをした。マンションの管理人に許可をもらったうえ、張り込みをするフロアを変えながら住民にもできるだけ違和感を与えないようにしていた。相変わらず江藤は大学へは行かず、食品など必要最低限の品を買いに出かけるだけの日々を過ごしていた。
私たちが張り込みを始めてから6日経ったその日、交番での日勤を終えて夕方私が張り込み場所に向かうと、非番だった上川と、織部、泉野が勢ぞろいしていた。3人と挨拶を交わし、私は外廊下のコンクリート塀越しに江藤のアパートを見つめた。二階の角部屋が彼女の部屋だ。
上川が言った。「杉田、驚くなよ?」
「え?何?」私は上川を見た。彼は得意げな顔をしていた。
「1時間ぐらい前に、江藤芽衣の部屋に、ある人物が入っていったのを、泉野さんが見つけた。それで織部さんや俺に連絡があって、こうやって4人勢ぞろいしてるわけだ」
「誰なんだ?その人物って」
「宇野凛々子さんだ」
「え?宇野さん?あの宇野さん?」
「そう、この事件の話を持ちかけてきた、江藤さんの友人の、宇野さんだ」
「何で?」
「わからない」上川はおかしそうに言った。「まったく、わからない。というかそれはたぶん、単なる偶然だ。心配して江藤さんの様子を見に来たんじゃないか?」
「宇野さんがホシなのか?」
「いや、違うだろう、たぶん」
そこで織部が言った。「なあ上川。一応、この後は杉田君の番だけど……、俺たちは帰っていいのか?」
少し考えて、上川は答えた。「はい。俺はもうちょっと様子を見て、宇野さんが出てきたら直接話を聞いてみますけど、織部さんと泉野さんはもうけっこうですよ」
「わかった」
「私は、もうちょっといるわ」泉野が言った。「なんか興味深いし、この事件。いいですよね?織部さん」
「ああ、かまわないけど……、俺は帰るぞ」
織部だけが帰っていった。それから、三人で雑談をしながら張り込みをしていると、外は真っ暗になった。しかし、江藤のアパートも私たちがいるマンションも照明に照らされていて、監視ができなくなるということはなかった。そして私がここに着いて30分ぐらい経ったころ、郵便配達員が江藤の部屋を訪れるのが見えた。
「あれ、変だな?」それを見た上川が怪訝な顔をして言った。「あの郵便配達……、自転車がまったくふつうの自転車だぞ。制服は着てるけど」
私も泉野も、その郵便配達員に注目した。江藤の部屋のドアが開いた。出てきた江藤と思しき人物を、郵便配達員が強く押し、自分も中へ入っていった。
「やばい!助けに行かないと!」上川が叫んだ。