Qコマースは次世代物流網の夢を見るか?
可愛らしいTOPの画像にしてみましたが、中身はゴリゴリのテーマで書いてみたいと思います。
「Qコマース」という言葉自体は昨年あたりから海外で使われ始めた印象ですが、特に国内のニュース記事では10月あたりから頻繁に取り扱われるようになってきました。
毎週書いている週刊noteの年間まとめを昨年の11月に書きましたが、あえてここではQコマースにほぼ触れず、別でアウトプットしようと思っていたものが今回のnoteです。
1. Qコマースの定義
改めてQコマースとは何か?から整理してみます。
Qは「quick」のQで、Eコマース(Electric Commerce=EC)になぞらえていますが、今のところQCと略して使われてはいないようです。
スペインのデリバリー企業である「Glovo」が提唱したようですが、定義ができる前にすでにサービスとしてはあったので、瞬く間に世界的なワードになりました。
定義として、私の理解がこちらです。
広義の意味でいくと、出前館やUberEats、旧来からある宅配ピザや宅配寿司もQコマースの分野になります。
ただ、フードデリバリーから一線を画すためにQコマースという言葉が使われている節があり、Qコマースを標榜している各サービスが、狭義的に配達時間を10分ないし15分以内と公言している点が、一番の差別化ポイントだと思います。
なので必然的にフードデリバリーのような、注文を受けてから調理するような商品では間に合わず、一般的なグロッサリー(食材やレトルト、冷凍食品、生活雑貨、日用品)関連やペット商品がメイン商材となり、フードであってもコンビニにあるような調理済みフードが一般的です。
さらにInstacartのような買い物代行ではなく、来店客や接客スタッフが存在しない自社の倉庫=ダークストアを持っていることも条件に入ります。
また、注文方法もオンライン&事前決済であることが一般的で、取り扱う商品点数は1,000~3,000点程度です。
Qコマースは「インスタントデリバリー」とも言われますが、本noteでは、配達という役割に特化した印象を与えるインスタントデリバリーより、コマースの概念として捉えられるQコマースを使っていきます。
※以上はあくまでも個人的な見解なので、こういう視点もあるのでは?といったご意見は是非いただきたいです!
2. 市場規模
調べてもスカっとした数字が探せなかったので、Qコマースの分野でサービスを展開している2社の記事を引用させていただきます。
まずはfoodpandaのQコマース版であるPandamart担当者の方の記事より↓
国内においては、フード全体の市場規模が約18兆円あるのに対し(コロナ前は20兆だとか25兆だとか言われていました)、デリバリー市場は約8000億と、フード全体に対して約4.5%になっています。
対するグロッサリー全体は約52兆なので、フードの割合を当てはめると現時点でも約2.3兆くらいのポテンシャルはありそうですが、まだまだサービスが追い付いていないのが現状ということですね。
続いて、OniGO株式会社の公式noteより↓
ということで、現時点での明確な市場規模はわかりませんが、3年後には2~3兆円程度の規模にはなりそうですね。
3. プレイヤー
では続いて、具体的にどんなサービスがいま稼働していのか。
海外と国内に分けて紹介します。
(特に海外勢は思った以上にプレイヤーが多く驚きました。もちろんまだまだあると思います。)
3-1. 海外[Qコマース専業]
gopuff
GORILLAS
JOKR
Fridge No More
Buyk
Food Rocket
Getir
Grovy
Flink
Zepto
SEND
MILKRUN
blinkit
Zapp
Weezy
Kavall
VOLY
Devo
Jiffy
Grocemania
Cajoo
Dunzo
Krave Mart
Lisek
1520(2021年12月2日に事業停止)
3-2. 海外[既存サービスの延長]
DashMart
Deliveroo Hop
Glovo
3-3. 国内[Qコマース専業]
QuickGet
OniGO
3-4. 国内[既存サービスの延長]
pandamart
Wolt Market
Uber Eats Market
Yahoo!マート by ASKUL
4. なぜいまQコマース?
はい、そろそろ本題に入っていこうと思いますが、なぜここまで急激に広まっているのか。
要因として大きく2つあると思います。
需要として、ユーザが「より早く、あらゆるモノを、手に入れたい」と思い始めてきたから。
供給として、1つ目の需要を満たすための供給側の土壌が整いつつあり、かつ、既存事業(フードデリバリー)のデメリットも埋められる=増収・増益につながる、と期待しているから。
では、それぞれの視点で見ていきましょう。
4-1. 需要側視点
やはりコロナによるパンデミックによって、私たちのライフスタイルや意識というものが大きく変化したことが一番の要因です。
人との接触や外出が制限されたことによって、多くの飲食店やその他店舗がテイクアウトやデリバリーを導入、また、国内だけでなく外資のサービス参入により、「食べ物をデリバリーで調達する」ということが広く浸透、市場が大きく成長しました。
ただ、これはあくまでもUberEatsや出前館等の即食フードに限った話です。
自炊用の食材や一般的な日用品は、まだまだスーパーやドラッグストアに買いに行ったり、ネットスーパーやECで翌日の2~3時間幅での配達、というのが一般的です。
「そもそも30分程度のオンデマンドで本当に欲しい物はあるのか?」という議論は以前からありました。
こちらは、週刊noteの年間まとめでも使った即配で欲しいモノを表した図です。
需要の高低具合は完全に私の主観ですが、特に食材や日用品のような主に計画購買にあたるものでも、フード同様に即時のデリバリー需要は潜在的にあると思います。
ではなぜ(少なくとも国内では)既存のネットスーパー・ECがあまり広まっていないのか。
その要因を『お得・便利・安心』という3つの軸で見ていきます。
(ここから少し脱線するので、必要に応じて読み飛ばしてください。)
『お得・便利・安心』という3つの軸は、私が社内でオンライン化を促進する際によく使う軸で、人の行動を外圧によって意図的に変えるには(ex; オフライン注文→オンライン注文)、それなりの動機が必要、というものです。
レガシーなサービスや市場においては、基本的にオフラインの行動・導線が過去からあり、人々はその導線に慣れています。
そこからあるタイミングで(主に供給者側の意図で)、オンラインの導線が追加されるのですが、当初の「お得・便利・安心」どの軸を取っても既存のオフライン導線には敵いません。(上図➊の状態)
よく誤解されるのがここの部分で、オンライン導線を作ったら自然と(ある程度のユーザは)そちらを使うだろうと思ってしまう点です。
もちろん、普段からオフライン導線に強い不満を持っている一部のユーザは、「オンライン導線がある」ということだけで価値がありますが、大部分のユーザはオンライン導線そのものに価値を感じていません。
なので、あくまでもオンライン化することで、オフラインよりも、
どのくらいお得になるのか?
どのくらい便利になるのか?
どのくらい安心なのか?
これらを具体的に作り出して、明示的に訴求をしなければ、外圧で動かすことはできない、ということです。
イメージではこんな感じ↓
例えば、最寄り駅への通勤経路において、区画整理によって途中から新しく道ができたとしても、「その道を通ると具体的にどれだけ早く着くのか…?」「実は遠回りになるのでは…?」「自転車は通れるのか…?」「じつは長い上り階段があったりして…」などなど、未知の障害によって余計な手間や気苦労を被りたくない、と考えます。
もちろん、この事例のように毎日使っている道なのであれば、一度トライをするだけで、その後のリターンが大きくなるので、結果的に新しい道を使う人は多いと思いますが、「実家に帰るときの道」のような、たまにしか使わない道では、勝手知ったる道を使う方が多いと思います。
実際には道は歩くだけですが、これがオンライン注文となると、「アプリのDL、会員登録、決済…」等のアクションが事前に想像できてしまうので、余計に選びにくいですね。
つまり、その導線があるだけではユーザの行動を変えることは難しいので、導線を変えることで具体的にどのようなメリットがあるのかを作り出し、告知していく必要があります。
とはいえ、上図❷の状態のように、すべての軸においてオフラインとオンラインの価値が同じになったとしても、ユーザは動いてくれません。
(よくあるのが、オフラインでもできることをオンラインでもできるようにすること。例えば、紙の割引券をWEBでも使えるようにする、等。)
それだけ「すでに導線を熟知している、体にしみこんでいる…」という状態は「余計な頭を使わないでいい」という強力なメリットになるんですね。
なので、オンラインのメリットがオフラインを超えて初めて(上図❸の状態)、ようやくユーザは「余計な頭を使わないでいい」旧知のオフライン導線と、「(余計な頭を使うけれど)何やらお得そう、便利そう、安心しそう。」というオンライン導線を天秤にかけてくれます。
以上、かなり脱線をしてしまいましたが、「お得・便利・安心」それぞれの軸で既存のネットスーパー・ECがあまり広がらない理由を探っていきます。
「お得」軸
こちらはいわゆる価格に関するもので、ネットスーパー・ECでは「最低配達金額がある」ことと、「配達料がかかる」ことの2つが大きなハードルです。
配達料は"○円以上で無料"というものがほとんどですが、5,000円以上とか8,000円以上とか結構高めに設定されています。
また、最低配達金額も2,000円以上みたいな形で設定されているので、「ある程度まとまった量」の注文が必要になってきます。
ゆえに初回配達料無料だったり、〇〇円OFFのようなクーポンがあったりしますが、とても上記ハードルを越えるほどのパワーは無いですね。
「便利」軸
こちらは配達にフォーカスしてみます。
通常のネットスーパーの配達は、一般的な配送業者と同じようにルート配送です。
ルート配送をするために、当日配達する商品は前日までに確定している必要があるので、注文する側としては、前日の○時までに注文を完了させておく、という条件があります。
また、お届け時間についても、当日どのくらい配送量があるのか、またどんなイレギュラーがあるかわからないので、2~3時間の余裕を持った時間幅設定が必要になります。
事前注文と時間幅配達は、ルート配送という仕組みの宿命みたいなものなので変えることは難しいですが、この条件がフードデリバリーに慣れたユーザには我慢できないポイントになります。
「安心」軸
オンラインでモノを売るにはどうしても超えられない壁ですが、事前に商品の状態をチェックできない、という部分です。
モノであればどんな商品にも当てはまるのですが、特に野菜や果物、肉類や鮮魚といった食材は、工場で生産されたモノよりも個体差が大きくなりがちで、「こちらのリンゴの方が甘そうだ」「こっちの秋刀魚の方が新鮮そうだ」といった"目利き"を働かせることができません。
私のような普段買い物をしない人間にとっては、逆に人に任せたいところですが、普段から買い物をしている妻にとっては、このような"質"だけでなく、(質や総量が同じであっても)「大きな2個よりも小さな3個の方が使いやすい…」といった、形や大きさにまで気を配って買い物をしています。
このあたりはある程度まではオプションや備考欄といった機能でカバーできるものの、どこまでいっても自分の目で実物を見るオフラインには勝てない部分です。
以上、安心軸の部分は一旦目をつぶったとしても、オンラインで買うよりも、オフラインで(出向いて)買う方が、結局のところ高くつかないし融通が利くよね、というのがネットスーパー・ECに対しての世間の総評だと思います。
つまり今までのネットスーパー・ECは計画購買を前提としたサービスである、もしくはサービスの都合上計画してもらう必要があるサービスである、というものでした。
ところがQコマースにおいては、
オンデマンド配送によって既存のネットスーパー・ECはおろか、ユーザ自身が買いにいくよりも早いという利便性。
配達料はあるものの、最低配達金額といった条件もなく(あっても設定金額はかなり低めで)金額面でも許容できる範囲。
といった「計画購買から脱却できる」という部分がユーザにとってはこの上ないメリットになっていると思います。
それこそ、日々の食事や日用品の管理をする人も、昔は主婦が取り仕切っていましたが、今では共働きも一般化するなかで、家にあるすべてのモノに対して意識を働かせることはできません。
また、一世帯の人数も減ってきているので、今までは計画しやすかった食材や日用品というものが、おのずと少量で計画しづらいものになってきた、という社会的な背景もあると思います。
4-2. 供給側視点
(4-1. 需要側視点が想像以上の量になってしまいました…)
続いて供給者側の視点ですが、コロナによってフードデリバリーが急速に一般化し、「即時で欲しいものが届く利便性を手放せなくなった」ユーザが増えたことが大きいです。
また、フードデリバリーの需要は「ランチ(11:30~13:00)とディナー(17:30~20:00)の1日2回のみ」と決まっていて、コストや配達員等のリソースを平準化しにくいという課題がありました。
特にアイドルタイムといわれる14:00~17:00や、20:00以降でも需要がある食材・日用品配達は、供給者側にとっては是非とも取り込んでいきたい時間帯です。
そして、テレワークが増えてきた結果、業務中でも受け取れる環境にある、というのもQコマースにとっては大きな後押しですね。
こちらは買い物代行サービスをメインとしているInstacartの事例ですが、まさに需要に合わせてサービスが変化してきているのがわかります。
どちらかというとInstacartは新興Qコマース企業に市場を奪われる立場ですが、積極的に迎え撃つ姿勢を見せています。
4-3. Qコマースに必要なもの
続いて、Qコマースを実現させるために供給者側にとって必要なモノを確認してみます。
Qコマースへの参入には、「新規の参入」か「フードデリバリーからの横展開」の2つがありますが、特に後者は既存サービスの延長で比較的簡素に実現することができます。
すでにUberEatsやWolt等が、飲食店ではなく、小売店をフードデリバリーの加盟店として配達している事例ですね。
ただフードデリバリーの仕組みを使うと、いくつかのタイムラグが発生し、早くても注文から配達まで30分はかかってしまいます。
ユーザの注文後、配達員を小売店に配車
小売店にて商品のピックアップ
配達員に商品を連携
ユーザへお届け
どのようなタイムラグが発生するかなぞってみます。
1. ユーザの注文後、配達員を小売店に配車
→まずこの部分では、店舗の近くにいる配達員を見つけるための時間、配達員が承認をする時間(拒否する可能性もあり)、承認した配達員が店舗へ移動する時間というものが発生します。
2. 小売店にて商品のピックアップ
→そもそも一般の小売店は、来店顧客が買い物をしやすいように設計されているので、どんなに店内を熟知した店員であっても店内の広さやSKUの多さによって商品のピックアップに時間がかかってしまいます。
3. 配達員に商品を連携
→配達員が来店し、担当者に番号を伝え、その番号に沿った商品袋を探して渡す、といった時間が発生します。(さらに自転車を止めたりアプリをいじったりと、こまごまとしたタイムロスもあります。)
4. ユーザへお届け
→ここは特にありません。
以上、既存のフードデリバリーの仕組みで運用すると小さなタイムラグが積み重なってしまうことがわかります。
改めて、冒頭で設定した狭義のQコマースとは、15分以内で届けるというもの。これを実現するための仕組みが、「ダークストア」と「配達員の雇用化」です。
ダークストアとは?
端的に言えば、ストアという名の倉庫です。
とはいえ、通常の倉庫のように段ボールが山積みで保管されているのではなく、理路整然と商品が棚におさめられています。
↓こちらは1月末で日本から撤退したfoodpandaが運営していたダークストアの動画ですが、どのサービスも作りはほぼ同じです。
店内に買い物客を入れない分、店員が商品のピックアップをしやすいように、また、限られた店内スペースに最大限の商品を入れられるように設計されていますね。
ここでのピッキングスピードが全体の配達時間に影響してくるので、ある程度の習熟も必要になってくると思います。
配達員の雇用化とは?
フードデリバリーで一般化しているギグワーカーは、より効率的に受注→配達を行うため、複数のプラットフォームに登録しているのが一般的です。
なので、すぐに配車できなかったり、配車できても配達員がストアへ移動する時間もかかるので、すぐに動ける専用の配達員を常駐させておくのが配達員の雇用化です。
(特に需給バランスが逆転しやすい悪天候時に効果を発揮しますね。)
さらに配達員を雇用化する強みとして、自前のストアにおける配達エリアに習熟した配達員を育てて囲い込むことができるので、さらに配達のスピード化、安定化に繋げることができます。
以上、現行のQコマースは、ダークストアから半径1.5~2kmくらいを営業範囲とするのが一般的で、時間をお金で買うといった即配需要がある地域に加え、人口密度が高い地域への出店が増えており、子育てや介護などで買い物に行く時間が作りにくいユーザからの利用につなげています。
また、自炊のための食材調達だけでなく、出張シェフやオンライン料理教室のための食材調達、といった新しいサービスとの掛け合わせで使われるようになってきたりと、今後もいろいろと需要が広がる可能性は秘めています。
5. 成長を阻むいくつもの逆風
ここまで、Qコマースはイケイケじゃん!的なノリで書いてきましたが、次に「起承転結」の「転」にあたる部分を書いていきます。
まず大前提として、現状Qコマースで黒字化しているサービスは国内外含めてありません。
そもそも元から利幅が圧倒的に小さく、さらに人件費や仕入れコストがどんどん上がってきている情勢の中、需要を生み出すための投資とそれに応えるための投資の両輪を回しながらサービスを展開するって、めちゃくちゃハードル高いですよね…。
こちらはJokrというQコマースのスタートアップについて書かれているものを引用しました。
さらに直近ではGigazineでも取り上げられていました。
大きな野望に向かって市場を広げていく初期のスタートアップあるあるですが、配達すればするほど赤字というのは本当にしんどいと思います。
5-1. 逆風1:コスト
既存のフードデリバリーのように飲食店とユーザをマッチングさせてフィーを得るモデルよりも、ダークストアという固定費がかかるため、コストは高くつきます。
また、(卸売り価格で仕入れているものの)商品の仕入れや在庫リスク、回転率を考慮した運営も必要になってきます。
なので、他のスタートアップ同様に、まずは市場を作るファーストペンギンになるべく、当座の運転資金をVCからの調達に頼っているのが現状です。
特に海外ではできるだけ多くの資金を調達し、できるだけ多くのダークストアを開設し、過剰とも思えるプロモーションを展開して、恐ろしい速度で資金を燃焼させています。
いくつか海外の調達事例がこちらですが、なかなかの金額ですね…。
国内においては、調達した資金をサービス拡大に使うのは同様ですが、むやみにストアを増やすことはせず、地道にサービスを育てていく、という姿勢が強いイメージです。
こちらは中国における生鮮ECが苦戦しているという記事で、「客単価が頭打ちになっていることに加え、既存のサプライチェーンモデルでは、さらなるコスト削減が困難で、利益の確保が難しい。」と書いてあります。
資金調達をすること自体は本質ではなく、調達した資金を使っていかに早く自走できる仕組みを作るかですが、特に生鮮という分野では難しいということですね。
5-2. 逆風2:消費者の関心
4.1.で需要が生まれてきた的な話をしましたが、これはあくまでもイノベーター、アーリーアダプターに限った話です。
どの業界でもそうですが、サービスを定着させるにはキャズムを越える必要があり、ようやくフードデリバリーが越えてきたタイミングなので、これからQコマースがユーザの意識を変えていくには、まだまだ多くの資金投下と時間が必要です。
また、人口密集度が高い地域にダークストアを作っていくものの、そういったエリアには競合も多く、また数も限られているので、マジョリティー以降の層が住むエリアまで広めていくためには、キャズムを超える前のより一層の盛り上げも必要です。
5-3. 逆風3:人材
国内も同様ですが、特に海外では配達員が不足しているようです。
コロナによる需要の急拡大に追い付いていないという需給バランスの面もありますが、Qコマースのように自社で雇用しようとするサービスの獲得合戦という面もあります。
コストはなるべく抑えたいものの、質のいい配達員を囲い込み続け、また教育を施していく必要があるので、このあたりは非常に難しいコントロールが求められてきます。
(ユーザ同様、配達員としても他社へのスイッチコストが低いので、特に囲い込むためのアメとムチの使い方はフードデリバリー業界においても難しいところです。)
5-4. 逆風4:商品力
配達等のサービス面だけでなく、商品においてもしっかりと競合他社への優位性を示していきたいところです。
取り扱う商品はいわゆるコモディティ化しているものなので、一番の差別化ポイントは"価格"となるわけですが、そのためにはボリュームディスカウントを効かせた調達力が必要になってきます。
もちろん卸売価格で仕入れるものの、大手小売の調達力には到底及ばないので、ある程度利益率を調整する等、ユーザが小売店と対等に見てくれる価格というものを微調整していく必要があります。
逆に小売と組んでしまうのもアリかもしれません。
その際、DXへの大きな投資ができなかったり、乗り遅れた中堅の小売は可能性がある気がします。
また、PBという手も無くは無いですが、これも圧倒的な物量を作るからこそ価格優位性を担保できるので、自前でPBを作るのではなく、これもPBに強い小売と組んで作ってもらう、という手もアリかもしれません。
5-5. 逆風5:競合
これは分かりやすいですね。
完全にコンビニ、スーパー(GMSからパパママショップまで)と競合します。
また、特にコンビニでは顕著ですが、フードデリバリー企業との提携も進んで、30分程度での配達網も広げてきているので、超即配達という利便性・サービス力でどこまで戦えるか。
※買い物代行のInstacartはこのあたりうまく立ち回っていて、(あくまでも配達に徹するサービスの特性上もあり)直接的な競合ではないことを公言しています。
以上、Qコマースに吹くであろうあらゆる逆風を書き出してみました。
フードデリバリー同様にネットワーク外部性が低い業界ですが、総合的な収益力を高めるためにはある程度の規模は必要となり、そのためにはこれからかなりのサービスが自然と収斂していくものと思われます。
まさに、Qコマースのスタートアップ代表格でもあった『1520』は、すでに2021年末で閉鎖となりました。
スタートアップ界隈では普通の話ではありますが、明暗は分かれ始めています。
6.Qコマース進化の道
そろそろ結論に近づいてきました。
ここではいろいろと逆風が吹き荒れる中で、サービスを定着させていくためにどのように進化をしていけばいいのか、色々な面から探っていきます。
6-1. 企業間の買収・統合・提携
(Qコマースの分野に限りませんが)海外では大手による買収が積極的です。
ただ、買収後も大手側にブランドが塗り替えられるよりも、そのまま継続するパターンが多いようですね。
いくつか買収の事例を載せてみます。
また、買収とまではいかないまでも、大手による積極的な投資は行われており、ソフトバンクのようなファンドだけでなく、DoorDash等、完全競合ともいえるような企業も各社に投資をしています。
こちらは市場を拡大させつつ、機を見て取り込む算段なのか、戦略が気になるところですね。
6-2. 商品力の増強
いまQコマースにおいて主流となっている商品は、コンビニで調達できる食料品や各種日用品が主です。
コロナにより中食が増えているとは言っても、国内においてはまだまだ内食率は90%を超えています。
内食に必要なものは何か。
それは野菜、肉、魚等の生鮮食品ですね。
これからのQコマースは生鮮食品の商品力、つまり質の担保と量の確保がとても重要になってくると思います。
とはいえ、保存が効かない生鮮食品を取り扱うには在庫によるロスリスクからは逃れられず、いかにしてこのリスクを低減できるかが運営の肝となってきます。
こちらは中国の生鮮ECの難しさを書いた記事で、その部分を端的に表しています。
このあたりはいかに早く、その商圏における需要(どんなものがどれくらい必要とされているのか)データを取れるかが重要で、そのデータを取るまでの間はコストをかけていく資金力が必要です。
もしくは、中国のOMO型スーパー「盒馬鮮生」のように、来店型倉庫というダークストアから脱却してユーザボリュームを増やすという形もアリだと思います。
こちらは2019年に現地を訪れた際の動画ですが、2018年あたりからすでにここまでの仕組みが構築できていた中国はやっぱりすごい…。
とはいえ、ここまでくるとピッキングに特化した商品配置は難しいので、30分配送が限界かもしれません。
その他の手段としては、これも30分程度の配送にはなってしまいますが、移動スーパーの「とくし丸」のように、他社スーパーと提携して、生鮮食品だけはそちらからピックアップをして配達する、というパターンです。
6-3. サービスの横展開
「商品を短時間で届ける」という単一のサービスだけでなく、収益の手数を増やすことができれば事業は安定してきます。
これは事業自体がある程度進んだ先の話になりますが、「メディア」としての新たな媒体価値を付けるパターンで、メディアとして認知されれば自ずと"広告枠"が生まれてきます。
単純なディスプレイネットワークの仕組みを導入して雑多な広告を表示させるのではなく、自サービスとの親和性を鑑みると、食品メーカー向けに純広告的に展開するのが適していると思います。
クックパッドやクラシルといったレシピ動画サービスが近いことをやっていますが、広告を踏んでも外部サイトに飛ぶのではなく、そのプラットフォーム内の自社商品に遷移するので、もはや広告というよりは上位表示的なものですが、メーカーからするとオンライン上で優良な棚を取るイメージだと思います。
あとは、そもそもどうやって「メディア」としての価値を高められるか。
現状のサービスはどれも商品を注文することに特化していますが、料理系サイトによくある特集記事やコラボ記事など、調理後の料理から逆算して食材の購買に繋げるようなコンテンツは必要ですね。
また、商品ページも理路整然と画一的に商品が並べられているだけなので、一人鍋セットや晩酌セット等、選ぶ手間を省くような商品設計も重要だと思います。
7. Qコマースの最終地点
ようやく最後まで来ました。
これだけ長く書いてきましたが、私個人が考えるQコマースの最終地点は、「ラストワンマイルにおける既存配送網の代替」です。
国内におけるtoBの企業間物流である長距離配送、幹線輸送においては、○○運輸と名のつく様々な企業が行っていますし、ラストワンマイルも含めたtoC的な分かりやすいところだと、ヤマトや佐川、郵便局が配送を行っています。
昨今ではコロナによる在宅率が増えたことや置き配の一般化によって、再配達率は下がっているようですが、以前から配送業者の長時間労働が表面化した「物流クライシス」という大きな社会問題になっています。
ただ、Qコマースの物流網が物流クライシスを解決するとも思っていません。
とはいえ、ラストワンマイルの部分だけを見ると、現状の既存配達網はルート配送を行うため、基本的にはお届け時間を"2~3時間の幅"から、"注文時に"決めておく必要がありますし、お届け日時を決めることすらできない場合もあります。
そしてその仕組みによって再配達や長時間労働が起こるのであれば、ラストワンマイル配達からはQコマースの物流網に渡してしまえばもっと効率化するのでは、と考えています。
適材適所でそれぞれ得意な所だけを担当するイメージですね。
もちろん、間に入る配送業者が増えるので配送コストも(単純に2倍とはならないまでも)増えることになりますが、あくまでも即配&スムーズな受取りを実現するための追加サービスとしてまずは実施してもよいと思います。
すでに国内においてもQコマースの分野は世界に追随するレベルでサービスが進化してきており、特にエニキャリはここ最近大きく物流面での頭角を現してきています。
また、直近でQコマースを本格稼働させた出前館においても、セイノーHDと業務提携を行っており、まだ具体的に表面化していませんが都心だけでなく、地方に至るまでその物流網を広げようとしています。
もちろん、特にラストワンマイルを圧迫する程の物量は年々増えていますが、日々パンクが起こっているわけではなく、繁忙と閑散の波があります。
こちらは、アメリカのコスメECがホリデーシーズンが本格化する前に、DoorDashの配送プラットフォームを導入した記事です。
例えばこういった通常の宅配がピークになる繁忙タイミングにのみ、まずはスポットで導入する、という方法もアリなのではとも思います。
そしてフードや日用品だけでなく、オンライン服薬指導後の処方薬も当日配送のトライアルが開始されています。
かなり長いnoteとなってしまいましたが改めて、Qコマースというものがこれからの時代の新たな配達の形を切り開いていくのか。
はたまた、「○aaS(○○ as a service)」のように「なんでもサービス化!なんでも課金!」のうちの1つとして、web2.0と共に消えゆく運命なのか。
引き続き業界を俯瞰しながら注視していく必要がありますね。
以上。
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