小料理屋の悲劇 #4
*この物語は、『新潟市中央区オステオパシー(整体)』の施術者が創作したフィクションです
次の訪問先である江藤芽衣のアパートまで車で向かう途中に、織部が言った。「おい、近々犯人を逮捕できると思うって……、いいのか?そんなこと言って。もう見当がついてるのか?」
「できると思う、ですから」おかしそうに上川は答えた。「そう思ってても、できない可能性だって残ってるわけです」
「なんだよ……!政治家の言い訳みたいだな」
「県警内の政治でしくじった俺ですから、そういうのが出ちゃうのかもしれませんね」
「県警内の政治でしくじった、か……」織部は苦笑した。
「それより、見ましたか?二つ置き時計が並んでるの。リビングっぽく使ってる方の部屋の、タンスの上に」
「え?あった?そんなの」
「はい。二つ置き時計が並んでるなんて、不自然ですよね。それもそのうちの一つが、電源をコンセントから取るという珍しいタイプ」
「どういうことだ?」
「高坂は嘘をついてますね」
「え?何でそうなるんだ?」
「それはまあ、いずれ事件の全容がわかったときに、話しますよ」上川はニヤリと笑った。
「じらすんじゃねえよ……!」
事件の核心に着々と迫っていそうな上川だったが、織部や私には、その思考過程を説明してくれなかった。大した理由はなく、後で私たちを最大限に驚かそうとしているだけではないかと、私は思った。
江藤の木造アパートは、私が思っているよりは古ぼけていた。築40~50年程度に見え、二階建てで、一階と二階に4部屋ずつ部屋があった。しかし、以前入居していたという大学の寮よりは、新しくてきれいなのかもしれない。プライバシーも、寮よりは確保できるのだろう。そのうち、階段を上がってすぐの二階の角部屋が、江藤の部屋だった。
彼女は部屋にいて、私たちがチャイムを鳴らすと、しばらくして玄関のドアを開けてくれた。身長が170センチ近くありそうな背の高いスリムな女性で、背中まで伸びた黒髪が目立った。ただしその髪は手入れをしていないようであり、表情も暗かった。やはりずっと部屋に引きこもっていたのだろう、と私は思った。
警察に何度も話を聞かれたであろうことを詫び、高坂のときと同じように、主に上川が話を聞き始めた。事件の夜のことや、犯人の心当たりなど、高坂にしたのと同じような質問を、彼は手短にしていた。私が聞いていた限り、目新しい話は出てこなかったように思う。また、上川が特に力を入れて話を聞いているようにも、私には感じられなかった。高坂のときのように、室内に上げてもらうこともなく、玄関先で話は終わった。
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