最近の記事

観測者ログ「番犬」

 空を見上げれば、そこにあるのは巨大な機械の天井。辺りを見渡せば天を突くかと勘違いしてしまうほどの巨大な建造物の数々。歩いているのは普通の服やスーツを着こなした多くの種族達。  下層とは雲泥の差がある世界、中層。その世界に彼は足を踏み入れていた。 「やっと・・・やっとあの地獄から抜け出せたぞ・・・!!」  周りの人たちから隠れるようにして路地裏に身を潜めた彼は一人呟く。本来、男はこの場所にいてはいけない人物だ。下層から中層へ上がるためにはある規定を満たさなければらない。

    • 観測者ログ番外編 部長として

       カタカタカタ・・・・  観測者のとある部屋で無機質にタイピングの音が鳴り続く。一人はおでこに冷えピタシートを貼りながら手を動かし、一人は常にエナドリを補給しながら判子を押し、一人は虚ろな目で天井を見ながら独り言を呟いている。  ここは総務部。観測者の心臓部であり、現場に出ていないのに何故か残機使用率が高い場所である。その死因が大抵過労死という過酷な戦場。事件は現場で起こっているんじゃない。会議室で起こっているんだ!! 「この書類はよし。こっちの書類は添削しないとだめ

      • 観測者SS④ 『笑顔の少女』

         ガタンガタンと、暗い夜道を黒鉄の塊が走ってゆく。当の昔に廃止された蒸気機関を搭載したSLが石炭を燃やし、水を蒸発させて力強い音を立てながら疾走する。闇夜を切り裂くように汽笛を上げながら走る姿は、コアなファンが見たら垂涎ものだろう。 「ん・・・?」  そのSLが曳いている客室の一室で、彼女は目を覚ました。起きたばっかでぼーっとする思考だったが、自分の置かれている状況をゆっくりと理解しだす。 「ここは・・・汽車の中かな?」  視界を動かせば、昔ながらの木で造られた車内が目に入る

        • 観測者SS③

          紅VS鋼 「なるほどなるほど・・・」  ラボの最上階にある局長室で、観測者の長たる局長。RGB・コーボーはディスプレイを見て頷く。画面の中には先ほど得られた実験結果のデータが映し出されていた。 「やはり、彼女を引き入れて正解だった。あれだけの劇物を野に離しておくのは危険すぎるからな」  そう言いながら端末を操作すると、つい先日まで二人が戦っていた特別演習室を映し出す。本来ならば無機質で何もない部屋だったのだが、今は全く違う様子が映っている。白い壁は引きはがされたように

        観測者ログ「番犬」

          観測者SS②

          紅VS鋼  戦いは激しさを増す。  次々と繰り広げられる攻防。桜花が切り裂かんとし、ハンマーが相手を打ち砕かんと振るわれる。その度に大気は震えて衝撃波が生まれ、ビルが、道路が、家が、街はあっという間に廃墟と化していく。 「ふむ、今のところはナズナ局員が優勢といったところか」 「質量が味方をしていますね。流石のタケさんでもあれだけの質量を相手にするのは分が悪いといったところでしょう」  二人の攻防を冷静に判断する局長とカルトン。二人が話している後ろでは見学に来た幾人もの

          観測者SS②

          観測者SS①

          紅VS鋼  観測者ラボにある一室。何もない無機質な部屋で二人の女性が向き合っていた。一人は医務課の婦長、ナズナ。もう片方は執行部の隊長、タケ。二人とも軽く肩を動かしたり、準備体操をしたりとこれから起こることに備えて体を温めていた。 「始まるっスね」 「この前はタケさんが僅差で勝ってたし、今日もタケさんが勝つんじゃないかな?」 「分からないよ? ナズナさんはここ最近負けが続いていたから何か対策をしていてもおかしくない」  部屋の外でモニターを眺める局員たちが思い思いに

          観測者SS①

          観測者 ナズナに関するデータ

          本名:ナズナ 出身地:地球 種族:アンドロイド 年齢:不明 性別:女性 詳細  観測者の医務室にいることが珍しい医療向けアンドロイド。神がかり的な医療技術や豊富な医療知識を蓄えており、僅かでも生きていれば助けることができる腕を持っている。  しかし、治療に関することには一切口を挟むことを許さず、患者の反論も許さない。自分の治療法こそが最善だと信じ込んでおり、邪魔をしようとすれば物理的に鎮圧するようになった。とあることから観測者に身を置くようになる。  常に患者

          観測者 ナズナに関するデータ